真田くん
彼が好き。
その気持ちに偽りはない。
好き、だから、こうしてファンクラブに入った。
抜け駆け禁止。真田くんはみんなのもの。それがルールだった。
それにしても、同学年で本当によかった。クラスは別だけど、授業の合間、放課後部活へ向かう途中・・・。
一日一回、顔を見れればそれでよかった。
幸せだった。明日も、がんばろうって。彼のおかげで、私の学校生活は楽しかった。
楽しかった、それなのに。
真田くんに、彼女ができたといううわさはファンクラブ内だけではなく学校中に広まっていた。
相手は転校生の槇村馨。2年生で、同じ寮住まいらしい。
突如襲ってきた喪失感。私は何もしないまま負けてしまった。
私は真田くんが好き。
本当なら、私が真田くんの彼女になりたかった。
けどできない。勇気がなかった。
だからファンクラブに入った。
槇村馨は、たびたびファンクラブの洗礼を受けていた。
私がそれに加わることはなかったけど、いい気味だった。
私は悪くない。悪いのはあなた。だから当然なのよ。
そう、思わずにはいられなかった。
部活を終え、校門を出たときだった。
前方に、見間違えることのない姿があった。
真田くん。胸が高鳴るのもつかの間、隣には例の「彼女」の姿。
苛々する。
胸がざわざわする。
気持ちが悪い・・・。
そんな、負の感情が全身を支配する。
こうして二人が一緒にいるのを、見るのは初めてだったから。
けれど。
槇村馨の話に相槌を打つ真田くんの横顔を見て、そんな毒気はきれいさっぱり抜かれてしまった。
だって、すごく、楽しそうだったから。
ああ、あんな風に笑うんだ。
切れ長の目は穏やかに細められて、彼女を見守るように見つめている。
その視線があまりにもやさしくて、胸が痛いほどだった。
学校で見る彼は、いつもクールで、物怖じしないし、まとう空気はいつもピンとしていた。
私はそこが好きで、ずっと見ていて、彼のことならなんでもわかるような錯覚に陥っていた。
だって、こんなに見ているんだもの。
けれどその自信は、一気に打ち砕かれた。
不思議と嫉妬に怒り狂うわけでもない。悲しみもない。
すがすがしかった。薄暗いもやが取り払われたように。
やっと気づけたのだ。
私は真田くんが好き。好きなら、幸せになってほしい。
彼は槇村馨と一緒にいるのが幸せなのだ。
あんな顔を見てしまったら、もう、あきらめるしかない。
(・・・幸せそうでよかった)
声に出すことなく小さく小さくつぶやいて、そのまま踵を翻して校舎に戻る。
ファンクラブの子たちに、教えてあげなければ。
槇村馨を傷つけても、何も変わらないことを。むしろ真田くんが悲しむことを。
彼女たちだって、槇村馨が嫌いなわけではない。真田くんのことが好きなだけなのだから。
結果、私が「裏切り者」扱いされるかもしれない。もちろん怖い。
だけど、私が真田くんを好きだったことに、嘘はつきたくないのだ。
これが私なりのけじめ。
ああ、新しい恋愛を始めなきゃ。
夕日に向かって歩いていく二人の、楽しそうな笑い声が背中に届いた。
2017/03/06
恋する乙女はたいへんなのです。