クレイジーフォーユー


恋だと気づいた。
いや、気づかされた。
――知っていて気づかなかったふりをしていたのかもしれない。新しい日常が始まっていった。

・・・

どうも、岳羽ゆかりです。月光館学園2年F組、「特別課外活動部」通称SEESの一員です。
そんなうちらのリーダー、馨も同じクラス。
あ、ついでに同じくSEESの一員、順平も同じクラス。

馨とは放課後よく遊んでる。
っていっても放課後は馨の取り合いになることもしばしば。
だって、生徒会でしょ、部活でしょ?あと順平ともよくごはん食べに行くみたい。
私のお母さんとの関係修復をそれとなく助けてくれたり・・・。
馨って、誰に対しても真剣なんだよね。人のことなのに、自分のことみたいに考えてくれて。
あんなかわいい顔してさ。そういうところが好きだなあ。

馨は私の前の席。順平は馨の前の席。
順平ったら、授業中あてられると高確率で馨の方を振り向く。
まあ、その教えてあげた答えがいつも正解ってとこが、学年トップの馨らしい。
でもその学年トップ、今日の午後はずっと机に突っ伏してた。
朝から微妙に頭がかっくんしてたけど・・・。午後までもたなかったみたい。
馨が授業中寝るなんて、超珍しい。どうしたんだろ?

さて、今日の授業おわり!
チャイムが鳴り響いても、馨は起きる気配ナシ。
順平も帰る準備しながら後ろの馨を気にしてる。

「ねー馨、もう放課後だよ?」
「めずらしいなー馨ッチ。徹夜か?」
馨を起こそうとしたその瞬間、教室のドアが開いた。
と同時に起こる黄色い声・・・。何事?

「・・・槇村いるか」
――真田先輩!

さすが、月高の王子様。いろんな呼び名があるけど最近はそれを聞くことが多い。
先輩の登場に、一気に教室の空気が変わった。
まあ、私は寮でいつも見るからそういうのは感じないけど。てかタイプじゃない。
「あ、先輩。馨ならこのとおり、おやすみ中です」
「なんだ、寝てるのか」
「もーぐっすりです」
「・・・しょうがないな」
先輩は取り巻き女子をものともせずこっちに歩いてくる。
ちらっと馨に目をやると、規則正しい寝息が聞こえる。
・・・まったく、寝顔までかわいいなんて反則でしょ。

「おい、馨、起きろ」
たぶん、その瞬間、教室の人間の動きが止まった。
先輩は馨の前で止まると、身をかがめて馨の頭に手を置いた。
その顔はもう、・・・もう。
ていうか先輩あんな顔するの!?
いつもあんなに仏頂面なのに!(少なくとも私にはそう見える)

べつに、別にね、満面の笑みとかじゃなくて。
いつものドライな表情ではあるんだけど・・・
――やさしい。

「今日はせっかく部活がないんだ。おまえの見たがってた映画見るんだろ」
先輩の長い指は、馨のやわらかそうな頬を小さくつねった。

この異様な教室の空気を遮ったのは、順平だった。
「さ、真田サン、いつから”馨”呼びっすか?」
「・・・?、・・・・!!!!」
順平の指摘に、先輩は我に返ったように体をびくつかせた。

「い、いや・・・あれだ!ほら。仲間同士の結束をより深めようと・・・なあ!ゆ、ゆかり!」
「え!?」
先輩はしどろもどろ、私と順平の肩をガシッと抱いた。
”ゆかり”なんて、呼ばれたことないのに。

耳元で騒がれた馨はようやく起きたようで。
「・・・・ん・・・あれ、ゆかり・・・授業終わった?」
「あ、うん終わったよ」
「・・・あれ?先輩だ」
「・・・さ、先に行ってる。顔洗ってとっとと来い」

”いつもの”真田先輩に、”がんばって”戻ってるようだった。

駆け足で教室を出て行った真田先輩の後を追うものは誰もいなくて。
取り巻きの女の子たちはただただ呆然としていた。

・・・なんだ、この二人付き合ってたんだ。
馨も言ってくれればいいのに、水くさい。
あーでも、こないだ言ってたな。ゆかりに話したいことがあるんだ、って。
それにしてもあの真田先輩を、周りが見えなくなるほど骨抜きにするとは・・・

やっぱ馨、あんたすごいよ。

2011/08/08
こんな感じにばれそうな二人。