SUNDAY


1月24日、日曜日。
ニュクスを倒せなければ、人生最後となる日曜日。どうやって過ごそうか、目が覚めたベッドの中で考えていた。
それを見計らったような着信。それが誰なのか、なんとなくわかっていた。口元が緩むのを感じながら、静かに目を閉じて携帯を耳に当てれば、ほらやっぱり。 いつもの口調の中に、照れと優しさが混じったいつもの声で、「もしもし、俺だ。・・・馨」と――私の名前を呼んでくれた。

「いい天気だな」

こうして休みの日に一緒に出掛けることは珍しくなくなってきた。付き合う前も、付き合ってる今も。
冷たい風の吹くがらんとした街は、異様な雰囲気が漂っていた。 あちこちにあるカルトめいた張り紙や落書き。それを見るたび「現実」を感じる。デートというにはあまりにも雰囲気が欠けている。
やってきたのは長鳴神社だった。誰もいなく、いつもより広く感じる。 先輩は私の手を引いたまま、「せっかくだからお参りでもしていかないか」と言った。いつか聞いたことのある台詞だと感じながら、私は黙って頷く。 離れていきそうだった手をしっかりと繋ぎ直した。

賽銭を入れて二人並んで手を合わせる。顔を上げたのは同じタイミングだったようで、ふと目があって自然に微笑んだ。
「初詣以来ですね」
こうしてここに来るの。
そう言い足して、くるりと背を向けて歩き始めた。先輩もそれに続いて、すぐに手を取られる。離れていってしまわないように。

「何度か二人で来たこともあったな」
その言葉に、私は少し赤面する。先輩は「どうした?」と私の顔を覗き込んだ。
意味もなく神社の中をゆっくり歩きながら、ぽつぽつと口を開く。思い出すのは今日と同じように、二人で神社に来た時のこと。

「秋だったと思うんですけど」
「ああ」
「先輩が何をお願いしたんだって私に聞いたから」
「ああ」
「先輩との未来って正直に言ったら」
「・・・ああ」
頭の中にその時の記憶を引き出したのか、先輩の「ああ」は少しだけ声色が変わった。
「ハハッて笑われて」
「・・・」
「馬鹿だなおまえは。そんなこと神様に頼まなくても、俺が必ず叶えてやるさ。約束してやる、だから神様より俺を信じろ。って」
「ちょっと待て。なんでそんな一字一句完璧に覚えてるんだ」
先輩は驚いたように目を見張って私を見た。私は構わずさらに続ける。
「返事は『はい』だ。それ以外は聞かな」
「ストップ」
むぐ、と口元を手のひらでおおわれる。ちらりと彼の顔を見上げると、聞くに堪えないとでも言いたげな複雑な表情。 行くぞ、とだけ言われて再び手を取られる。少し強引に。それが嬉しかったのは言うまでもなく。
ねえ先輩、あんなプロポーズめいたことを言われて、それを忘れるわけないと思わない?


神社を後にして、特に行くあてもなく二人で並んで歩いた。楽しむためとは言い難い。何かを一つ一つ、確認するように。
「不安か」
日が暮れる前、寮を目の前にしたところで先輩はこう言った。つないだ手はまだ離れない。
なにが、とは聞かないし聞かれない。そんなことはわかりきっていた。今日が最後の日曜日になるかもしれない。
「少し」とだけ言って軽くうつむくと、「俺もだ」と小さな溜息と共に返事が返ってきた。二人の足は道の端っこで止まっていた。

「俺はおまえの何だと思う?」
予想外の質問に、顔を上げたがその表情からは何も読み取れない。ただ黙って瞳を見つめて、次の言葉を待った。

「恋人である前に仲間だろ」
つないだ手はいつの間にか離れて、その手は私の肩に置かれていた。ぽん、と励ますようにたたかれて、そのまま引き寄せられる。 寒いのにあたたかい。その矛盾を実感するたびに嬉しくなった。
「もう一人でなんとかしようなんて馬鹿な事は考えてないだろう」
疑問、問責というか確認。そういう語尾の下げ方で、やさしい気持ちは伝わってきた。

「一人で二役はなかなか大変だが楽しいな」

本当に嬉しそうにそう言った真田先輩の横顔が、今もずっと印象に残っている。
笑うとちょっとだけ幼く見える。やわらかく下がった目じりが少しかわいい。

あれから何年もたった今もその笑顔は変わらない。
一緒に過ごせる最後の日曜日は、まだまだ果てしなく先のことだ。

2012/01/14
ずっと一緒にいてほしいので。