Time to Have Fun


「私、友達とこうやって温泉入るの初めて・・・」
「私もです!なんだか楽しいですねっ」
「ゆかり、やっぱり私は・・・」
「だめですよ!言ったでしょ裸の付き合いって、私たち以外もう誰もいないし」
「裸の付き合いであります」
「アイギスはいつも裸だよね・・・」

こうして脱衣所で騒いでも、周りに気を遣うことはなかった。入浴するには中途半端な時間、大浴場は貸し切り状態。
高級旅館らしくアメニティはきれいにそろっていて、脱衣所だけでもこんなに広い。加えて修学旅行。いつもよりはしゃぎたくなる。

「馨ちゃん、髪型変えたの?かわいい」
「ほんとだ!おだんごだ、いいなー!」
「そうだ、ゆかりもしてあげよっか?」
「え、でもあたし短いし」
「それだけあれば大丈夫!ほら後ろ向いて?」

ゆかりの髪を結い始める馨。
二人を眺めながら、風花がふと口を開いた。
「いいですね、こういうの」
隣にいる美鶴が目を向ける。
「こうしてると、日常が嘘みたい」
「・・・私たちの場合、日常が非日常だからな」
「どっちがどっちだか、わからなくなっちゃいますね」

さみしそうに、それでも嬉しそうに微笑んだ風花を見て、美鶴も同じように笑う。
今まではわからなかったが、今日、ゆかりのおかげで気づけた。私には仲間がいるじゃないか。

「できた!」
「うわっ、なんか新鮮!ありがと馨」
「ふふ、ゆかりちゃんかわいいよ?」
「次は美鶴先輩ですよ」
「わ、私?」

まさか話を振られるとは思っていなかったから、素っ頓狂な声が出る。
馨はそれに微笑んで、美鶴の後ろに回り込む。

「わ、美鶴先輩、髪きれいですね」
「えっ、ちょ、なんだいきなり・・・」
「ほんとだー!サラサラ」
「おい、ゆかりまで!」
「ゆかり、ヘアゴム貸して」
「はい」
「気合入ってきた」
「そんなことに気合入れる必要はないだろう槇村!どうせすぐほどくんだから、適当でいい」
「風花!ピンも持ってきて」
「は、はい!」
「美容院状態であります」

・・・

「おい有里・・・口元まで浸かって大丈夫なのか」
「ぶくぶく(問題ありません)」
「よっぽど温泉好きなんだね」

男同士で露天風呂、少しばかり華がない気がするがこれはこれでいい。
泉質は本物だし、景色もいい。これで混浴なら言うことないんだけど。そう思ったのは順平だけか、それとも。

綾時がふと口を開く。まるでタイミングを見計らっていたように。
「そういえば、知ってる?ここの露天、男湯と女湯が時間交代制なんだよ」
すかさず順平が言葉を返す。しかしその口調は。

「おおー、マジか。じゃあ途中で変わってしまうかもね。でももしそうなってもそれは事故だよね。」
わざとらしい・・・!!真田は感じたくもない嫌な予感を全身で感じる。
有里は相変わらず口元まで湯につかり、綾時は確信犯の笑みを浮かべる。
「それはそうでしょ!」
「・・・で、その男女が交代する時間というのはいつなんだ?」
「ええと、そりゃ確認してないっすけど、ねえリョージくん?」
「うーん、もしかすると結構ギリギリかもねえ、順平くん?」

だめだこいつら・・・!
真田の嫌な予感は的中、全力で呆れてため息が出る。
「・・・おまえら馬鹿だろ?どうりでこんな妙な時間に」
すると順平が明るく笑った。口調は元に戻っている。
「ハハハ、冗談すよ。確かにギリギリで来たけどもう夜中だし、こんな際どいタイミングでわざわざ入ってくる女なんて」

ガラッ

「「「「!?!」」」」
「わー、ここの露天、ひっろーい!」
「ほんと、流れるプールみたい」
確かに聞こえた声。自分たちは中央の岩陰のうしろにいるから、出入り口付近は見えない。
「この声、岳羽と山岸か・・・!?」
「みたいっすね」
「ど、どうするんだ!出るに出れなくなっ」
「順平くん!」
「リョージ!」
「おい、」
「「チャンス!!」」

だめだ。やっぱりだめだこいつら。
真田が落胆している暇もなく、反対側から水音が聞こえた。
きゃあきゃあと騒ぎながら、湯船に入ってくる音だ。
とりあえずむやみに動かず耳を澄ませる。

「あったかーい!」
「寮のお風呂とはぜんぜん違いますね」
「たのもー!!」
ピシャンという音と共に聞こえてきたのはアイギスの声。
「なるほど、これがロテンでありますか」
ざぶざぶと豪快な音を立てて入ってくるのが聞こえる。
「これがいわゆる、いい湯だなでありますか!」
「ま、まあね・・・」
「てか馨ー!はやくこっち来なよ!」
「うん、ちょっと待ってー!」

