星のゆめ


こうして頼ってくれても構わない。
君の毎日に少しばかりのいい夢を。

・・・

久々に寝付けなかった。
寮の部屋にしては広い間取り。真っ暗な部屋が怖くて、先ほど電気をつけた。
布団にくるまってとりあえず横になっている。

怖い夢を見るのは慣れているはずなのに。一人きりで寝るのも、慣れているはずなのに。
まったく、こういう時にこそ夢の中でベルベッドルームに呼びだしてほしい。今度テオにそう言っておこう。
私が眠れないときは、話し相手になって、と。

もう影時間は終わっていた。
このままだと朝になってしまいそうだ。
体は疲れている。だから早く眠りたい。けれど怖い夢が怖くて眠れなかった。

「・・・」

無意識に枕元のケータイを開く。
メールと電話、あとは時間を見るだけであまり頻繁には開かない。

こういう時に、頼りたくなってしまうのは、いけないことだろうか。

「さすがにもう、寝てるよね・・・」

確認するかのように、小さくつぶやいてみる。
しかしケータイを操作する指は自然とアドレス帳を開いた。

以前、真田先輩はこんなことを言っていた。
寝るときは音もバイブも鳴らないように、サイレントにしてあるんだ。
もともと寝つきが浅いし、最近迷惑メールで起こされることが多くてな。

そんな、なんでもないことを話すようになったのは、一緒にいる時間が長くなったから。

カチカチ、とボタンを押す。
起きてれば、でいいんだ。と自分に言い訳しながらメールを打った。

>もう、寝てます・・・よね?

何が言いたいのかわからないメールになった。
後悔しても遅く、あっという間に送信された。

・・・返事は期待しないでおこう。
もう一度、寝る努力をしてみよう。
ケータイを閉じて、布団に潜ったときだった。

「!」
無機質なバイブ音。
返信はすぐに来た。
予想外のことに慌てて体を起こして再びケータイを開いた。

>おきてる

寝巻の上にニットのカーディガンを羽織って、静かに部屋を出た。
ついでに、枕も持って。

・・・

こんな時間に部屋の外へ出ることは初めてだった。
当たり前だが、物音一つしない。
一人でいると、怖かった。

すぐに階段を下りて、目的の部屋の前で止まった。
音を響かせないように、ゆっくりノックした。

部屋の主はすぐに出てきた。
先輩は私を見ると、ふっと笑った。
私が来ることがわかっていたかのように。

制服を見慣れすぎていて、こうしたラフな部屋着は新鮮だった。
意味もなく緊張して、胸に抱いた枕を落としそうになった。

「あっ、・・・あの、えっと」
「寝れないんだろ?」
「・・・はい」
「俺もだ」

部屋の中は暗く、枕元のスタンドライトが柔らかく光っている。
静かに招き入れられて、ドアはパタンと閉まった。

「ごめんなさい、・・・こんな時間に」

自分でも非常識だと思う。
だからとりあえず謝っておいた。
たとえ恋人でも。

「別にいい。というか歓迎するが」
「!!、あ、あの断じて夜這いでは」
「わかってる。・・・ほら」

先輩は自分のベッドの枕を、端に寄せた。
私が持参した枕を、並べて置けるように。

同じ布団に入っただけで、急に眠気が襲ってきた。
さっきまでの不眠の葛藤が嘘のようだ。

・・・あったかい。いい匂いもする。

自分の枕、持ってこなくてもよかった。
こうして腕枕をしてもらえるなんて想像してなかったから。

「・・・ひとりが怖かったんです」

ぼそ、とつぶやくように言って、先輩の首元に顔を寄せた。
なんだか猫の気分だ。

「起きたときに、そばに誰もいないことが怖いんです」

それは失った両親のことかもしれないし、これからの戦いのことかもしれない。

「夜中に不安になるのは、不可抗力だ」
「・・・そうですよね」
「俺もたまにある」
「意外です」

「けど、こうしていれば・・・安心だな」

優しく抱き寄せられた。
まぶたが重くなって、同時に幸せに満たされた気がした。

「・・・寝れそうか?」
「はい」

「何もしないから、安心しろ」
「はい」
「・・・おやすみ、馨」

はい、と返事をしたときには、もう意識は夢の中に落ちていた。
ここは、素直に返事をすべきじゃなかったなあ。
頭の片隅で、ぼんやりとそんなことを思った。

2011/09/01
めずらしくタイトル決めに時間かかったおはなし。いつもはすぐに出てくるんですが