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雨のちお風呂


天気予報は100%じゃないと知ったのが、今日だ。
普通の雨ならまあしょうがない。小走りで駆け抜けるしかない。しかしこれは少し運が悪すぎじゃないか。
突然の、しかも嵐並みの大雨に、1分足らずで真田も馨も下着までびっしょりになった。

彼が一人で暮らすマンションまで、あと5分となかったのに。
言いかえればあと5分早ければこんなことにはならなかったのだ。
馨が真田の大学まで迎えに行って、久しぶりの二人きりの帰り道に浮かれてコンビニに寄り道なんかしなければ。 だって、だいすきなチョコレートのアイスを買ってくれるって言ったから。それが嬉しかっただけなのに。
今更そんなことを言ってもどうしようもない。二人は同時にそう思う。

雨はそれはもう容赦なかった。ひどく大きな音を立てて肌を突き刺す。まるで氷水につかっているように冷たい。
幸いなのは冬ではないということだが、それでも朝晩は冷え込むこの時期にはつらかった。
やっとの思いで部屋の前までたどり着いた。全力疾走は久しぶりだ。二人とも肩で息をしている。
「鍵・・・、鍵」
ポケットを探る真田。もちろんそのポケットの中もびしょ濡れだ。
張り付いているようでなかなか取り出せない。立ち止まっていると、髪や服や指先から落ちるしずくで見る見るうちに下に水たまりができる。
「くそ」
「は、はやくー」
「わかってる!」
開錠時間3分。ずいぶんかかってしまった。空き巣に例えるならば確実に捕まっている最悪なタイムだ。 二人一緒に玄関に入り、ひとまず荷物を足元に置いた。馨は小さく涙ぐむ。
「うぅ・・・アイスがべっちょりに」
「また買ってやる」
肩を落としているその隣で、真田は躊躇なく服を脱ぎ始めた。水を含んでずいぶん重くなっている。
「えっ、ちょ、ちょ」
「ばか、風邪ひくだろこのままじゃ」
それはもっともだ。けど場所が違うだろう。 ああ、でも確かに現実的に、このまま進めば部屋は悲惨なことになる。 それはわかってる。けどここは顔を赤くしてためらうのが乙女のたしなみだろう。
上半身裸になった彼をチラリと盗み見る。 ああ、あれだ。あれ。水も滴るいい男。その表現はまさにこの人のためにあるんじゃなかろうか。いや、そのはずだ。
とがめられるのを承知で見とれてしまった。濡れた髪が卑怯にも色っぽい。 ベッドの上で見るのとは全然違う。シチュエーションの違いの効果を初めて実感した。

「おい」
「はっ」
やだ、やらしいこと考えてるのがバレた。
でもでもこのまま襲われちゃってもそれはそれで
「ちょっと待ってろ。タオル持ってくる」
「え、あ、・・・はい」
真田はできるだけしずくをたらさないようにして、バスルームへ向かった。
少し。少しだけ残念。一人残った玄関で体が冷えていくのを感じながら、馨は小さくくしゃみをした。

・・・

大きな真っ白いバスタオルを持って、彼はすぐに戻ってきた。
そして玄関でどうすることもできないまま立ち尽くしている馨の頭をタオルで包んだ。
その衝撃で足元がふらついて「わっ」というあんまりかわいくない声も漏れた。 まとめられていた髪の毛は彼の手によって器用にほどかれた。がしがしと少し乱暴に髪の毛を拭かれる。 それが少しだけ・・・いや、とても嬉しかったのは、とりあえず胸の奥にしまっておいた。
そのまま身を任せていると、まるで流れ作業のように濡れた服に手をかけられる。狭い玄関で、思わず大きく後ろに下がった。

