You're myself, I'm yourself
※想像力をフル回転しないと意味の分からない、非常に疲れる不親切極まりないお話です。
朝起きたら有里湊になっていた。槇村馨が有里湊で、有里湊は槇村馨に。
意味が分からない。それは確かに。二人は同時に飛び起きて寝間着のまま部屋を出ると、2階と3階の踊り場で鉢合わせた。
お互いがお互いの部屋へ向かおうとしていたのだ。
「わ、私!」
「あ、俺・・・」
私はなぜか有里くんで、俺はなぜか馨だ。
だめだ、こんがらがってきた。というかこの状態で誰かに見つかる方がヤバい。
二人は同じことを思ったのか、とりあえず朝の誰もいない作戦室に入ることにした。予想通り、静かで誰もいない。
見た目は馨、中身は有里――すなわち有里は、ため息をつきながら「で?」と口を開く。その声は馨の声だ。
「で、なにこれ」
「さあ」
「夢?」
「・・・じゃないんじゃないかなあ」
「別に俺はどうでもいい。どうでもよくないのはゆかりとのことだ」
「はっ、」
「ゆかりの彼氏として、女の姿でいるっていうのはちょっと」
「・・・」
「まあ、できなくはないけどさ」
「なにを!?!ねえなにを!?私の体で変なことしないでよ!!」
「そっちこそ、俺の体を気安く真田先輩に捧げないでよ」
「しないわよバカ!」
「俺、同性愛には理解あるけどノーマルだし、受けになるのはいいけどあんなところに突っ込まれたくないし。
ていうか俺の声で女言葉使うのやめてくんない?気持ち悪い」
「そっちこそ私の声で、そんなやる気のない低い声出すのやめてよ!」
「問題はそこじゃない」
「えっ?」
「さっきと逆のこともあり得る・・・」
「どういうこと?」
「さっきのは俺と馨が入れ替わったことを、先輩とゆかりが知ったうえでのことだろ?」
「そうね」
「こんなこと話して信じてもらえる自信ははっきり言って俺にはない」
「あまりにも非現実的だしね」
「ということはつまりだ。真田先輩は馨の姿をしている俺を押し倒してくるかもしれない!!」(必死)
「いやああ!」
「でも真田先輩だったら、俺の中身が馨だとわかったら、ためらいなく俺の体を犯すかもしれない、要は馨ならなんでもよさそうだ」(ガクガク)
「それもいやああ!!」
「逆に俺の姿をしている馨は、ゆかりに迫られたらそれにこたえなくてはならない」
「私が上なの?やだ!見下ろされる方が好きだもん」
「だから俺の声で気持ち悪いこと言うなって」
「あ、ごめん」
「どちらにしろ死活問題だ」
「なんでこうなるの!?」
「そこだ。まずは原因を突き止めないと」
「そ、そうだよね。・・・き、昨日のタルタロス・・・とか」
「やっぱりそれしかないよなあ」
「レアにわけわかんない魔法かけられたきり、なんのダメージもなかったし」
「しかもその魔法食らったのは俺と馨だけ」
「・・・」
「・・・」
「シャドウのせいじゃないの〜!」
「俺の顔で泣くな!みっともない」
1日たてば戻るかもしれない。
とりあえずそう結論づけて、お互いばれないように1日を過ごすことにした。
幸い今日は休日で、終日部屋にこもっていれば大きなイザコザは起きないだろう。そう踏んでいたのだが。
(・・・落ち着かない)
俺は馨の部屋で、隅の方に座っていた。
見た目は馨なのだからこの部屋にいるのは当然なのだが、ゆかり以外の女の部屋なんて興味がないどころか居心地が悪い。
本を読もうにも目を引かれるジャンルはないし、音楽を聞こうにも、馨がいつも首に下げている音楽プレイヤーのスイッチを入れると、聞いたこともない洋楽が大音量で流れてきた。
あいつこんなの聞いてるのか。見かけによらないな。とにかく暇だった。今日は順平と友近を誘って食い倒れを敢行する予定だったのに。
ふと部屋がノックされた。思わず心臓が飛び跳ねる。俺は今、馨なんだ。馨らしく対応しなければならない。
「はい」と返事をする。クソ、こんな高い声出すなんて気持ちが悪いぞ。
すると、「俺だ」とすぐに返ってきた声。・・・最悪だ。真田先輩だ。
追い返してもいいのだが、後々戻った時に、先輩と馨の仲が険悪になったら俺のせいじゃないか。
意を決して立ち上がり、そっとドアを開ける。すると予想通りの姿。私服に身を包んで、俺を――いや馨を見ると、小さく笑った。
俺はそれにずいぶん驚いたのだ。こんな顔するのか、この人。
「おはよう」
「え、あ・・・おは、ようございます・・・」
「なんだ、寝てたのか?」
「え」
「その格好。髪もぼさぼさだ」
言われて気づくと寝間着のままだった。忘れていたわけじゃない。ただ、どんな服を着たらいいのかわからなかった。
それをそのまま告げてしまうと、先輩は困ったように笑う。馨の前だとこんなに笑顔が増えるのか・・・。
「いつまで寝ぼけてんだ。俺が選んでやろうか?」
「あ、はい」
助かったと言わんばかりに素直にそう言うと、先輩は目を丸くした。まずい、おかしかったか。
「・・・、いいのか?」
「はい」
「めずらしいな、いつもなら真っ赤になって俺を叩くのに」
「はっ」
「今日は素直なんだな・・・かわいい」
聞いたことのない声色でそうつぶやくと、あろうことか先輩は俺を、いや馨を抱きしめてきた。
背筋がぞわりと震えあがる。俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない・・・!!
