すてきないちにち


「ね、文化祭楽しみだよね!」
「うん!何が楽しみってさ、真田先輩だよね!」
「わかるー!運動部の出し物って必須だし、先輩なにやってくれるんだろう!」

ファンクラブの最近の話題はこればっかり。
きっと、すてきな一日になるんだろうなあ。

・・・

「いやーっ!一時はどうなることかと思ってたけどよー、やっぱ文化祭って青春っしょ!」
順平はいつになく機嫌がいい。
ゆかりはいつになく、機嫌が悪い。

「あんた、こんな面倒なこと嫌だって言ってなかった?」
「それとこれとは別っ!盛り上がるときは盛り上がんねーとな!」
「やっぱり順平くん、切り替え上手だよね」
「もちろん!風花だって楽しみだったろ?」

月光館学園、3年に1度の文化祭。つまり生徒にとって1度きりの文化祭。
私立高校である月高の文化祭は、やはり他に比べてグレードが高い。
実行委員会を通ればある程度の予算は獲得できるし、自由度も高い。
文化部の発表会から、ライブ、祭り並みの出店、喫茶店などなんでもできる。楽しみにしている生徒は多い。
しかし、そんな文化祭も中止にならざる得ない状況がつい先日まであった。
台風である。こればかりは仕方ないと、半ばあきらめかけていた。
ところが打って変わって、当日は晴天。台風はタイミングよく進路を変えたらしい。
朝10時。参加者は最後の準備に追われている・・・。

2年F組の教室も、各自の出し物の準備に騒がしい。
「それにしてもさー、ゆかりッチさ!なかなか似合ってんじゃん?」
「・・・」
「そうそう!いいもん見せてもらっちゃったなー」
同じクラスの友近もひょっこりこちらに混ざってくる。
F組の教室の周りには、小さな人だかりまでできている。男のみだが。
ゆかりは例のメイド服を着ていた。
「あーっ、もう無理!もう無理!着替えてくる」
「ちょ、なんでー!せっかくかわいいのに」
「どいつもこいつも見すぎなのよ!私は動物園のパンダじゃない!」
「めずらしいもんを見たがるのは人間の心理だろー。あきらめろって」
順平の顔は確信犯。微塵の同情もない。友近もまたしかり。
「・・・あっ!馨〜!!助けてよー」

タイミングよく馨が生徒会室から戻ってきた。ゆかりはすかさず馨に駆け寄る。
「馨っちおつかれー。大変だよなあ生徒会って」
「そうでもないよ?美鶴先輩ががんばってるし」
「ふーん。あ、それ」
順平が指差したのは、馨の腕に巻いてある腕章。
文化祭の実行スタッフであることを証明するものだ。
「なーんかコレ、”オレら”の腕章と似てるよな」
「美鶴先輩が考えたんじゃない?」
ゆかりは気を取り直して会話に入ってきた。もうあきらめたようだ。

「てかゆかりッチさ、弓道部の方いかなくていいの?」
「あー、あたしの店番はまだ先だし・・・午前は暇なの」
「じゃ、みんな一緒にどっか回ろうぜ!」
「ちょ、冗談でしょー!あたしにこのカッコのままうろうろしろっての?一般のお客さんもいるのにー!」
「いいじゃん、メイド喫茶の宣伝」

「あ、じゃあ私も一緒に行きたい!仕事の合間縫ってそっち行くね」
「よし決まりだな!あとはー・・・桐条先輩は無理だろなー、馨ッチ以上に忙しいだろうし。
となると・・・真田先輩・・・?」
「そういえば、真田先輩って文化祭なにかやるのかな?」
「ゆかりッチのメイド服に話題がいきすぎてたからなー、聞いてなかったよな」
「あ、じゃあ3年生の教室、行ってみる?」

そして訪れた上の階。
こちらもまた準備でごたごたしている。一般開放はあと30分ほどで始まる。
「真田先輩ってC組だったよね?」
「・・・うん、それ見ればわかるかも」
ゆかりは半ば青い顔をしてC組の前を指差した。
「な・・・なんじゃありゃあ!?」
「うわあ・・・何事?」
馨も順平も絶句した。 C組の前にはあふれんばかりの人、人、人。すべて女子。
百人はいるんじゃないかと思うほどの混雑ぶり。実際あまりの数の多さに、通行できずに困り果ててる生徒が目につく。