その声に、女性陣にバレる勢いで豪快にズッコケた真田を誰も責めることはできない。
「なっ、・・・・っ!!」
「マジかよ、馨ッチもいんの?」
「そうみたいだね順平くん」
「そうみたいだなリョージくん」
「よかったすね真田センパイ」
「よくない!!」
「顔真っ赤すよ」
順平の指摘にはっと気づき、真田は自分で自分の頬を殴る。聞いてはならない音がした気がする。
「えっ!?」
「とにかく!今はこの状況をいかに打破するかだ、聞いてるのか有里!!」
「ハイ」
「まずは位置確認だ!決して姿を見られることなくだ」
「了解です」

・・・

「見えるか・・・?りょーじ」
「もうちょっとで・・・湯けむりが・・・」
「バカ野郎!!」
前線にいた順平と綾時にすかさず拳骨が飛んでくる。有里はその後ろで相変わらず口元まで湯につかっていた。
「位置確認だけだと言ったろ!」
「すんません」
「とりあえず出口に陣取られている以上・・・」
「出てって謝った方がよさそうですねえ」
「だな」
「それに鬼ってワケじゃないんだし、もしかすると・・・」
「な、なんだ?」
「お背中流してくれちゃったり」
「体を洗ってくれたり」
「・・・おまえら本当にバカだろう」
「そんなこと言って、ほんとは真田サンだって期待してるくせに」
「な、なんだと!?」
「そーやって自分だけ硬派気取って、実は一番興奮してるのはセンパイでしょうが」
「・・・!!」
「真田先輩、今召喚器ないから」
「離せ有里!!」

幸い彼女たちは裏まで来る様子はなく、一か所に固まっていた。
いつもよりはしゃいでいる声とパシャパシャという水音は、嫌でも聞こえてくる。

「ゆかり、いいなあ胸おっきくて」
「え?ふつーよ、ふつー!」

今まで後ろにいた有里が、まるでタルタロスの時のように素早く前線に移動してきた。
その目は生き生きとしている。綾時が愉快そうに声を潜めた。
「有里くんはゆかりさん目当てなの?」
「そう」
「しょ、正直だなオマエ」

「私はあんまりないからさ」
「でも馨ちゃん、すらっとしててきれいだよ」
「えっ」
「ほんと、腰回りなんかすごいきれいにくびれてる」
「きゃあ!ゆかり!ばか!」
「おしりもきれーい」
「やだ!」

「おおお!?」
「ここここれは自主規制をいれたほうがいいよね順平くん」
「バカッ見るな!!俺だってまだ見たことないんだ!」
「真田先輩鼻血が、あと悔し涙が」
「おまえもだ有里!」
「じゅじゅじゅ順平くん!風が強まって湯煙消えた!!」
「なにぃ!?」
「おい、それ以上前に出たら」

ざぶん。

暴走する二人を止めようと真田が立ち上がったが、その勢いで波が立った。
そしてその音は思いのほか大きかった。フリーズする男性陣。時すでに遅し。
「えっ?な、なんか聞こえた・・・?」
案の定、ゆかりたちにも聞こえていた。そしてさらに窮地に追い込まれることになる。
「どうした?ゆかり」

聞きなれた凛とした声に一番過敏に反応したのは真田だった。
「最悪だ・・・美鶴がいる・・・!!」
「確かに、桐条先輩の声でしたね」
「今入ってきたみたい。もうちょっと早ければ」
「そんな場合じゃない!」
「へぶし」
「あ、あはは・・・見つかったら退学とかっすかね?や、けど入ったのはちゃんと男湯のときだし」
「そんな言い訳が通用すると思うか?・・・もし見つかれば」
「見つかれば?」
「処刑だな・・・」

処刑なんて大げさな。そう笑い飛ばせないくらい、真田の顔は深刻だった。
なんだかんだで幾度も処刑されてきた経験者は語る、だ。

「あの辺から聞こえたよね?」
「う、うん・・・」
「か、馨!岩陰!見てきて」
「私!?」

声はだんだん近づいてくる。マズイ・・・!!
そしてあたふたする間もなく、見つかった。
岩陰を調べに来たゆかりと馨、そして後ろで様子をうかがっていた風花、美鶴、アイギス。

「・・・」
「・・・」
「・・・、あ、あ、あんたら・・・」
「やだ、うそ・・・」
「違う!誤解だ!これは事故だ!猛烈な誤解だ!」
「そ、そっすよ誤解!真田サンがどうしても馨ッチとお風呂入りたいって言うから」
「!?!、でたらめを言うな!それこそ言い出したのは望月で」
「やだ先輩、そうならそうと言ってくれれば私は全然、ていうかむしろ嬉し」
「それ以上言うな!!!あと後ろを向け!」
「それを言うなら先輩こそ前を隠してください〜!!」
「!?」
「真田サン、俺らじゃフォローしかねます!」

――悪寒がする。
真田は後ろを振り返る。

「あーきーひーこー」
「み、み、美鶴」
「処刑だ!」

みじかいおつきあいでした。

2012/03/04
何度目かわからない風呂ネタと同じような展開・・・。漫画とゲームを忠実に(^^)