桃のお誘い


ぷはー、という気持ちのいい声が俺の耳に届いた。
冷蔵庫の方に目をやれば、馨がミネラルウォーターのボトルを持って、腰に手を当てている。
風呂上がりで長い髪はほどかれていた。それはいいのだが・・・ぷはーって、おまえはオヤジか?
そんな小さな心の声が届いたのかどうかは知らないが、馨は俺に目を向けた。
何を考えているのかわからないような表情で、こちらにやってきた。

「なあに?」
「べつに」
「順平みたい、とか思ったんでしょ」
「そんなところだ」

ベッドに浅く腰掛けている俺の横に、馨も同じように腰を下ろした。スプリングの効いたベッドが軽くしなる。
手にはまだペットボトル。中身はもうカラに近い。密着というわけでも離れているというわけでもない、まあ普通の距離。
正直な俺の気持ちを聞いてすっきりしたのか、馨は機嫌よさそうにしている。その内容はどうでもいいらしい。

思わず”そこ”にチラリと目が行ってしまうのは、今回も俺のせいじゃない。
男からしたら短すぎるホットパンツから伸びる長くきれいな脚はいつ見ても飽きない。
特にその太ももの面積は反則だと思う。よく、こんな下着みたいなものを平気で履けるな。
白くてやわらかくてなめらかで。そんな魅力的な太ももを、こんなに風に見せつけないでほしい。
じろじろ見たわけではない。盗み見るというのがぴったりだ。あまりいい表現じゃないが。
顔だって動かしていないし、すぐに視線を逸らした。なのに、馨は気づいたようだった。
小さく笑って斜め下から顔を覗き込まれる。その懐の入り込み方は普通じゃできない。
いや、俺が馨に甘いだけか。馨はいつも通りの口調でこう聞いた。

「したいの?」
「したい」

随分ストレートな物言いだ。しかし俺は間をあけずに、表情を変えずに、つまり真顔でそう返した。
俺の返事を聞いても、馨の笑顔は変わらない。
「・・・、素直ね」
「正直と言え」
「同じ意味じゃない」
「うるさい。言わせるな」
馨の可笑しそうな笑顔につられて、俺も声に照れくささが混じってきた。
ほのかに熱を帯びた頬に手を伸ばして軽くつねると、馨は「えへへ」と小さく笑った。
やっぱりこいつにはかなわない。たいしたものだ。

「そんな恰好してるからだ」
「かわいいでしょ?」
「・・・まあな」
「わざとだもん」

馨はさらりとそう言って、俺との距離を一気に縮めた。

2011/11/23
うちのはむこは誘い受けがとても上手です。