究極の選択


「容姿は完璧だけど性格が最低の男と、性格は完璧だけど容姿が論外の男、どちらを選ぶ?」

究極の選択としてよく取り上げられるのがこのパターンではないだろうか。
実際、私もよく友達にふざけて聞かれたことが多々ある。私はそのたびにばかばかしくてしょうがなかった。
聞かれるたびに「うん、難しいよね」と答えたものの、「どちらも選ばない」が私の答えだった。
妥協なんてできない。するくらいなら一人で生きていく。そう思っていた。

告白されることは少なくなかった。
中には顔も中身も許容範囲の男もいたけど、誰一人として告白を受けなかった。
理由は簡単だ。その人を見てドキドキしないからだ。
不思議なことに、私に寄せらせる好意を嬉しいとは思うものの、ドキドキと胸が高鳴るようなことは一度もなかった。
要はその人にキスされたいとか抱きしめてほしいとか思わない。想像さえできなかった。

それは一般的には「理想が高い」というのだろう。思うに私は自分でも無意識に、プライドも高かった。
そんな私が今、一人の男にいいようにされている。身体はすっかり彼の色に染まって、彼に手を取られるだけで全身が敏感になる。
かわいげがないほど従順になった私の身体を、彼はひどく満足げに「はしたない」と言った。
丁寧ではない言葉を浴びせられながら強引に暴かれるのは、むしろ気持ちがよかった。

組み敷かれて天井をバックに見る彼の顔はいつ見ても飽きない。
じっと見ていられるほどの余裕を与えてはくれないけれど、 そういうときの一瞬一瞬は、一秒よりも濃く長く感じた。
そのきれいな瞳に見つめられるだけでドキドキする。本当にドキドキする。
自分の心臓の音が耳に響くほどなのだ。そうしてきつく抱きしめられて、彼の服――つまりは部屋の匂いと、肌の匂いが入り混じって私を包む。
ヒトにもフェロモンがあるんだと、こうして彼と抱き合うことで初めて実感できた。

耳元で私の名前を愛しげに囁いてくれるその唇の形が好き。低くて甘い、とろけそうな声も好き。
つい頬ずりしたくなるような色っぽい首筋も、見ているだけで恥ずかしくなってくるような鍛えられた裸も、きれいに筋の通った鼻も凛々しい眉も。

外見だけを好きになったわけじゃないけど、こうした完璧な容姿も含めて好きになった。結局は明彦の顔と身体が好きで好きでたまらない。
今みたいに、どうしようもなく幸せでドキドキする抱擁を交わしていると、特にそう思う。
どうして男と女が同じベッドに座るとこんなにもいやらしく見えるのか、私にはわかる気がする。

今も昔も、あの両極端な質問の答えは変わらない。どちらも選ばない。
私には明彦がいるのだから。

2012/02/22
こんなんじゃ真田明彦は語りきれない。