「えっ」
「え、じゃない。風邪ひきたいのか」
「あ、えと、自分で」
「いいから。おとなしく言うこと聞け」

なぜかこういう時に文句が言えなくなる。有無を言わさない彼のオーラは高校生の頃と変わらない。
素早く、それでもやさしく。上下とも下着姿になるまで一切抵抗できなかった。 さすがに恥ずかしい。玄関は裸になるところじゃない。が、それよりも体が冷え切っていて寒い。すると、突然抱き上げられた。 一瞬で体が宙に浮く。相変わらずの頼もしい腕だ。
「ひゃあ!」
冷たい肌と肌が触れ合って、なんだか妙な気持ちになる。そこだけ少しずつあたたまっていくように感じた。
「え、な、なに!?」
「風呂だ」
「風呂!?」
「だから。おまえは風邪ひきたいのか?」
う、と言葉を詰まらせる。再び黙るはめになる。そのままバスルームへ連行された。

・・・

まさか、こんな日が来るとは。
いや、付き合っていく上でいつかは来るんじゃないかとは思っていたが。 それにしても心の準備というものがある。同じ裸になるのでも、ベッドの上とお風呂じゃぜんぜん違う。 少なくとも女の子はそうだ。それをこの男はわかっているんだろうか・・・。
窓のないバスルームで、さすがに例のセリフ「電気消して」は言いにくい。真っ暗になってしまう。 あれこれ考えているうちに、いつの間にか二人で湯船につかっていた。
「体調不良は免れそうだ」
小さく息をつきながら、安心したような声が聞こえる。湯気のせいで顔がよく見えない。
ワンルームマンションの狭いバスタブ。馨は限界まで体を折り曲げて膝を抱えて丸まっていた。
体の柔らかさには自信がある。見事にコンパクトに収まった。 のぼせそうになりながらも、必死に頭を働かせる。ついさきほどまでのことを思い出してみた。

「お、お、おろして!おろしてー!」
「さわぐな!」
これが騒がずにいられるだろうか。
抱きかかえられてこんなに激しく抵抗したのは初めてだ。結構本気なのに、びくともしないところが少し悔しい。 バスルームに入ると、言葉とは裏腹にとてもやさしく下ろしてくれた。 安心したのも束の間、すぐに下着に手をかけられた。濡れた布が肌にくっついて、鳥肌が立つほど冷たかった。
「ちょ、ちょ、ま、まって!」
「変な誤解するな!」
「・・・っ、くしゅっ」
「・・・」
「あ、・・・」
「ほら見ろ!」
「だ、だって、――!!」
恥ずかしすぎて泣きそうになると、それをなだめるように突然のキスをされた。 濡れた髪同士が冷たくて体がびくっと震える。 それでもかまわずに、彼は強引に舌を挿しいれた。
「ん、・・・っ」
トン、と壁に押し付けられる。その隙に、背中に手を回されて器用にホックをはずされた。 ずるい。ほんとうにずるい、この人は。 水を含んでぐっしょりと重くなったブラジャーは、そのまま床に落ちた。ゆっくり唇を離される。
「・・・頼むから、言うことを聞いてくれ」
「・・・」
「おまえに風邪をひかれたくない」
そういう懇願するような瞳をするのも、ずるい。
バスルームのドアを開けると、清潔な浴室内から一気に湯気があふれだす。 バスタブにはお湯が張られている最中だった。どうやら最初にタオルを取りに行ったときにはもうお湯張りを始めていたらしい。 いっぱいには程遠いが半身浴にはちょうどいい。馨は一目散に飛び込んだ。
「・・・おい」
「あ、あ、明彦にはこの恥ずかしさなんてわかんないんだから!」
「そうだな、残念ながら俺はこれっぽっちも恥ずかしくはない」
そう言いながら、彼は迷いもなくお湯の中に入ってきた。

