放課後の誘い


早い者勝ち、なんて通用しないらしい。


「かーおる!ね、今日一緒に帰ろうよ!」
放課後のチャイムが鳴り響く。教室は一気にざわざわし始めた。
ゆかりは早速馨を誘う。

「ポロニアンモールにね、新しいお店できたんだ!そこのパフェが、超おいしいらしくてさー!」
ゆかりの言葉に、馨はぱあっと明るく笑った。
「うん!いい―」

「馨ッチ!ほんと、マジ、一生のお願い!今日ちょいつきあって!」
返事は順平のやかましい声で遮られた。
順平は必死な顔でこちらに走ってきた。
「ちょ、なに順平。あたしが先に馨さそったんだからね!」
「オレっち明日追試なんだよ!ちょい手抜きすぎて・・・だからお願い!今日みっちり勉強教えて!」

「はあ!?」と、馨よりも先に反応したのはゆかりだった。
「な!えっと、はがくれの特製とシャガールのランチセットケーキ付き!これでどう?」
「え、ほんと!?」
「食べ物で釣るな!」
「馨さん。今日は私と一緒にいてほしいであります。最近の放置プレイで少々傷ついております」
アイギスが半ば無理やり入り込んできた。
「ア、アイちゃん・・・どこでそんな言葉覚えたのよ」

「なんだ、やかましいな」

いつの間にか背後には美鶴がいた。
と、その隣には見慣れない顔。

「相変わらず2年F組は風紀を乱す者が多いな。ま、今日は槇村君に免じて大目に見よう」
「げ、小田桐」

順平は後ずさった。また帽子を注意される。

「どうしたんですか?美鶴先輩」
「ああ、頼みがあってな。今日は生徒会の定例会議ではないんだが、面倒事が起きてな。
出来れば君の力を貸してほしい」
「僕からもお願いするよ。槇村君がいてくれれば、いい案が出そうだからね」

すでにゆかりたちはかやの外。
するとまたまた訪問者がやってきた。

「あ、馨ちゃん。・・・えと、お取込み中?」
隣のクラスの風花がやってきた。すでに鞄を提げている。
集まっている人の多さに少々引け腰のようだ。

「ん、どしたの?」
「あのね、明日料理部でしょう?材料を買うの、つきあってもらえたらなあって・・・
馨ちゃんと一緒なら、余計なもの買わずに済みそうだし」

風花は楽しそうに笑っている。
すでに4件の誘いが入っている馨にとって、悩みどころだった。

「馨殿ー!よかった、いたー!」
「ベベ!どうしたの、めずらしいね」

風花の後ろからひょっこり顔を出したベベ。
多くの訪問者で、教室はいつもと違う雰囲気に包まれている。

「拙者、”神社”に行ってみたいでゴザル!馨殿と一緒に行きたくて」

月に一度くらい、こうした「放課後の誘い」ラッシュが起こることがある。
タイミングが悪いというかなんというか。
誘われる側としては嬉しい限りだが、最終的な判断にいつも迷う。

そして、最後の一人が。

「――馨いるか?」
「真田先輩!」

馨は笑顔で駆け寄った。

出た、強敵が。
面々は焦りを隠せない。
なぜなら彼が登場しただけでほぼ99%馨を連れて行かれてしまう。
「おい明彦!邪魔だ帰れ」
美鶴は真っ先に口を開いた。雑談している二人の間に入り、馨を背中に隠すように立ちはだかる。

「な、邪魔とはなんだ!」
「おまえのトレーニングやら牛丼めぐりに彼女を巻き込むわけにはいかない!」
さ、さすが桐条美鶴・・・。容赦ない。
誰もが思わず感心した。
「俺が誰と何をしようと勝手だろ。おまえはいつから俺の保護者になった」

しかし話はまったくかみ合っていない。
彼もまた、さすが真田明彦といったところか。
「ちょっと先輩!いつもずるいですよ、自分ばっかり!」
「そーすよ!てか今日どう見ても優先順位、オレ一番っしょ!」
「馨さんを独り占めしてずるいであります」
後ろのギャラリーで固まって、ささやかな反抗を示してみる。しかし軽くあしらわれた。
「話にならんな。いくぞ」
「えっ、あ、あの」

真田は美鶴の後ろにいる馨の手を素早くとって、すたすたと廊下を歩いて行った。
馨は引きずられるようにしてついていった。
「・・・明彦め、また腕を上げたな。この私の隙をつくとは」
「はあーあ、結局今日もダメかー。かーえろ」
「仕方ない、会長、我々だけで会議を行いましょう」
「ああ」

せめて一度くらいは、自分が勝ってみたい。

2011/09/02
ゲーム中もよく困りました。昼休みに4人くらい一気に来るもんだから、放課後悩みます。