ひねくれ者
ひねくれている、とよく言われる。
それが良い意味ではないことくらいわかっているが、特に気にせず生きてきた。
ふと、馨が髪を下ろした姿を見たくなった。
あのポニーテールはもちろん好きだ。歩くたび、抑揚をつけて喋るたびにかわいく揺れる。大好きだと言っても過言ではない。
ただなんとなく、いつもと違う姿を見たくなったのだ。
それならそうと、素直にそう言えばいい。だが俺はやっぱりひねくれていた。
「ん、っ・・・」
衣擦れの音とベッドがきしむ音。それに重なるように、馨の無意識の甘い声が耳に響く。
寮生活は良くも悪くもあると思う。いつでもこうして二人きりになれる。
しかし寮則に書いてあるかどうかは不明だが「こういうこと」は少なくとも推奨はされていないだろう。
それでもやっぱり、こうして身体を重ねることを我慢するなんてできなかった。
首元のリボンを慣れた手つきで外して、真っ白いブラウスのボタンに手をかける。
馨はさっきとは打って変わってぴくりとも動かず、おとなしく耐えていた。
きっとこうして脱がされるのが恥ずかしくて仕方ないのだろう。
ちらりと視線を上げると、柔らかそうな頬はきれいに赤く染まっていて、細い眉はゆがめられていた。
一つ年下の後輩が、こんなにかわいく思えるなんて不思議だった。女なんてどれも同じだと思っていたのに、だ。
ボタンを外す手を止めて、そのまま覆いかぶさる。
露わになった細く白い首筋に顔を寄せると、馨はくすぐったそうに身をよじった。
それを阻止するように手首をシーツにつなぎとめる。
そしてそのまま、薄くとろけそうな皮膚を、音を立てて強めに吸った。
「!、きゃ・・」
初めての感触に戸惑ったのか、馨は小さな悲鳴を漏らした。
首筋にキスマーク。本当に痕がつくのかと半信半疑だったが、唇を離すとくっきりと赤い痕が残っていた。
真っ白で綺麗な首筋にはあまりにも目立つ。馨はそれに気づいたのか、手首をつかんでいた俺の手から逃れると、肩をつかまれて押し返される。
気持ちはわかる。首元まできつくボタンを締めても、なにかの拍子に見えてしまうかもしれない。
ただでさえ首筋が見えやすい髪型だから、余計気になる気持ちはわかる。
だがそれでいい。困って、嫌がられるほど、無理やりにどうにかしたくなる。それで泣かれても、より一層そそられるだけだ。
肩を押し返してくる力はひどく弱い。いつもの半分以下だ。
少し早い呼吸と切なげな表情でわかる。キスで、愛撫で力が抜けてしまったらしい。
それをいいことに、再び首筋に顔を埋める。もちろん抵抗される。
「ちょ、・・・やだっ、先輩」
本当に嫌がっている声に聞こえない。むしろお互いを煽って、誘っているような甘い声色。無自覚だろうがそれは事実だった。
「見、えちゃうから・・・っ」
泣きそうなか細い声は、抵抗をあきらめたように力なく消えていった。
その瞬間、背筋がぞくぞくする。同時に満ち足りた気持ちになった。
彼女の嫌がることを無理に押し通すことに興奮するなんて、やっぱり俺は根っからひねくれている。
先ほどつけた痕よりも上に向かって舌を這わせる。押さえつけている細い体が小さく震えるのがわかった。耳元に感じる熱く速い呼吸も。
耳の後ろの柔らかい個所に、同じように強く唇を押し付ける。馨の香水の香りを一番強く感じるのがこの部分だった。
つい想像してしまう。毎朝どんな仕草でどんな風に、耳の後ろに香水をつけているのか。俺の知らない馨を頭に思い描くことは新鮮だった。
馨がやっと腕に力をいれられるようになったのは、それからずいぶん時間が経ってからだった。
その間に、執拗に痕をつけた。首筋はもちろん、鎖骨の下、胸元、ついでに太ももの内側にも。いや、ついでどころか一番抵抗されたのがそこだ。
片足を軽々と高く上げて顔を寄せると、隣の部屋に聞こえる勢いで声にならない声を上げ、蹴られそうになった。もちろん軽やかにかわしたわけだが、本気で泣かれてしまった。
初めての時でさえこんな風に泣かなかったというのに。
白い太ももにくっきり残る痕というのは、想像以上に刺激が強かった。
とっぷりと夜が更けても、馨はなかなか機嫌を直してくれなかった。
毛布にくるまってやさしく頭を撫でても、馨が来た時のために買っておいた、彼女の好きなケーキやお菓子を差し出しても。
「首に包帯巻かないと学校行けません・・・」
本当に弱り切った顔でそう言う馨に、俺は当初の目論見をそれとなく提案した。
「髪を下ろせばいいんじゃないか」
「え?」
「髪を下ろして、首筋が隠れるような髪型にすればいいんじゃないか」
馨は「なるほど」と呟いて、手持ちの鏡を取り出すと、俺の隣で試行錯誤を始めた。
すべては予定通り。このためだったのだ。一日中髪を下ろしたままの馨を見たかっただけなのだ。
それから1週間、すなわち俺のつけた痕が消えるまで、馨は髪を下ろしたままだった。
2012/02/22
真田先輩は極端な人だと思います。どちらかというと積極的に痕をつけたがる人でもあると思います。