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愛の病


そのかわいい顔で泣いてすがられるのが好きだと言ったら、馨はどんな顔をするだろうか。
それが見たいがために、つい意地悪くしてしまう。そういうのが嫌じゃないようだからさらに調子に乗ってしまう。 本当に嫌なら噛みつかれてる。嫌なものは嫌、馨はそういう女だ。
しかし例外もある。セックスの時の馨の「いやだ」は「いい」にしか聞こえない。あるいは「もっと」か。脳内補正される。どちらかは定かではないが、そそられるような表情なのは確かだ。 そういうところもひっくるめて好きだ。すべてが。
気分が乗らないときの断り方があからさまですがすがしいくらいなのも、 自分からしたいときは俺の上にのってくるくせに、そのあと一向に何もしないで照れているのも。
飽きるということがない。白い肌はいつでもきれいでなめらかだし、甘いにおいに一気にスイッチが入る。
もう何回と同じことを繰り返しているのに、同じ日なんてまるでない。不思議だ。
好きで、欲しくてたまらなくて、その最終手段がセックスという行為なら、それを繰り返していくしかない。
なら飽きないというのは、まだ足りない、ということだろうか。
それは今日も、例外なく。好きで、欲しくてたまらなかった。

「あ、ぁ…ッ!」
ず、と音を立てて、抑えきれない情動を一気にぶつけるとさっきまでとは違う高い声が返ってきた。
苦しそうな、擦り切れそうな弱々しい声。発音もままならずに、熱くせわしない細かい呼吸と一緒に漏れてくる。
彼女の事情をすべて無視して自分勝手に、強引に腰を動かして奥まで突いてまた引き抜く。ギリギリまで。 そのたびに彼女の中は収縮して、俺を逃がそうとしなかった。欲しくてたまらないのは、馨も同じようだった。 それを繰り返すと、甘く溶けそうな喘ぎ声は顕著になっていった。
「や、あッ…、ん、」
それを耳元で感じられないのがすこぶる悔しい。直接感じられる彼女の快感の度合い、 すなわち甘い声は、思わずぞっとする――それこそ、それだけで果ててしまいそうなほどの刺激なのに。
代わりに今日は眺めがいい。馨は腰を高く上げてそのまま俺に突き出している。 すらっと細い上半身は緊張したままベッドに投げ出され、必死にシーツをつかんでいる。なめらかにのけぞる腰と背中は文句なしにきれいで、官能的だった。
乱れた髪の隙間から見える恥ずかしそうな横顔は、何とも言えなかった。こうして後ろから見下ろす光景は、充分すぎるほどだった。
ぶつけるたびに彼女の体が小さく揺れる。顔の横で強く握られたその手は、そのたびに必死にシーツをつかみ直していた。 ぎゅっとつぶった瞳は時々開いて、助けを求めるように弱々しく俺を見上げた。かわいい。本当に。 しかし一旦奥に挿れたまま動きを止めて、名前を呼んだ。物足りなげに締め付けてくるのがたまらなくかわいい。
「馨」
「ん・・・」
「おまえ・・・後ろから挿れられる方が好きだろ」
「!!」
さっきまでのうつろな瞳はどこに行ったのか、馨は目を瞬かせた。腕を支えにして体を起こし、腰をひねって俺の方を向く。 予想通りの反応に、つい口元が緩んだ。こういうのを性格が悪いというのだろうか。
