夜遊び


こういうことのきっかけはたいてい順平であることが多い。
今回もそうだ。彼はふと、
「なァ、ペルソナの力と俺自身の力ってリンクしてんのかな?」と言い出し、おもむろに真田に腕相撲を申し出た。
夜も更けつつあるメンバーの揃ったラウンジでのことだ。

ゆかりはマニキュアを神経質に塗りながら、
「馬鹿じゃないの?よりによって真田先輩に勝てるわけないでしょー?」と冷笑した。
ゆかりの見解は正しい。タルタロスで大剣を振り回している順平だって力はついているだろうが、比較対象がハイレベルすぎる。
真田はグローブを磨く手を止めて、「いいだろう」と余裕の笑みを浮かべて手を差し出した。
順平が右手を差し出したので自分も右手の皮手袋を脱いだ。自分は左利きだが、利き腕でなくても勝てるだろう。そう踏んだからだ。

順平は順平で、圧勝とまではいかなくてもいい勝負ができるのではないかという彼なりの根拠があった。
風花によると、順平のペルソナの力は、真田のペルソナより高いらしいのだ。
まあ自分が力に特化しているだけであって、真田のようにバランスよく能力分散がされていないと言えばそれまでだが、その事実は興味深いものだった。

そうしていつも通りの空気の中始めた勝負は、なかなか決着がつかなかった。
最初は面白がって眺めていたゆかりも、膠着状態に飽きて再び爪に意識を向けたし、美鶴も手元の本に視線を戻した。
アイギスは不思議そうにそれを眺めて天田は離れたところでつまらなそうにしている。
有里は無心に牛丼をかっ込み、風花はノートパソコンの画面と順平たちを交互に見つめた。
時折キッチンからガタンと物音が聞こえるのは荒垣がいるからだ。
そして部屋にいた馨が、制服姿のままラウンジに降りてきた頃に二人の勝負はついていた。

「くっそー!俺に、もーちっと持久力があればなー!」
「なかなか緊張感のある戦いだった」

順平は右手をテーブルに投げ出してうなだれた。隣のゆかりは「やっぱりね」と小さく笑う。そこに馨がやってくる。
「ねえ、なにやってたの?」
「馨、勉強終わったの?」
「うん、ばっちり」
いつもの笑顔を見せると、美鶴が顔を上げた。
「自主勉強を欠かさないのは良い習慣だな、伊織たちも槇村を見習え」

それまで黙っていたアイギスが話に入ってくる。
「あれは、腕相撲というやつでしょうか?」
「え?腕相撲?」
不思議な顔をする馨に、ゆかりは爪に息を吹きかけながら先ほどのことを話した。
アイギスは納得したようにうなずく。
「私、腕相撲初めて見ました。なるほどなー」
「そうだ!じゃあこの際、腕相撲大会とか!」

馨のこの提案で、長い長い夜は幕を開けた。

・・・

>>荒垣と真田

「はあ?腕相撲?ったく騒がしいと思って顔だして見りゃ・・・何やってんだよ」
「よし、まずは俺と勝負だシンジ!」
「パス。俺ぁ料理中だ。あとは煮込むだけなんだよ」
「そういえば昔はよく勝負したな、おまえと」
「急に遠い目すんな、ジジイか」
「俺はいつもおまえに負けていた」
「あのころはひ弱だったかんな、アキ」
「だが今は違う!リベンジだ」
「しょうがねえなあ」

「ま、負けた・・・だと!?」
「俺の腕もなまっちゃいねえってことだ」
「ま、待て!もう一度」
「男らしくねえぞ」

>>天田と馨

「馨さん、よろしくお願いします」
「うん、手加減しないから!」
「大人げないですね」
「私はいつでも本気なの!」
「ふふ、僕、馨さんのそういうところ好きです」

「やったー!まずは一勝」
「負けちゃいましたか。でも五年後は僕が勝ちますよ」
「・・・、真田サン、顔色が悪いっすよ・・・」
「次は俺と天田でやりたいんだが」
「小学生の腕折っちゃダメっすよ」

>>ゆかりと馨

「えぇー!あたしもやるのぉ!?」
「もっちろん、ほら勝負勝負!」
「せっかく綺麗に塗れたのに、これ」
「ほんとだ!このピンクかわいいー」
「でしょ?そうだ、馨にも塗ってあげるよ」
「ほんと!?」