「ちょっと・・・真田先輩なにしてんの?軽くパニックじゃない」
「軽くっつか、ちょいヤバいな」
「とにかく、見に行く?」
騒ぎの主が真田であることは、容易に想像できた。
ここまでの数の女子を動かせるのは、この学校で一人しか思い浮かばない。
恐る恐るC組の教室に近づく。するとこの世の終わりかと思うような絶叫が次々と聞こえてきた。

「いやあ―――ッ!!も、もうダメ・・・今死んでもいい・・」
「キャ―――!!!!」

おしくらまんじゅう状態の中、3人は窒息寸前で教室の中までたどり着いた。
「・・・し、死ぬかと思った」
「こりゃシャドウよりきついぜ」

「おまえら!何してんだこんなところで」
酸欠気味の頭に響く聞きなれた声。
「あ、真田サン。何って、こっちが聞きた――・・・」
「・・・せ、先輩」
「それ・・・」

今日はやたらと驚くことが多い気がする。
さっきから思考が大変である。

「ったく、おまえらまでじろじろ見んな!」
真田が着ていたのは、執事服。
それもかなり本格的。ありあわせで作ったようなものではない。仕立てが良く、明らかに高級な感じがする。
いつもはめられている黒の皮手袋の代わりに、真っ白い手袋。
制服は順平のように着崩すことなくきっちり着ている彼だが、
こうした黒い燕尾服を着ることでさらにクールさが増して、もともと良い姿勢もスタイルも強調されている。
おまけに「執事メガネ」。漆黒の靴もピカピカ。
完璧だった。

これは確かに、教室の前がこうなっても仕方がない。というか暴動が起きないのが不思議なくらいだ。
怖いほど似合っているというのに、本人はかなり不機嫌だ。眉間は深くしわが寄っている。

「・・・真田サン、かっこいいっす」
「お世辞はいい。で、何の用だ」
「や、用っていうか、なんていうか・・・」
順平は戸惑っている。真田はあきらめたように口を開いた。
「岳羽と同じだ」
「え」
「ボクシング部は、執事喫茶だ」

――弓道部がメイド喫茶なら、うちは対抗して執事喫茶をやりましょう!
大丈夫、主将がいれば100万は稼ぐ自信ありますから!

という部員たちの熱意に負けて、しぶしぶだが了承したらしい。
「それにしても、ずいぶん高そうな服っすね」
「ああ、これか。美鶴が用意してくれたんだ」
「え!?」
「桐条グループだからな。これくらいはどうにでもなるんだろう」
そう言って、真田は慣れないメガネを中指で上げた。
その何でもない仕草に、後ろのギャラリーは一層騒がしくなった。絶叫とも取れる黄色い声がこだましている。
真田はうんざりしたように片耳をふさいだ。
・・・モテすぎるというのも大変そうだ。順平はしみじみと思う。

「あ・・・えと、先輩?」
それまで黙っていた馨が口を開いた。心なしか顔が赤い。
「その、お似合いですよ」
「・・・そ、そうか?」
「はい。・・・素敵です」

周りに聞こえないように、静かに呟いた。
お互い、顔が赤い。
そばにいるゆかりと順平はこうして時々いたたまれなくなる。最近はさらにそれが多い。
順平はすかさず、漂っていた甘い空気を消し去るように二人に割り込む。
「あーはいはいそういうのは後にしてくださいね」
「あっ、ご、ごめん」
「・・・ていうか、そろそろ戻らなきゃ。始まるよ」
時計を見たゆかりがそう言った。
「俺も部室に行かないと・・・」
「この状況で、出るんすか?」

廊下には、ギャラリーがさらに増していた。・・・すごい勢いだ。
「いかないわけにはいかないだろう。さ、おまえらも出るぞ」
いつもの癖なのだろう、真田は利き腕の手袋をギュッとはめ直して立ち上がった。
「ちょ、ちょいまち!あの、オレらがガードしますよ」
「は?」
「オレとゆかりッチと馨で先輩の周り囲みますんで・・・そのまま部室まで送ります」
「なにいってんだ。どういう意味だ?」
「こんな中、本人が突っ込んでったら、死人が出る気がしますんで・・・」


