初めてぬくもりを感じた日
遮光性があるとは言えない部屋のカーテンから、やわらかい光が漏れてくる。
もぞもぞと毛布から顔を出して、馨は枕元のデジタル時計を確認した。
「先輩」
「・・・ん」
「朝ですよ」
「ああ」
5時だ。普段はぜったいに見られない彼の寝顔を見たいがための無意識の早起きだったのかもしれない。
期待通り、「けだるそう」とまではいかないまでも「眠たそう」な無防備な表情を見ることができた。
確かに感じる体温と、床に散乱した服を見て、昨日の夜のことは夢じゃないんだと実感する。それは恥ずかしかったし、嬉しかった。
真田が腕を上げて目をこすると、それと同時に毛布がずれる。隣でそれを眺めるのは、なんだか味わったことのない幸せだった。
無意識なのかわざとなのか、寝返りを打つように抱きしめられる。閉じられたままの瞳からはうかがい知ることができない。
力のない抱擁に素直に応じた。触れ合う肌が心地いい。
「・・・朝か」
「はい」
「早いな・・・」
「ほんとですね」
「学校・・・行きたくないな」
少しかすれたその声は、思いもよらない言葉を発した。
思わず顔を上げると、それを阻止するように再び抱きすくめられる。
「もったいないじゃないか。ずっとこうしてたいのに」
「・・・」
「離したくないな」
なんとなくいつもと違う。口調だったり言葉の選び方だったり。
甘えられている、のだろうか。そう思った途端に、言いようのない愛しさがこみあげてくる。
背中に回す腕にも力が入った。
「意外とわがままなんですね」
「悪いか?」
「いいえ。すきです、そういうのも」
「ならよかった」
「私も・・・このままでいたいです」
どうやらもう目は覚めきったようで、大きな手は馨の茶色い髪を撫でるように梳かしている。
寝癖のひどい長い髪は、途中で指をひっかける。すると慌てて、いたわるように優しく撫でられた。
もう少しこのままでいたい。
あと30分たったら、また考えよう。
2011/12/23
君と想い出・十題 「初めてぬくもりを感じた日」…thanks! リライト