その笑顔がくれたものは、大きかった。
捨てきれない感情を生み出すほど。





笑顔







特に予定のない、日曜日。
そういう日も、たまにはいい。



「――・・・。」


静かだ。
テレビの音と、コロマルのしっぽを振る音だけがラウンジに響いている。

オレが起きた時には、もう誰もいなかった。
ま、そりゃ休みには出かけるよな・・・。

今日はコロマルとのんびりしよう。
あとで散歩にも連れて行こう。ああ、そのまま夕食の買い物に行くか。
今日くらい、全員分作ってやるか・・・。


あと数分で料理番組が始まる。チャンネルは合わせてある。
・・・それまで少し寝るか。
案外座り心地のいいソファに横になった。
コロマルも呼応するように、伏せの姿勢を取った。



自然と目を閉じた。
その時だった。



「!!」

階段の方から、すごい音が聞こえた。
飛び起きる。ついでにコロマルも飛び上がった。


「・・・!おまえ、なにやってんだ」
「あ、荒垣先輩・・・」


階段でコケたらしい、槇村馨は床にうつぶせに倒れたまま顔だけ上げた。


ほんとに、どーしようもねぇやつだ。戦うときはあんなにきびきびしてんのに、
どうして普段はこんな抜けてんだ?コイツ・・・。


重い腰を上げて槇村のそばに行った。
片膝をついて様子をうかがう。

「オイ、どっか打ったか」
「・・・いたた・・・、たぶん、平気です」

といいつつ起き上がろうとしない。足でもひねったか?
自然と視線は足の方へ。


「・・・・・・・・!!!!!」


慌てて上着を脱いで、槇村の腰のあたりを隠すように上着をかけた。


「え?な、なんですか?」
「な、なんですかじゃねえ!・・・丸見えだ!」


転んだ拍子に、槇村の短いスカートは見事にまくれ上がっていた。

「あ、すみません」
「・・・」


なんでもなかったかのような反応。コイツほんとに女か?

「でも・・・びっくりしました」
「あ?」
「わざわざ自分の上着で隠してくれるなんて、やさしくなきゃできないですよ」


そう言って槇村は笑った。
やさしい?オレが?



上着の中でスカートを戻して、槇村は立ち上がろうとした。
「立てるかよ?」

さりげなく手を差し出した。
「大丈夫です。でも、ちょっとだけ手を貸してくれると、嬉しいかも」


そう言って繋がれた手。
思いのほか、小さな手だった。ひんやりとしている。



「ふう。・・・ありがとうございました」
「ったく、気をつけろよ」
「はい」


そう言って笑った顔が、しばらく頭から離れなかった。


「あ、馨ー!ごめんお待たせ」
「うん!あ、先輩。ゆかりと出かけてきますね」
「おう」
「お土産買ってきますね!」
「あ?ああ」


岳羽と槇村は騒がしく出かけて行った。

「・・・ったく、女ってのは朝っぱらから元気だな」
「クゥーン・・・」
「コロちゃんもそう思うだろ」

二人を見送ったまま立っていると、コロマルがすり寄ってきた。
「・・・ま、悪くねえかもな」

こういう騒がしい生活も。


「それにしても・・・槇村は、変なやつだな」

オレなんかにあんなまぶしい笑顔振りまいても、何の得にもならねえっつうの。



きっと、今日オレが夕食を作ってアイツを出迎えたら――
あんな風に、嬉しそうに笑うんだろう。




2011/08/23

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