引っかかれたり足を踏まれたり、腕をつかまれたり倒れ掛かられたりしながら、無事真田を部室まで送った。
ちなみに被害にあったのは前方にいた順平である。
「・・・あー、いてぇ」
「あ、動かないで」
「災難でありますね」
再び2年F組教室。
合流した風花とアイギスは、順平を見るなり騒ぎ立てた。
「え!?じゅ、順平く・・・まさかシャドウ!?」
「タルタロスの力は昼間にまで及んでいるようですね。みなさんを呼んで戦闘準備を」
どちらかというと、この二人を落ち着かせるのも大変だった。
ちなみにゆかりはメイド喫茶で接客中、馨は生徒会の仕事中である。

「でも・・・そっかあ、真田先輩の執事服なんて、絶対に見られないものね」
「女ってのは怖いよなあ。欲望にまっすぐでさ」
「それは男も女も関係ないんじゃない?」
「う・・・」
「私も一目見てみたいけど、今、執事喫茶入場制限してるんでしょ?」
「ああ。友近が見てきたらしいけど、ひどいらしいぜ。真田さん、たぶん人生で一番疲れるんじゃねーか?今日」
「ちょっと、気の毒だよね」
「あの馨ッチまで、メロメロだったしなあ」
「え?そうなの?」

「風花さん。私、いろいろ見てきてもいいでしょうか」
アイギスが話しかけてきた。
「え?ひとりで?」
「いえ、天田さんが下で待っています」
「そっか、天田くん、来るって言ってたもんね。初等科には文化祭なんてないから・・・。
いってらっしゃい。順平くんには、私がついてるから」
「ではいってきます。順平さん、風花さん、おみやげを買ってきますね」

・・・

月光館学園、校門前。
入口のモニュメント、たくさんの出店、軽快な音楽、そしてたくさんの人。当たり前だが全員年上だ。
天田は一人でそわそわしていた。・・・落ち着かない。
(・・・馨さんに、会えるかな)
自然と浮かんでくるのは馨の顔。うん、来て正解だったな。

「・・・あ!アイギスさん!」
「ごめんなさい、お待たせしました」
「あ・・・あれ?馨さ・・・皆さんは?」
「かくかくしかじかです」
「?」
「では参りましょう。まずはあそこのチョコバナナです」

・・・

午後3時過ぎ、生徒会室。
馨は校舎内の巡回を終えて、生徒会室に戻ってきた。
「槇村。どうだ、異常はなかったか?」
「はい、異常なしです。受付にも行きましたけど、一般客の入場も盛況だそうですよ」
「そうか、ありがとう。・・・すまないな、こんな日まで仕事を押し付けてしまって・・・」
「大丈夫ですよ。巡回しつつ、結構楽しんでますから」
馨はそう言うと、持っていたビニール袋からたくさんの戦利品――ほぼお菓子だが――を取り出した。
「そうか。・・・君らしい」
「美鶴先輩こそ、疲れてますよね?」
「私か?心配には及ばないよ。この程度で心労がたまるようでは、桐条グループに未来はないだろう」
美鶴は力強くそういった。いつも通りだ。馨は安心して微笑む。

「あ、そうだ!真田先輩の執事服、さっき見ちゃいました」
「ああ、で、どうだった?」
「すごい似合ってました!本人は不服そうですけどね」
「一肌脱いだ甲斐があったな」

すると、小田桐と千尋が戻ってきた。
「ああ、二人とも。ご苦労だったな」
「あ、はい!えと、部活棟の見回り行ってきました!」
「・・・見回りも何もない。まったく・・・」
「どうした小田桐?」
小田桐は疲れ切ったように壁にもたれかかった。千尋は慌てている。
「・・・ボクシング部の喫茶店が予想を上回る混雑ぶりでして・・・」
「上回る、なんてもんじゃない。近づけなかった」
「・・・ふむ。よし、私が行こう」
「えっ?!」
「人が集まる場所にトラブルは起こるものだ。なんとか混雑を解消させよう。
こんな日にけが人を出したくないからな」

(けが人・・・。順平・・・?)
馨には、ボロボロになった順平の哀れな姿が思い浮かんだ。
これは美鶴には言わない方がいいだろう。

そして生徒会の面々は、美鶴を筆頭に部活棟までやってきた。

「なるほど。確かに他に比べてかなり人が多いな」
「あ、あれ?なんだかずいぶん減っちゃったみたいです」
「ば、バカな!さっき見た時の半分以下だ」
千尋も小田桐も首をかしげた。すると、人だかりの中から見慣れた顔が――。