乾くのを待って10分後

「ゆかり、強い・・・」
「弓道って意外と体力つくのよ」
「私もまだまだ鍛え方が足りないなあ」
「なに真田先輩みたいなこと言ってんの」

>>馨と美鶴

「うわー、美鶴先輩強そう」
「ふふ、そうでもないさ。お手柔らかにな、槇村」

コテッ

「あ・・・あれ?」
「わ、私としたことが・・・というか槇村、おまえ・・・強いじゃないか」
「意外ー・・・桐条先輩って腕の力ないんすね」
「美鶴は力押しのタイプじゃないからな。どちからというと足蹴にする方が向いてるだろ」
「それでも一般的な女子よりはあんだろ?力」
「ちょ、荒垣先輩!それって美鶴先輩より強い私たちが怪力女みたいなじゃないですかあ!ねえ馨!」
「あ?ああ、わりぃ」
「デリカシーがないなシンジは!」
「おめえにだけは言われたくなかったがな」

>>有里とゆかり

「まさかゆかりと腕相撲する日がくるなんてなあ」
「ほら、さっさと腕出してよ」
「ゆかりの手は白くてきれいだね」
「!!」
「このマニキュアも好きだよ」
「・・・」
「さてはじめようか、風花、審判お願い」
「は、はい」
「あ、あんたねえ・・・っ」

「俺の勝ちー」
「なんかムカつく!なんかムカつく!」

>>荒垣と風花

「てかおかしいだろ、なんでおまえと俺がやるんだよ、勝負明白すぎんだろ」
「え、えと、とりあえず全員やろうっていう話に・・・」
「ったく・・・怪我しても知らねえぞ?ほら、手出せ」
「は、はい」
「・・・」
「・・・」
「おい美鶴」
「ん」
「山岸の腕の長さが足りねえ・・・どうすんだこれ」
「おまえが山岸に合わせればいいだろう」
「くっ、や、やりづれぇ」
「ごめんなさいっ、私の腕が短いから・・・っ」
「単なる体格差よねぇ」
「ねぇ」

コテン・・・

「はぁ〜・・・」
「ま、負けちゃいました・・・」
「たく、最小限に力抑えんのは大変だ・・・嫌な汗かいちまった・・・」
「シンジは山岸の前だといろいろやりづらそうだな?」
「お似合いなんじゃないっすか?」

>>真田と馨

「相手がおまえだろうと勝負は勝負だ!俺はシンジみたいにフェミニストじゃないからな、棄権するなら今のうちだ」
「望むところです!先輩こそ油断してると痛い目あいますよ!」
ぎゅっ
「・・・」
「・・・」
「やだ、先輩、顔赤いです」
「おまえこそ」
「あっ、ちょっとタイム・・・」
「どうした」
「なんか緊張して手汗がっ」(ふきふき)
「おまえ、卑怯だぞ・・・その作戦」
「えっ」
「動揺させて勝ちに行こうなんて、高度な戦略だ」
「そういうわけじゃ」
「それにまんまと引っかかる俺も俺だな・・・だが意外と悪くない」

「あの二人いちゃついてるだけじゃないっすか」
「勝負はつきそうにないな、放って次に行こう」

>>アイギスの場合

「僕思うんですけど」
「なんだよ天田少年」
「アイギスさんて兵器ですよね?馬力レベルですよね?」
「そういやそうだな・・・」
「はい。腕相撲をしたことはありませんが、私は普通の人間より強いと思います」
「強いっていうか、冗談じゃなく骨折するんじゃ・・・」
「というわけで今んとこ最強の荒垣先輩、アイギスと勝負!」
「て、てめぇら俺を病院送りにしてえのかよ!?」
「荒垣さん。お手柔らかにお願いします。腕相撲初体験であります、わくわくです」
「無理!無理だろ普通に!」


そして・・・
風花集計のSEES腕相撲ランキングが完成した。ちなみにコロマルはどうしようもないので除外してある。
強い方から順に、
アイギス
荒垣
真田
順平
有里
ゆかり

美鶴
天田
風花

ちなみに危険すぎるのでアイギスの実力は発揮されないままとなった。

2012/02/22
ゆかりと美鶴の順位逆じゃない?って感じですが、これが私なりの萌え。