04 真田明彦の一日


早起きは苦じゃなかった。
睡眠は時間じゃない。質だ。
ここ数年は、目覚まし時計がなくても自然と6時には起きていた。寝起きはいい方だと思う。すぐに覚醒する。
顔を洗って、そのままトレーニングに出かける。まあ、単なる走り込みだが。だがこれを毎日続けているからこその自分がある。
程よく走ってきたら、部屋にて一通りのメニューを軽くこなす。そのための「自室」だ。
トレーニングの後は春夏秋冬、季節を問わず汗をかくので、シャワーを浴びて制服に着替える。おかげで寝癖とは無縁だ。

そしてそのまま寮を出る。だいたいは一人で登校する。
モノレールの中ではたいてい本を読んでいる。内容?――秘密だ。
それにしても、このモノレールに乗ったあたりから、毎日視線を感じ始める。
車内は月高生でいつもそれなりに混雑していて、隣に女子が座った日にはうるさくてかなわない。
ちらちらと視線を感じる。なんだなんだいったい。そんなに俺の読む本が気になるのか?
視線を感じた先に目をやると、たいてい見知らぬ女子がいる。
そして顔を赤くして目をそらされる。・・・おかげで集中できない。

早足で駅から学校まで向かう。
毎朝下駄箱が憂鬱だ。開けると必ず何か入っている。
手紙だったり、食べ物だったりする。毎回この処分にどれだけ頭を悩ませていることか。
俺はいじめにあっているのか?こんな古い手法で・・・。そうだとしたらもっと正々堂々来いと言いたい。
移動中に――彼女の姿を見つけると、どうしても目で追ってしまう。女子の中で少しだけ背の高い、楽しそうに揺れるポニーテールを見つけると、だ。
だいたい隣には誰かがいるから声はかけない。そうやって誰かが日中も彼女の隣にいられること、少しだけ嫉妬する。

昼食は決まっている。本当ならうみうしの牛丼かはがくれのラーメンなのだが、さすがに学校を抜け出すことはない。
購買のおにぎりとパンと自前のプロテイン。これに限る。よく「同じもの食ってて飽きないの?」と言われるが、飽きないから続けているんだ。
たまに、ごくたまに。馨が弁当を作ってくれる。寮を出る前にメールで呼び止められ、こっそりと渡される。
かわいらしい袋に包まれた、明らかに女物の弁当箱。量を考慮したのか、箱は2つ重なっていた。
それがどれほど嬉しいかなんて誰にも言えない。言いたくても言えない。むしろ言いたくない。
それを堂々と机に広げると、クラス全員の視線を集めた。俺は一切気にせず恭しく弁当の前で手を合わせる。馨の手料理にプロテインは必要ない。

放課後はもっぱら部活だ。しかし週2回の休みにはどうしても暇を持て余す。練習場を開放してもらってひたすら打ち込むか、寮に帰ってトレーニングにいそしむか。
それで十分満足だったし、時間に余裕のある高校生という時期を謳歌していたつもりだった。

しかし恋をした。恋をすればおのずと彼女に割く時間が長くなる。二人で食事をしたり出かけたり、意味もなく一緒にいてぼーっとしたり。
リズムは乱されっぱなしだった。しかし不快ではない。むしろ楽しかった。
幸いなのは馨が俺のトレーニングに協力的で、一緒に走ったりしている。タイムを計ってもらったり、記録をしてもらったりする。
馨は俺といるとき専用のジャージも購入した。それを着る頻度は、少なくはない。

夜はラウンジで牛丼を食べる。順平が「またそれっすかー、毎日見てると食欲なくなりますよ」とげんなりしているが、俺には関係ない。
タルタロスに出撃しないときは、決まって夜の見回りを兼ねたロードワークに出かけている。帰ってくるともうラウンジには誰もいなく、薄暗い。
メールの着信していた携帯電話を開き、文面を確認するとどうしても口の端が上がってしまう。
キッチンのカウンターには、小さなホットケーキがラップに包まれて置かれていた。

よかったら、食べてください。馨が送ったメールにはそれだけ書かれていた。
夜食用に、サイズは通常の半分。計量やら何やら面倒だっただろう。そういう細かい気づかいに、感心というかいつも感動している。
薄暗いラウンジで、立ったままホットケーキを口に運ぶ。昼間の弁当以上に、おいしかった。
ありがたく完食して部屋へあがる。そのまま3階の彼女の部屋に行きたくなるのを、いつも必死にこらえている。

2012/01/18
さなはむサイトなので基準は女主ちゃんていう真田先輩の一日。