「ん?・・・明彦じゃないか」
「・・・なんだ、美鶴か。生徒会が総出でどうした・・・」
現れた真田はいつもの制服姿だった。
その顔は疲弊しきっている。タルタロスなど比ではないと言わんばかりだ。

「もう着替えたのか?」
「ああ・・・今日の当番は終わりだ。まったく、死ぬところだった」
「あ、あのでも、真田先輩がいないと意味ないんじゃ・・・」
千尋が恐る恐る口をはさむ。
「そんなの知るか。だいたい俺は午前中だけ出るはずだったんだ。それがこんな時間まで延ばされて・・・拷問のようだった」
真田の足元はふらついている。見ているこっちが気の毒になる姿だ。
「そうか、それは大変だったな。だが文化祭の活性化には十分つながった。生徒会長として礼を言おう」
「・・・」
美鶴の確信犯の笑み。これは計算なのか天然なのか、小田桐と千尋は考えること自体恐ろしかった。

「あ、先輩!チョコ、食べます?つかれたときにはいいんですよ」
馨は思い出したように、ポケットからチョコレートを取り出した。巡回時の戦利品だ。
「・・・あ、でも先輩甘いものはあんまり・・・」
「いや、くれ。圧倒的に糖分が足りない」

「さて、あと1時間ほどで初日は終了だ。私はそろそろ戻るよ」
「あ、僕もお供します」
「私も行きます!」
千尋と小田桐は同時に返事をした。
「槇村。君は明彦のそばにいてやってくれ」
「!」
「そんなフラフラじゃ、帰ることもままならなそうだからな。
まったく、シャドウとボクシングにはとことん強いくせに、慣れないことにここまで弱いとは情けないぞ」
「・・・うるさい」
「じゃあ、頼んだぞ槇村」
渡り廊下に二人をこのして、生徒会メンバーは去って行った。

「あれ!?馨!・・・と先輩」
部室の方から出てきたのは、制服姿に戻ったゆかりだった。後ろにはアイギスと天田もいる。

「馨さん!こんにちは」
「天田くん、来てくれたんだ!」
「は、はい!」(馨さんに会いに来たんですよ)
「ゆかりは、もう当番終わり?」
「うん、あーもう、つっかれたー」
「ゆかりさん、接客ノリノリだったじゃないですか」
「ちょ!あ、天田くん、余計なこと言うな!」
「え、い、いた、痛いですって!」
「文化祭、天田さんと見てまわりました。非常に楽しかったです」
「アイギスさん、ヨーヨーとか射的、全部とっちゃったんですよ」
「!!」
「さすがに景品が多すぎたので、すべて返してきました」
「アイギスらしいっていうか・・・」

「あ、馨さんはもう回りましたか?」
「私?うーん、巡回ついでにちょっとだけ・・・ね」
「あ、そうか、馨さん、生徒会なんですよね」


「槇村。つきあってくれ」
ぐったりしていた真田が、突然顔を上げて馨にそう言った。 そこにいたメンバーの時間が止まる。
「?、なんだおまえら間抜けな顔して・・・俺は槇村に、一緒に校内を回ってくれと言ったんだ」

(そ、そっちのつきあってくれ、ね・・・)
(なんだろう・・・僕の真田さんのイメージがだんだん崩れていく・・・)


「いいですけど、先輩お疲れじゃないですか?」
「ああ・・・だが気分転換してから帰りたい。じゃないとトラウマになりそうだ」

真田の言うことはわかる。けどそれは避けた方がいいことは、ゆかりも天田も思っていた。
「え、えーと、馨と一緒にいくのはどうかなーと・・・」
「なぜだ」

ただでさえ、「あの二人はあやしい」と恋仲を疑われている本人たちが、文化祭で一緒に過ごすなんて、噂を露呈するようなものだ。
それこそ昼間のような騒ぎになりかねない。事情がわからない天田も、なんとなくそれはわかっていた。

「おまえはどうなんだ?槇村」
全員の視線が馨に向かう。

「い、一緒に・・・いたいです」

馨は遠慮がちにそう言った。頬を少し染めて。

ああ、そうか、そうですか。せっかくの忠告も聞き耳持たずなんですね。
そこまで思いあってるならもう何も言うことはありません。

ゆかりはそう言いたい衝動を必死に抑えた。
この場に順平がいてほしかった。順平はこういう時のツッコミ要員なのだ。
なんで私がそれを引き受けなくちゃいけないの?

