召集
ゆかりの部屋にGが出た。Gである。人類の敵、GOKIである。
SEESやらテストやらお付き合いやらで忙しく、少し服を散らかしていただけなのに。
片付けようと思って服の山に手を出したらわいてきやがった。タルタロスにぶち込んでやろうかコノヤロウ。
しかし、17歳のか弱い乙女にGをたたき殺すなどできるわけない。ゆかりは死神から逃げるよりも早く、部屋から飛び出した。
「いやあああ!!!だっだっ誰か!誰か来て!!」
次の日、美鶴の部屋にも出た。ベッドの下に転がっていったペンを取ろうと屈んだ瞬間である。
美鶴にとってそれは未知なる出会いだった。初めてではないものの、こんなに近くで見てしまったことは想像以上にショックだった。
「・・・・・っっっ!!!!!」
声が出ない。血の気が引く。全力で後ずさって、部屋を出た。
ラウンジに降りる。いたのは真田、荒垣、伊織と、こういう時のための図体のでかい男どもが、雁首揃えてくつろいでいた。
明らかに様子のおかしい美鶴を見て、真田はまず自分の身を案じた。また美鶴を怒らせるようなことでもしたか?
美鶴は腹の底からひねり出すような声でこう言った。
「私の部屋の、不法侵入生物を・・・討伐してほしいのだが・・・誰か・・・」
二度あることは三度ある、風花の部屋にもGはお邪魔した。
今度は堂々と床のど真ん中に登場した。机に向かっていて、ふと後ろを振り向いた瞬間、存在に気付いた。
Gも止まる。風花も止まる。だるまさんが転んだ状態。しかし風花は何のためらいもせず立ち上がり、Gを叩いた。
定期購読しているコンピュータ雑誌は武器と化し、すさまじい音を立てた。風花の表情に曇りはない。
その数日後、巌戸台分寮の大掃除が実施されることとなった。
発起人は岳羽ゆかり、統率は桐条美鶴。男性陣は有無を言わさず、有事(G出現)の際の駒となった。
害虫を退治するのは男の役目、それはこの寮内でも自然と浸透していた。Gやムカデが苦手な男だっているだろうに、一般論とは脅威である。
「もうほんっっと、ほんとに無理!」
ゆかりは鳥肌を立てて、なるほど確かに「もう無理」と言わんばかりに、隣の馨にしっかりしがみついている。ソファのうしろに立って腕を組む美鶴も小さく頷いた。
一方、片手に干からびたスリッパ、片手にゴ○ジェットを持たされた男性陣は、同じような表情で一列に整列している。
背の順に、荒垣、真田、順平、有里、天田、そしてコロマルもその隣に。ピンと張った背筋が特徴のはずの真田も、今日はうなだれている。
周りから羨望の眼差しを受けることが多い男性陣の、こんなシュールな光景に、ゆかりたちは見向きもしない。
有里的に言えば、それこそ「どうでもいい」。
「部屋にアレが出るとか有り得ない!もう2日も馨の部屋に泊まってるの。ごめんね馨、ベッド狭くしちゃって」
「ううん、お泊り会みたいでなんか楽しいし!」
真田のこめかみがぴくっと動く。隣の荒垣だけがそれに気づいた。
恋人のベッドに、たとえ女であろうと、自分以外が横になるのがなんとなく気に入らない、ってか。やっぱあれだ、アキは少し極端だ。
もう少し、少しでいいから心の広い男になれよ。いい加減呆れられるぞ。
美鶴も言いづらそうに口を開いた。
「わ、私も山岸の部屋に・・・あ、山岸の部屋にも出たんだが、山岸なら耐性があるというから」
「はい、叩き殺すくらいならできますから」
いつも穏やかにかわいらしく微笑む唇が、何やら物騒な言葉を吐き出した。
あれ、これって機械いじりに次ぐギャップに入る?ここって男全員でお手上げ侍?
「とにかく!連続で出没したからには徹底駆除!つまり大掃除」
「業者を呼ぼうかとも思ったんだが、如何せん費用がな」
「やるからには徹底的に!ツブすのはシャドウだけで十分!まずは各自、自室を整理!いい?」
男性陣に向かって喝を入れるゆかり。彼らは「はい」しか選択肢がなかった。
・・・
「きゃああああああ!?!」
寮全体に響き渡るゆかりの声。散らばって掃除に励んでいた全員が、2階の有里の部屋に向かう。
どの部屋も扉は全開、廊下から室内は丸見え、至る所にゴミや荷物の山。物が多すぎて、廊下の荷物は誰のものだかわからない。まるで大移動。
ゆかりは有里の部屋から、よからぬモノを見つけてうろたえていた。
「なにっ、何よこれ!変態!」
「変態って・・・持ってない方が危ないよ」
駆けつけた男性陣は、見て見ぬふりで視線を逸らす。荒垣、真田、順平。小学生の天田は顔を真っ赤にしてその場を去った。
あれは男のバイブルだ。有里の言うとおり、持ってない方が逆に変態だ。
あー、ほらほらゆかりッチ、よせって、それ以上傷口えぐるなって。あ、やべソレ俺持ってるよ、マジか湊と同じ趣味か俺。どう思います荒垣さん?
なんだ有里のヤツ、ずいぶんマニアックなやつばっか持ってんな、俺が淡泊すぎんのか?なあアキ。
クソ、俺のことを散々セクハラ野郎とか変態とか呼んでおきながら、なんだあの量は!1つしか持ってない俺は逆に変態か!?そうなのか!?
目と目で語る男3人。
なんとかしてやりたいところだが、下手に口を出して、SEESの中でも魔力が最強と言われるガルダインを食らいたくはない。
特に疾風弱点の順平は、マジで命に関わる、ていうか死ぬ俺。
有里は、ゆかりに胸ぐらをつかまれてひたすら揺すぶられている。
ごった返しで無法地帯と化したラウンジで、コロマルはふと思った。
これ、いつになったら終わるのだろう。
2012/03/10
ゲーム中の真田先輩「召集されるおそれもある、Gが出た場合とかな」から生まれた話。