決死の戦い 02
その日はたまたま全員が寮にいて、荒垣の作った夕食を囲んでいるところだった。
ふと、馨の隣にいた天田が口を開いたのだ。
「馨さんは、どんな男の人が好きですか?」と――
「・・・!」
馨とは少し離れたところに座っている真田と、
エプロン姿のまま料理を運ぶ荒垣は、同じような表情を見せた。
「あっ、それあたしも聞きたーい!馨って全然男っ気ないんだもん」
「私の蓄積データにもそのような情報はないであります」
「馨ちゃん、モテるのになんだかもったいないです」
「だよなあ・・・馨っち、誰とでも分け隔てなーく、つきあうからなあ」
学校での身近な馨を知る2年生組は楽しそうだ。
「それにしても天田ー、そんなこと聞くなんて、おまえまさか・・・?」
順平は料理をほおばりながら、わざとらしくからかうような口調で天田の肩をつつく。
「ち、ちがいますよ!か、馨さんみたいな大人の女の人が憧れるような男になれたらなって・・・」
天田は顔を赤くして弁解した。
それはもう「馨の好きなタイプになりたい」と言っているようなものだと、
本人は気づいてすらいないだろう。
「んで、どーなのよ馨っち!」
「順平キモイ」
「ヒドッ!ゆかりっちオレにつめたくねー?」
「んー、そうだな〜」
当の本人、馨はやっと口を開いた。
「・・・どうした明彦、箸が進まないな」
「えっ?い、いやそんなことはない」
「荒垣先輩も・・・どうしたんですか?立ちっぱなしで・・・」
「や、・・・いま座る」
真田の隣にいた美鶴、荒垣のそばにいた風花がそれぞれ二人の異変に気付いた。
「――やっぱり強い人が好き!」
馨はグラタンを食べる手を止めて、無邪気にそう答えた。
「・・・(僕はまだ馨さんを守れるほど強くない・・・)」
「・・・(素手の勝負じゃ・・・アキにはかなわねえな・・・)」
「なるほどねー!わかるかも。やっぱ守ってもらいたいよね!」
「となると・・・真田サンじゃね?」
自然な流れで皆の視線が真田にいった。
「いーなあ真田サン。ファンクラブまであるのに校内のアイドル馨っちまで自分のものにする気っすかー?」
「!、なっ、た、たとえだろう!オレだと言ったわけじゃ・・・」
「・・・顔が赤いぞ明彦」
「あっ、あとかわいげのある人もいいなって最近思ったよ」
馨はテーブル中央にあるサラダに手を伸ばして思い出したように言った。
「・・・(オ・・・オレにかわいげなんてゼロに等しいだろ・・・)」
「・・・(つ、強いだけじゃだめなのか・・・)」
「最近はやりの草食系?あ、年下ってこと?」
「やったじゃねーか天田、脈アリだとよ」
順平が再び天田をこづいた。
「なっ、か、からかわないでください!べ、べつに嬉しくなんか・・・」
「・・・おまえ嘘下手だな」
「でもやっぱり、一番グッとくるのはギャップかな!」
サラダを食べ終わった馨は、荒垣が持ってきたばかりのデザートを嬉しそうに食べながらそう言った。
「・・・(年下の僕にギャップまで求めるんですか馨さん・・・)」
「・・・(牛丼が好きなことはギャップにはならんか・・・)」
「だよねー!怖い顔してほんとはやさしい、動物好きとか、定番だけどいいよねー」
「荒垣先輩!勝負どころですよ!」
風花は立ち上がって、立ちっぱなしの荒垣の背中を押して椅子に座らせた。
「な、おま、勝手なこと言うな!」
「先輩の料理スキルは誰でもグッときますよ!自信もってください!」
「まーったく、女ってのは欲張りなんだから」
いつの間にか食事を終えていた順平は、呆れたように背もたれに体重を預けている。
「そんな完璧なスキルを備えた人間いるわけないっしょ。コロマルを見習えよー」
「は?なんでそこでコロマル?」
いぶかしい顔をするゆかりをよそに、馨はドッグフードを食べ終えたコロマルの頭を撫でた。
「確かにコロマルはすごくかわいいのに、すっごく強いもんね!頼りにしてるよー」
「ワ・・・ワフッ///」
「馨さんのためなら火の中水の中どこへでも行くと言っています」
アイギスはすかさず代弁した。
「「「・・・・!!!!」」」
(確かに強さ・かわいさ・ギャップを兼ね備えている・・・!)
(オレの拳は犬には届かないというのか・・・)
(・・・い、犬に負けるなんて・・・)
みんなにもてはやされるコロマルをよそに、真田、天田、荒垣は肩を落としていた。
「確かにコロマルは立派な男だな。なくてはならない存在だ」
美鶴がそばにやってきて、馨の胸にいるコロマルをやさしくなでた。
「極論を言えば、美鶴先輩みたいな男の人がいたら、最高なんですけどね」
「フッ、光栄だよ、槇村に見初められるなんてな」
「たしかに美鶴先輩が男だったら、真田先輩以上っすね・・・」
「女でも男でもカッコイイなんて、ずるいですよもう」
「ハハハ・・・」
「・・・負けたな」
「ああ、完敗だ」
「・・・犬にも女性にも僕たちはかなわないってことです」
「だいたい天田、おまえが全員の前であんなこと聞くからこうなったんだ」
「なにもしないままでいるよりはずっといいです」
「少しは頭使え!いくらでも方法はあんだろ」
「ま、まさか大人の男であることをいいことに力づくで馨さんを丸めこむ気ですか!?
見損ないましたよ!」
「だ、だれが力づくだ!筋肉バカよりはマシだ!」
「な、シンジ!それは聞き捨てならんぞ」
「ワフッ・・・・」
「コロマルさん、見てはいけません。醜い男のジェラシーです」
「ん?どうしたのアイギス」
「なんでもありません」
「さーて、おなか一杯になったことだし、そろそろ寝よっか!」
「さー、片付けよー」
「天田―、歯磨いて寝ろよー」
「あ、えと、荒垣先輩、私片付け手伝います・・・」
「おい明彦、さっさと寮の戸締りをしてくれ」
今日も決着はつかなかった・・・。