そして今に至る。もう10分くらいは経ったろうか。だいぶ体が温まってきた。 どうやら風邪をひかずに済みそうだ。ちょっと強引だったが彼のおかげだろう。 それでも恥ずかしいのは消えない。頼みの綱の湯気はだんだん室内温度の安定によって消えつつあった。 顔も体もはっきり見える。なんで入浴剤が透明なんだろう。未だに体を丸める体勢を崩せなかった。
「そういえば、初めてだな」
向かい合う彼が口を開いた。遠慮がちに目をやる。
「おまえとこうして風呂に入るなんて」
なんと言ったらいいのかわからない。代わりに口元までお湯の中に潜ることにした。幸いすでにお湯は満杯だ。 その照れ方が、男からしたらかわいくて仕方がないことに馨は気づけない。そしてそれが、余計に煽らせるということも。
「なあ」
いつもと少し違う声色に、小さな肩はびくっと反応した。 いくらなんでも少しショックだ。まるで俺が狼みたいじゃないか?――まあ、あまり変わらないか。 たしかあったよな、「男は狼なのよ」って歌が。まったくその通りで、例外なんてない。
「こっち来ないか?」
その言葉に、馨は膝を抱えたまま、泣きそうな瞳をこちらに向けた。 そんな目をされたら無理やりにでも引き寄せたくなる。しかし我慢強く待つことにした。焦っていいことなど一つもない。 器用にも、馨はその体勢のまま体の向きを変えて小さな背中を俺の胸に預けた。 後ろを向いたのは、最後の抵抗だろう。 視線を少し下に落とすと、艶っぽく濡れたうなじがこの上なくきれいだった。 真っ赤に染まった耳たぶも、緊張を隠せない丸い肩も、すべてが誘っているように見えた。 そのまま抱きしめようとして、ふと考える。そしてそのまま馨に触れることなく腕を下ろした。 代わりに彼女の耳元に唇を近づける。馨は固まっている。
「・・・馨」
「は、い」
「その、・・・抱きしめてもいいか?」
返事を聞くまで、何もしないつもりだった。 腕を伸ばせば抱きしめられるし、そのまま顔を近づければキスもできる。ただそのあとに理性を保てる自信がない。 できるなら、このシチュエーションを最大限楽しもうと思った。せっかくの、二人の「初めてのこと」なのだから。 馨の方にはそんな余裕はないようだが。 返事を待つ時間の沈黙はどうにも長い気がして、再び名前を呼んだ。
「馨・・・」
それに反応したように、馨はわずかにこちらに顔を向けた。しかしまだ表情は見えない。 馨はいつからこんな卑怯な手で焦らすようになったんだ。試されているのだろうか。 ならその勝負、受けるまでだと言いたいところだが、負け戦はしたくない。つまりは俺はたぶん勝てない。
「・・・いいだろ?」
焦りと欲望が丸出しになってしまっているこんな声でこんなことを聴いてしまうようじゃ、俺は一生勝てない。 馨はやっとこちらに顔を向けた。赤い瞳はいつもより潤って見える。やっぱり、卑怯だな。そんな目で見つめてくるなんて。 馨は自分から腕を伸ばして俺の首にしがみついた。再び顔は見えなくなった。けれど、代わりに肌が深く触れ合う。 お湯の中で当たる胸の感触は、不思議な感じがした。柔らかく気持ちがいいのは変わりない。
――また少し、大きくなった。付き合い始めの最初と比べるとかなり違うと思う。それが嬉しくないかと言えば、まあ、嘘になる。・・・。 そのまま華奢な背中に腕を回して、より体を密着させた。馨もそれに応えるように強くしがみつく。 そうやって強弱をつけて胸の感触を楽しんでいるなんて、口にしたら殴られるな。真っ赤な顔で殴られる。一晩口をきいてくれないかもしれない。 けどだからと言ってやめる理由にはならない。男なんてそんなもんだ。
ゆっくりと体を離して、自然と目を合わせる。馨の表情はすでにとろけていた。 そんな事実に――自分のすべてを俺にゆだねる切なそうな馨の表情に、興奮しないわけにはいかなかった。 しかし今日は限界まで耐えると決めた。ゆっくりと指先を馨の唇に運んで、そっと撫でる。
「キスは・・・いいか?」
今回もまた返事はなく、代わりに馨から口づけられる。 それは臆病なキスだった。遠慮がちに触れる。確かめるようについばむ。次第にそれは深くて甘いものに変わっていった。 それと同時に、馨の息継ぎのような甘い声が漏れる。それを聞くたびに、抱きしめる腕に力がこもった。 このまま溶けてしまいたい、ふたりで。本気でそう思った。キスだけでそんな風に思う。この続きを思うと一気に体中の血が湧き上がるのを感じた。
充分にやわらかい唇を堪能して、そっと顔を離す。呼吸は深く、熱くなっていた。のぼせるかもしれないという危惧は頭の片隅にすらなかった。 バスルームでのセックスなんて未経験だ。のぼせたらのぼせたで、それでいい。どうだっていいんだ。