力いっぱい突き放す。しかし距離はそれほど変わらず、先輩もよろけたりはしなかった。男と女の差はこんなにあるのか。
やばい、やってしまった。この場合の正解は、おとなしく彼の胸に寄り添うことだったのだ。
鳥肌が立とうと寒気がしようと我慢すべきだったのだ。ごめん馨・・・!
「やたら素直かと思ったら今度はずいぶん反抗的だな」
「や、えと、これはその」
「本気で嫌なのか?」
「そんなことないです!」
よし挽回チャンス!必死にそう叫ぶと、先輩は再び俺の見たことのない顔で笑った。そうして再び抱き寄せられる。
「そうか。ならいいんだ」
それとなく回避しようとしても、かなわなかった。
細い体はすっぽり収まって、どういうわけか皮手袋をしていない手は俺の、いやだから馨の腰を慣れた手つきで撫で始めた。
勘弁してくれ・・・!!
「ちょちょ、ちょっと」
「おまえも懲りないな、そんなに泣かされたいか」
「は?」
ちょっと待て、おいちょっと待て、これはアレか。この人のドSスイッチ俺が入れちゃった系か。
「今日、どこか行きたいか?」
あまりのショックに声が出ない。それを彼は自分のいいように、つまりノーととらえた。チクショウこの変態め・・・!
「なら、ずっと一緒にいたい」
「や、ちょ、待ってそれはダメ!それだけはダメ!ん、ん”ー!!!!!!」
・・・
有里くんの部屋はこざっぱりとしていた。
どうにも暇を持て余していたから、いろいろ見ちゃおうかと思ったけどやめておいた。
本棚の奥に、俗にいうAVが見えたからだ。
いたたまれない気持ちになって、見なかったことにしておいた。
ふと思う。真田先輩もこういうの見るんだろうか。先輩の部屋にはよく行くけど、そんな細かいところまで見ていない。
どうしよう、今度行ったとき、気になってしまうかもしれない。あったらあったで、それでいい。なかったらなかったで、ちょっと心配だ。
ふとドアがノックされた。思わず肩がこわばる。
「私だけど、起きてるー?」
ゆかり!私は「この姿」になっていることを忘れてドアを開けて、槇村馨のノリでゆかりを迎えた。
「ゆかり!おはよ」
「え、あ、・・・お、おはよ」
「どしたの?あ、今日どっか行」
「・・・」
「・・・」
「しまったあああーー!!」
「え!?ちょ、なにどうしたの!」
自分の耳に響いた声は、まぎれもなく有里くんの声。しかし彼はこんなしゃべり方しないしもっと落ち着いてる。
そうよ、落ち着け自分!
「・・・ごめん、寝ぼけてて」
軽く咳払いをして、うつむき気味にポケットに手を入れる。
うわあ、なんか手になじむ。男子のポケットってこんなに大きいんだ。
「ずいぶん盛大な寝ぼけ方ね・・・」
まずい、ゆかりが超不審な目で見てる・・・!
「悪い夢を見たんだ」
「!、・・・そう」
ゆかりはそれとなく目をそらして、軽く微笑んだ。
そして気を取り直すように、「ねえ、今日一日私につきあってよ!」。
私は顔を上げて、少し考える。
「それって、デー・・・」
「やだ!言わないでよバカ!」
腕をたたかれた。結構痛い。
ああ、そういえばゆかりの服装がいつもと違う。デート服ってやつね!わかるわかる、私もあるもん。
まったくかわいんだから、ゆかり。
つい口が滑ってそう言ってしまった。ゆかりはやっぱり私を、いや「俺」を不思議そうな目で見た。
そしてそれぞれが迎えた夜。
お互い疲弊して、朝と同じ2階と3階の踊り場で鉢合わせた。
目が合うと、言いたいことも言えなくなる。とりあえず再び作戦室に入った。
「・・・」
「・・・」
「あ、今日はゆかりと出かけたの・・・」
「・・・」
「だ、大丈夫!適当にけだるく、ほめるとこはほめといた!」
「・・・、そう」
「手つないだだけだったし・・・」
「・・・、そう」
「えっと・・・、そっち・・・は・・・」
「聞く?それ」
「・・・」
「馨、よくあんな人と付き合ってられるよね、ただの変態じゃんあの人・・・」
「やだ、なにしたの」
「口に出すのもおぞましいよ」
「・・・」
「まさかいつもあんなことしてるの?」
「え、えと・・・」
「信じられない・・・俺だってゆかりと、まだぜんぜんペースもつかめてないのに」
「だ、だからなにしたのよ」
「馨ってタフなんだな・・・俺もう骨抜きにされてしばらく立てなかったよ」
「わ、私の体だし」
「とりあえずもう寝たい。朝起きたら元に戻ってることを祈ろう」
「そ、そうだよね」
翌朝。
「・・・、髪長い、腕細い、カーテンピンク!も、戻った!」
「ねむ・・・、・・・・!!!!!記憶も消えてればよかったのに、俺もう真田先輩のこと見れない・・・」
こうして信じられない一日は終わった。
2012/03/04
ログのネタを格上げ措置。わかりづらい、完全に自分用のネタです。テキストサイトでやってもおもしろくないって実証したのになあ(笑)タイトルの使い方間違ってるって感じです。