アフタースクール
「いらっしゃーい!・・・あ、真田君!」
「どうも」
駅前の商店街にある牛丼屋、「海牛」。
真田はここの常連といってもいい。店長ともすっかり知り合いになってしまった。
基本的に客の回転率が高く、常に満席状態でせわしない。
部活帰りの真田はいつものようにカウンター席に座る。店長が忙しそうに作業しながら真田に話しかけた。
「おう!部活おつかれさま。調子はどうだい」
「いつも通りです。腹が減るのもいつも通りですよ」
「じゃ、大盛りか?」
「もちろん。――おまえはどうする?」
真田は一人で来たわけではなかった。
「私も大盛り!で、豚汁とサラダのセット!」
真田の隣に座っていたのは、馨。メニューを見ながら元気よくそう告げると、真田は小さく笑った。
「ああ、わかった。店長、それで」
「お、おうよ」
(お、大盛りにセットって・・・女の子に食えるのか?)
ここの店長を勤めてもうずいぶん経つが、ああいう女性は珍しい。
しかもあんな細い体に入るのか?伝票に記入しながら店長はそう思う。
手早く作業していると、二人の話し声が耳に入ってくる。
「聞いてくださいよー、今日はありえないくらいお腹減ったんです。
なんか理緒の機嫌が悪くて、サーブの練習、気が済むまで付き合わされました」
「ああ、見ればわかる」
「そういう意地っ張りなところも理緒らしくて好きなんですけどね」
「そうだな」
「はいよ、お待ち!」
「わあーっ、おいしそう!いただきます!」
運ばれてきた料理。馨は満面の笑顔で箸を割った。
隣の真田は、肘をついて楽しそうに馨を見ている。
店長もつられて微笑み、あきらめたように言った。
「はは、やっぱ女の子の笑顔はいいねえ。よし、温泉卵サービスするよ」
「ほんとですか?ありがとう!
・・・って、あ、電話・・・先輩、ちょっとすいません」
「ああ」
馨はポケットからケータイを取り出して、背中を向けて控えめに通話し始めた。
店長はその隙に、カウンター越しに真田に耳打ちした。
「な、なあ真田君、最近あの子と来るの多いな」
「?、ええまあ」
「もしや彼女か?え?」
まるで高校生に戻ったように、真田をはやし立てた。
からかうように言ったのは、否定されることがわかっていたから。
付き合いなど浅いものだが、なんとなく真田に女っ気がないことは店長にもわかっていた。
「ま、まあな。かわいいだろ?」
「やっぱり・・・って、えぇ?!」
予想外の、真田のドヤ顔を見た。
「――美鶴先輩でした!今日は早めに帰って来いだそうです。明彦にも言っとけ、って」
「・・・なんで俺とおまえが一緒にいるのがばれてるんだ」
「さあ」
「・・・」
「あ、冷めちゃいます!食べましょう」
真田君の彼女、は牛丼大盛りと豚汁とサラダを完食して、”彼氏”と一緒に仲良く帰って行った。
いいなあ、真田君。オレも、あんなかわいい彼女がほしかったな・・・。
ていうか早く結婚したいなあ。
2011/08/23
海牛の店長が果たしてこんな軽い口調なのかどうかはわかりません・・・。
「まあな。かわいいだろ」が書きたかっただけでした。真田のドヤ顔とか見てみたい。