「正直、巡回ナシでゆっくりまわりたかったなー、ていうのもあるし・・・」
「決まりだな。・・・そうだ、ちょっと待ってろ。
もう追っかけはこりごりだからな。見ろ、これならどうだ」

真田が取り出したのは、黒のニット帽と、伊達メガネ。手早くそれを装着した。

「どうだ」
「・・・ど、どうだって」
「俺だとわからないだろう」
「・・・そのベストで一目瞭然だと思うんですけど」
ゆかりのツッコミは的確だった。目立つ赤いベスト。真田のトレードマークでもある。

「・・・そ、そうか。仕方ない、上着を着るか」
普段はめったに着ない制服の上着。赤色は封印された。

「うわ、なんか新鮮」
「よし。完璧だ」

見る人が見ればばれる気もするが、最低限は整ったように思う。
ただ、”真田明彦”というオーラはまったく消せていない。

真田はまだふらつく足で、馨の手を取って歩き始めた。
それはあんた、無意識なのか見せびらかしているのか、どっちなの?
ゆかりにはもう、どうでもいいことだった。

「あ、馨さん!1年B組のカフェは、おすすめですよー!」

どんどん遠ざかっていく二人の背に、アイギスは必死にこう叫んだ。

・・・

その夜、巌戸台分寮。
「おっそいなあ、馨たち・・・」
「うん、順平くんも・・・。大丈夫っていうから先に帰ってきたけど、心配だな」
「槇村がいるから大丈夫だとは思うが・・・もう少し待ってみようじゃないか」

ラウンジには、馨、真田、順平以外のメンバーがそろっていた。――3人の帰りが遅い。
「・・・・!ま、まさか」
「な、なに?ゆかりちゃん」
「さ、真田先輩、あの流れで馨とラブホとか行っちゃったりしないよね!?」

「ちょ・・・っっ、ゆ、ゆかりちゃん〜!!ななな何言ってるの!しかも流れってなに!?」
「そっ、そうですよ何言ってるんですか!冗談は順平さんだけにしてください!
よ、よ、よりによって、そんな・・・!!」
「そうだ、その順平がいないからあたしがこんなボケかますことになってんのよー!
順平どこ〜!?」
ゆかり、天田、風花は真っ赤な顔で騒ぎ立てている。

「・・・・ラブホ・・・?」
美鶴は首をかしげている。すかさずアイギスが説明する。
「ラブ・ホテルの略ですね。俗称ですが、定義としては――」
「あああアイギス〜!!余計な情報検索いらないから!ね!」
「風花さん。しかし・・・」

ふと、玄関からドンという音が聞こえた。
驚いて振り返ると、そこには3人の姿が・・・。

「た・・・・ただいま・・・」
順平は今にも力尽きそうだ。

「ちょっと順平、あんたどーしたの!」
「や、学校からずっと真田さん引きずってきた・・・」
「はあ!?」
一同は膝をついている真田に視線を向ける。

「・・・あの後調子に乗って動き回りすぎてな・・・。槇村に肩を貸してもらい、それを順平が引きずってやっと帰ってこられた」
「・・・」
「俺はもう無理だ・・・明日は休む」
「明彦、それは許さん」
「な、なぜだ!文化祭の参加など個人の自由だろ」
「そういうわけにもいかない。おまえがいなくなったらあの喫茶店の利益はゼロに等しくなる。
文化祭とて一応商売だからな。文化祭の総責任者は私だし、赤字にはしたくない。それに、あの衣装代の分も働いてもらわなければならないしな」
「・・・!み、美鶴、汚いぞ・・・」
「おまえが最初に言ったんだろう。この借りはきっちり返すと」
「・・・!!」

順平はのちに語る。あの文化祭で、一番大変な思いしたのって、オレでしょ?

2011/08/23
装備「真田執事服」、お気に入りでした。ギリギリまで装着してました。