「な、なに、いきなりなに!」
何もしていないのに抵抗された。さっきまで身を任せていたというのに、俺から離れようとする。まったくどこまでもかわいい反応だ。 もちろん逃がしてなんかやらない。むしろ細い腰をつかむ手に力をこめて、より強く突き上げる。
「ッ、あ、ぁ、やだ…ぁッ!」
「前から・・・思ってたんだが」
「ん、…っ、は、ぁ」
「隠してたつもりか?反応が全然違う」
「や、だっ、も…だめ、あ、ぁ、――ッ!!」
こわばっていた身体が一瞬動きを止め、ゆっくり痙攣しながら、自由になっていた上半身は崩れ落ちた。
まだ繋がったまま、ぬるく熱い膣内が完全に溶けきったのがわかる。馨は満たされたように、大きく肩で息をしていた。 このまま寝かせてやればきっといい夢が見れるだろう。俺はそっと髪を撫でて肩を貸してやればいい。でも今日はだめだ。
「まだだ」
「え」
「足りないだろ?」
同化したんじゃないかと思うくらいのそこから引き抜いて、力の入らない馨の体を半ば強引にひっくり返した。厚みがない上に軽いから容易だ。
ぼすん、という軽い衝撃と共にそのまま覆いかぶさった。視線の先の柔らかそうな二つのふくらみはずいぶん懐かしくも思える。 後ろからの眺めもいいが、これはこれで、やはりいい。さっきまでできなかった分を埋めるようにぐっと顔を引き寄せる。
赤い瞳には涙がたまっている。ついさっきまでの快感と、今の羞恥心と、これからの期待。その涙にはすべてが混じっているように思う。 まだせわしない熱い呼吸が頬にかかる。そこから感じる熱がさらに俺を増長させた。
「まだ足りないだろ」
「・・・ッ」
「おまえは淫乱だからな」
ふ、と笑って細い顎に手をかける。その時の馨の顔と言ったら。そういう顔をするから調子に乗りたくなるんだ。 馨が裏返った声で反論するのは見えていた。だから呼吸を奪うほどの激しいキスをしたのは、先手を打ったまでだ。
強引に開かせて舌を挿しいれる。いつもは同じように、それでも少し遠慮がちに舌を絡ませてくる馨は、戸惑ったように反応しきれていなかった。 もちろん抵抗される。だがそれは受け入れの抵抗だと知っていた。だから力づくで手首をシーツにつなぎとめて、身体を浮かせられなくする。
力が入らなくなったのを見計らって、強く抱きしめる。そうしてゆっくり濡れた唇を離せば、もうすっかりおとなしい。 それを確認して、ベッドの下に落ちていた、つい数十分前に脱ぎ捨てた俺のシャツを取り上げた。
長袖だし、素材は薄いし、長さは充分すぎるくらいだ。細い両手首を頭上にあげて、シャツの袖の部分で縛って固定する。 不思議そうにそれを見ていた馨も、さすがに理解したのか慌て始めた。だが遅い。きつくなりすぎない程度に結びつけた。
「なら、こういうのは好きか?」
「な・・・っ、」
「いい眺めだ。無理やり犯したくなる」
「ッ、バカエッチ変態!!」
「褒め言葉か?」
「ちが・・・や、やだッ、だめ」
「馬鹿だな」
「・・・ッ」
「嫌がられるほど責めたくなるって、知らないだろ」
「んっ・・・」
「それともわざとか?」
「・・・」
「やっぱり淫乱だな」
意地悪く笑うと、馨はやっぱりわざとしか思えないような顔で俺をにらんだ。

