星占い


今日の1位はおとめ座のあなた。愛を深めるには最適な日です。
ラッキースポットは、学校の廊下――。


小田桐に口癖のように言われる言葉がある。廊下は走るなよ、と。 わかってはいるのだが、なんだかんだでいろいろ忙しい身であるから時間が惜しい。 今日も小走りで職員室に向かっていた。昼休みは終わりそうだ。曲がり角に差し掛かり、スピードを緩めた。

「あっ」
「・・・あ」

曲がり角で鉢合わせたのは、真田だった。偶然というには運が良すぎる。学年が違うため、学校で会えるのは珍しい。 ぶつかりはしなかったが、距離は近い。曲がり角で止まって向き合ったまま、なんとなく動けなかった。 毎日顔を見ているのに、なんとなく新鮮な気がする。場所が違うから。そうかもしれない。顔を見つめていると恥ずかしくなってくる。 それはお互い様だった。

「・・・あ、えと」
「・・・」
「先輩、どこ行くんですか?」
「ああ、5限は実習なんだ」
「そうですか・・・」
言葉の通り、真田は数冊の教科書を脇に抱えていた。その姿さえ、なんだか様になって見える。要はかっこいい。惚れた欲目でもなんでもなく、かっこいいのだ。
普通なら。普通ならこの程度の会話を交わして別れればいい。お互い急いでいるのだし、それ以外の選択肢すらない。 しかしどうして足が動かないのか。

「・・・」
「・・・」
「顔が赤いな」
「えっ!?」
予想外の指摘に、馨は慌てて頬に手を当てる。パチン、という音と共にポニーテールが小さく揺れた。 それを見て、こうして至近距離で感じで、目元口元が緩まずにはいられない。真田はそれを隠すように軽く咳払いをした。
「おまえは?」
「あ、職員室に」
「生徒会か」
「はい」

こうして顔を合わせてから、おそらく3分は経った。偶然通りすがっただけにしてはかなり長い。周りの生徒も、こちらをちらちら見ていた。 もちろん二人がそんな軽い好奇心の視線に気付くはずもなく。今見えているのはお互いの姿だけだ。 ふと予鈴が鳴った。足を動かさずにはいられない状況になった。
「・・・じゃあな」
「あ・・・はい」
「今日は部活だろ?」
「先輩も」
「ああ」
先に一歩踏み出したのは馨だった。少し距離が遠くなる。思いがけない偶然だけでラッキーだと思えたのに、どうして今はこんなにさみしいのか。
「・・・馨」
ふと名前を呼ばれた。反射的に振り返る。
「星占いも、あながち馬鹿にできないな」
「えっ?」
「今日はラッキーだ」
「・・・」
「おまえに会えたからな」

声をかけようとしたときには、もう彼は振り向かなかった。いつまで見ても飽きないその後ろ姿を、見えなくなるまで見届けたいと思った。 けれどそんな時間はない。表情に名残惜しさを残したまま、踵を翻して職員室へ急いだ。 鼓動はまだ、うるさく鳴り響いている。

2012/01/08
顔見るだけでドキドキするって、いいなあ。真田先輩のコミュが「星」なのも、すてきです。