ループ


今思えば、これがきっかけだった。

「な、2年の転校生。知ってる?」
「あー、うん結構カワイイし、なにげ有名だよな。槇村っていったっけ?」

朝、登校して教室に入ると、クラスメイトの何気ない会話が耳に入ってきた。
聞きなれた名前は、少なくとも他人事ではない。少しだけ聞き耳を立てた。

「同じクラスの伊織ってやつとつきあってるらしいぜ」
「帽子かぶってるやつ?」
「そう・・・オレも実際二人でいるのよく見るし、マジっぽい。
はあーあ、アタックしようと思ってたのになー」
「おまえじゃ無理だろ。つりあわなすぎ。そのへんの、そーだな中村あたりにしとけよ」
「幼馴染とか、勘弁だわ・・・」

あいつが、順平と・・・?
「・・・」
授業が始まっても、なかなか集中できなかった。


放課後。今日は部活がない。・・・暇だ。
朝の噂話がまだ頭から離れない。

槇村とは2、3回程度だが、放課後二人で出かけたことがある。
その時は、順平の名前なんて1回も出てこなかった。

・・・いや、わざわざ何の関係もない俺に、誰と付き合ってるなんて報告しないか・・・。
やることもなく、寮に帰ろうと玄関を出たところで岳羽と偶然会った。

「あ」
「・・あ」

意味もなくお互い足を止める。
自慢じゃないが岳羽と二人きり、というのはあまり慣れていない。
そのまま挨拶をして帰ればいいものだが、聞きたいことができてしまった。
思いついてしまった。

「岳羽、おまえに・・・ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「え?なんですか」
「ここじゃちょっとな」

「・・・?あ、じゃあワックにでもいきます?
お腹減っちゃったんで。ちなみにあたしは牛丼は嫌ですから」
「わ、わかった」


ワック店内。
この時間は、月高生であふれている。

「で、なんですか?先輩があたしになんて、めずらしいですね」
コーヒーとポテトの乗ったトレーを持って、向かい合って座った。

「・・・。おまえから見て、順平と槇村は、その、どうなんだ」
「え?・・・どうって、二人揃うとうるさいですよ。馨単純だからノリいいし」
「・・・そういうことじゃない」

「あ、戦い方とかですか?そーですね、バランスは取れてると思いますよ。馨フォローうまいし」

「そうじゃなくて!・・・その、つきあってるんだろう」
「は?」
「あの二人は」

「・・・えっ、どっからそんな話になるんです?」
「噂で聞いてな」
「そんな噂流れてるんだ・・・しかも3年生にまで」

「どうなんだ?」
「さ、さあ・・・いつも一緒にいるけど、なにも」
「・・・そうか」

「いや、ていうかなんで私に聞くんですか?馨に直接聞けばいいんじゃ」
「・・・それもそうなんだが・・・、・・・」

言葉を濁した。
確かに岳羽の言うとおりだ。しかし的確な理由が思い浮かばない。

そんな俺を見て、岳羽は何かひらめいたように、
「ああ、なるほど!」
とつぶやいた。

「・・・なにがだ」
「うん、わかりました」
「だから何がだ」
「べつに?じゃ、私帰りますよ」
「あ、おい」
「真田先輩。馨に直接聞いた方がいいですよ。もしかしたら馨も、同じ気持ちかもしれないし」
「・・・?」
「じゃ!」

岳羽は意味ありげに微笑んで、すたすたとワックを出て行った。
まあ確かに、言うとおりだ。
自分自身で真実を確かめるほかないのは正論だ。

だがなぜだろう。
・・・気が進まない。

2011/09/07
星コミュ4。ここらへんから恋愛フラグたちました。早々ゆかりに見抜かれる。 うちの真田先輩は少しヘタレのようです。