すでに体の力が抜けている馨の体を支えて、自分の前に膝立ちにさせる。目の前にある形のいいきれいなふくらみの先端を口に含んだ。 淡い桜色に色づいたそこはとても甘い。本当は味などないのだろうが、まるで砂糖をなめているように甘く感じた。 固くなった先端を舌の上でかわいがるように転がすと、支えた細い体がびくんと反応する。
「ん・・・、や、ぁ・・・っ!」
鼻にかかったような少し高い声が、行為を加速させた。 無意識なのだろう、恥ずかしそうに顔をそむけてしまった。 そういう無駄な抵抗がかわいくてたまらない。すればするほど逆効果だというのに。なぜそれを学習しないんだろう。わざとなのかもしれないな。
抱きしめてもいいか。キスしてもいいか?次はなんだ。何の許可をもらえばいい。
・・・挿れてもいいか、か?大学受験の時以上に頭をフル回転させてもそれ以外の質問が出てこない。 参ったな、今日はできるだけ長引かせようと思ったのに。まったく自分が情けなくなってきた。このままだと俺が先にのぼせる。
「・・・出るか」
「え」
「のぼせるだろ?」
俺がな。それは言わないでおいた。 物足りなそうに俺を見つめる馨をそのまま抱きしめて、湯船から上がった。わかってるから、そんな目で見るな。・・・タガが外れる。 そんなものはとっくに外れてるという指摘は受け付けない。男なんてそんなもんだろ。何度言えばわかる。
馨を片手に抱いたまま、もう片方の腕を伸ばしてシャワーのハンドルに手をかける。 壁に設置されたシャワーから出たお湯は、ちょうどよく馨の肩にかかった。これで体が冷えることもない。それを確認してから、 タイル張りの壁に馨を少し強めに押し付けた。後ろを向かせて、壁に手をつかせる。これから自分が何をされるのかわかっているのか、 馨は照れながらも素直に応じた。いつまでたってもそういう初々しいところがすきだといったら、どんな顔をするだろう。
後ろから、甘い肌を存分に味わった。細い腰を支えていた腕を下の方に伸ばすと、馨はさっきまでとは違う声を出した。 自然に足が開くところを見ると、どうやら焦らしてしまっていたらしい。わざとだし、案外そうでもないかもしれない。 予想通り、熱を帯びたそこは、シャワーのお湯とは違うもので濡れていた。そっと指を挿しいれると、ねっとりといやらしく絡みついてくる。
「ふ、ぁ・・・、あっ」
より深く体を重ねる。1本、2本と入れる指が増えるたびに、馨は立っていられなくなった。そのたびに片手で抱きかかえ直し、そのたびに肌が触れ合った。 ゆっくり指を抜こうとすると、それを嫌がるように締め付けられているのがわかった。 くい、と馨の顎に手をかけてこちらに向かせる。その表情を見ているだけで我慢できなくなる。
「・・・馨?」
「ん・・・っ」
「・・・挿れてもいいか?」
ふと目が合う。体は重なったまま。頭上のシャワーだけが絶え間なく水音をたてていた。 馨は小さくうなづく。今日は少し、遠回りをすることにした。なぜなら今日はそうすると決めたから。
「・・・どうするかな」
「えっ」
「やっぱりやめるか」
「・・・っ」
もちろんそんな気はみじんもない。ただ少し困らせたかった。焦らしたかったのかもしれない。 もしくはこれが聞きたかっただけ。いや、確実にそうか。自分で言うのもなんだが、悪趣味だな。
「・・やだっ」
「ん?」
「・・・おねがい」
「・・・」
「・・・、いれて、おねがい・・」
実際に言われてみると、予想以上だった。泣きながらそんなことを恋人に言わせてしまうなんて、いいのだろうか。 少しの罪悪感と、どうしようもないかわいさと、支配欲が入り混じる。懇願する赤い瞳を見つめながら、細い腰を強めにつかんだ。
「――、っ!!」
後ろから、固くなった熱の塊を躊躇なく一気に奥まで挿しいれる。その衝撃に馨は声にならない声を上げた。 それを待っていたように、待ちくたびれたように強く締め付けてくる。とめどなくあふれる彼女の蜜が、音を立てながらお湯と一緒に滴り落ちていく。 それを楽しみながら、快感の波の中にいる馨の耳元にそっと唇を寄せた。
「かわいいな、おまえは・・・」
いつもならそんなことを微笑みながら囁けば、顔を真っ赤にしてそっぽを向かれる。 しかしこんな時にそんなことで照れている余裕は女にはない。だから、存分にかわいがることができた。 どこをどんなふうに攻めればどんな反応を示すのか、手に取るようにわかっていた。長く付き合っていればこその特権だと思っている。
「ん、く・・・っ、はぁ・・・っ」
そうやって重点的に突き上げれば、馨の満足そうな顔が見られる。それは充分に俺の胸を満たした。
「・・・っ、あ、き・・・」
「・・・なんだ?」
馨はせわしない呼吸をしながら、こちらに顔を向けた。 かわいらしい声で必死に名前を呼ばれる。それにこたえるように、俺も顔を寄せる。腰をつかんだ手はそのまま、休めることもない。むしろそれは加速していった。
「すき・・・」
「・・・俺も、好きだ・・・、馨・・・」
「・・・ッ、ぁ、も・・・だめ、い、――ッ」