・・・

手首を縛られて男にいいようにされる女の気持ちは俺にはわからない。
ただ、精神的にも視覚的にも、男にとっては支配欲を刺激される光景であるのは確かだ。
熱く火照った薄い肌に愛撫を繰り返す。あれからまだ挿れてもいないのに、暴発寸前だった。 ・・・、まずいな、手加減できそうにない。しかしまだ焦らしていたい。贅沢な矛盾が思考回路を占拠する。
首筋を、唇を、乳房を、耳を、十分すぎるほどかわいがって、そっと下腹部に手を伸ばした。 反射なのか、馨は細い腰を大きくのけぞらせた。口元を押さえたくても手が動かない。 もどかしそうなその顔が、たまらなかった。
脚の間の割れ目に指を当てると、肌の感触がわからないほど潤っていた。 溢れた蜜はシーツまで濡らしている。上も下も、責め立てないわけにはいかない。
「どうしたんだ」
「…ん…っ」
「こんなに濡らして」
「…ッ」
耳元でそうささやくと、馨はかあっと頬を染めて反対側にそっぽを向く。無駄な抵抗だ。
それに小さく笑って、濡れた秘部をゆっくりと指でさする。すぐにでもめちゃくちゃにしたい。この我慢は結構きつい。
くちゅ、という音ははっきりとお互いの耳に届くほどクリアに聞こえた。馨は耳まで真っ赤にして、何かに耐えている。 なら耐えられないくらいに乱せばいい。もう知り尽くしたと言っても過言ではない、気持ちのいい箇所をそっと責める。 そっと、だ。このまま2回目の絶頂を与えては意味がない。
「ん…、や、…ッ」
甘い声を発しながら、表情は満足げとは言い難い。無意識なのだろう、首を小さく振って身をよじっている。 言いたいことはわかる。意地悪くしている俺が悪者のように思えてきた。
「…、ね、ぇ」
「なんだ」
「…、ちゃんと」
「ん?」
「…、…、」
「そんな顔してもわからない。ちゃんと言ってみろ」
「…も、…恥ずかしくて…やだ」
「ならずっとこのままだ」
「それも…やだ」
「ほら」
「ちゃんと…さわって」
「ああ…それで?」
「きもちよく、して…」
宝石のような赤い瞳から、一筋涙が流れた。懇願するように俺を見上げている。 形のいい眉は頼りなく下がっている。――勝った。いや、負けた。あえて勝敗をつけるならそうだ。 勝ったし負けた。そう言わせた俺は勝ったが、そう言われて我慢できなくなった俺は負けたのだ。
「・・・最初に謝っとく」
「な、に?」
「手加減できそうにない・・・」
言葉の通り、細い腰を引き寄ると、いきり立った欲望の塊を一気にあてがった。 押し込むというよりも吸い込まれる。それくらい、馨の中は俺を欲しがっていた。 その刺激だけで限界の糸が切れそうになる。思わず声が漏れた。もう何も考えられない。 奥まで突き上げるように動くと、華奢な背中は、びくんと大きくのけぞった。
「ふ、あ、ぁ…ッ」
かすれるような声と消えていく語尾。その感覚が狭まるのに時間はかからなかった。 密着させていた上半身を離してぐっと前進すると、自然に馨の腰が高くなり角度も変わる。 これでより深くまで暴けることを知っていた。視線を下に落とすと、やさしさなんて欠片のない、ただの凌辱行為に目が奪われる。 一切の抵抗ができないよう手首まで縛っているのだからなおさらそうだ。 その結合部自体にも、その向こうの恥ずかしそうな、しかし満足そうな馨の顔にもどうしようもなく興奮しているのも事実だ。 ふと行為が始まる前に思いめぐらせていたことを思い出した。――飽きるわけない。こうして馨を抱くことに飽きることなんてありえない。
「…、あ、きひこ、も…、私、だめ…、」
いつもなら限界が近づくと、馨は腕を伸ばして俺の首にしがみつく。 今日はそれができない。それがわかった瞬間、ほんの一瞬だけ、馨の自由を奪ったことを後悔した。 けどすぐに消え去った。なら俺がそばに行けばいい。抱きしめられるような体勢に戻って、深く口づける。
「んッ、ん…、は、ぁ…ッ」
「馨……、ッ」
「…あ、ぁ…ッ!」
何かがはちきれたような瞬間。いつもこうだ。 そして気づくと、どくん、どくんと脈打つそこだけがやたらリアルに感じる。 汗で肌が張り付くのを感じながら、ふと顔を上げて彼女の顔を視界に入れる。 小さな声で名前を呼んで、かすめるだけのキスをして、再び脱力した。

・・・

手首を縛ったそれをほどく時、馨はやっぱり恨めしそうに俺をにらんだ。 落ち着いて、裸のままで、なんでこんな状態にさらされなきゃいけない。赤い瞳はそう訴えていた。 結び目をほどいて再びシャツを下に放る。やっと自由になった腕を、馨はまず下におろした。
「痛かったか?」
「・・・ううん」
「そうか」
「なんか、いろいろ失った気がする」
「それはよかった」
「よくない」
「よくなかったのか?」
質問の意味を取り違えたまま返す。 それは馨にも伝わったようだ。
「・・・」
「正直に言えばいいのに」
「だって」
ベッドの反対側に散乱していた下着を拾い集めながら、馨はそのまま口を濁した。
「なんだ、もう服着るのか」
「・・・」
「もう少しこのままでいたい」
「わがままね」
「おまえほどじゃない。ほら、こっち来い」

そうして抱き寄せた華奢な身体。
急激な眠気に襲われるまで、ずっと撫でていた。伝えきれなかった愛しさを伝えるように。
よくなかったのか、という俺の言葉に馨はずっと答えを考えていたようだ。
「・・・明彦とのエッチが気持ちよくないわけないじゃない」
それを耳元で言われたのは睡魔に意識を絡め取られた後だった。
どうしてあともう1分だけ、起きていられなかったんだろう。

2011/12/15

要は相性がいいということです。 この二人のエッチは頻度が少なそうなぶん、毎回濃厚そうだなっていう妄想。時系列はご想像にお任せします。