馨の消え入りそうな声と共に、絶頂を迎えた。 さっきまでの激しさが嘘のように、脈打ちながら彼女の中に溶け込んでいる。 そのたびに内部は小さく痙攣しながら、名残惜しそうに絡みついた。
「っ・・・は・・・ぁ・・・」
思わず熱い息が漏れてしまうのは、仕方がなかった。 下半身を俺に預けたまま、馨は力なく頬を濡れた壁にぺったりと押し付けていた。 脱力して、立っているのがつらいらしい。・・・かわいいな。気づかれないように小さく笑って、再び手を伸ばしてシャワーを止めた。 頬に張り付いた茶色い髪をそっと避けてやりながら、壁にもたれたままの馨にそっと寄り添った。まだ息は荒く脈も速い。それはお互い様だ。
「・・・馨」
「ん・・」
「もう一度風呂入るのとこのまま出るの・・・どっちがいいだろうな」

・・・

結局あの後はすぐに出てしまった。 馨が想像以上にくったりしていたからだ。だからこうして俺が馨の髪を乾かしている。 ドライヤーを部屋まで持ってきて、馨はソファに背中を預けて俺がその後ろに立つ。雨はまだ止まない。 女性の髪を乾かす経験なんて、当たり前だがゼロだ。馨に何を聞いても「ん」しか返ってこない。 まあこれは珍しいことじゃない。セックスした後の馨は借りてきた猫のように急におとなしくなる。
「・・・馨」
「ん」
「毎回乾かすの、大変だろ」
「んー・・・慣れです」
「なるほど」
手触りのいい長い髪を触っていると、なんだか満たされた気持ちになる。 それにしてもずいぶん時間がかかるんだな、女の髪は。

「まあ、俺はおまえの長い髪、好きだしな」
後ろからそうつぶやくと、馨は振り向かずに小さく頷いた。 その時思い出した。玄関に長時間放置しっぱなしの、びっしょり濡れた荷物や服のことを。 たいしたものはないからいい。財布も携帯も一応は無事だった。バッグも乾かせばなんとかなるだろ。 ただ、夕食の買い物はもう一度行き直さないとならない。仕方ない。髪を乾かして、あたたかいコーヒーを飲んで、 大きな傘を持ってもう一度出かけるか。その頃には、馨の気力も戻っているだろう。

そして帰ってきたら今度はちゃんと、二人でお風呂に入ろう。

2011/11/17

お風呂×真田先輩=HENTAIということがわかりました。書いて初めてわかりました。 がっつきすぎノリノリすぎです。それは荒垣さんの専売特許なのに!(月コミュにおける偏見) 真田先輩には少し自制心を持っていただきたい!!それは私か!