さりげなく
3学期が始まってすぐのこと。
な、なんと、席替えで、「あの」真田君の隣の席になった私・・・。
あ、写真部所属の岡本美波といいます。
たぶん「地味でも派手でもない空気みたいな、いることに違和感のない子」
というふうに皆から認識されてると思います。
我ながら的確な自己分析です・・・。
真田君とは2年生の時から同じクラスですが、話すことなどほとんど皆無、
ただのクラスメイトです。
ちなみに私はファンクラブ会員じゃありませんから!
こ、これでも一応彼氏います!(陸上部の人です!)
そりゃ、真田君と比べたら・・・残念な感じかもしれないけど!
それはひとまず置いといて。
卒業までのわずか数か月を、この席で過ごすのか・・・。
真田君は一番後ろの窓際の席。
私はその隣。窓の外を見ようとすると必然的に彼が視界に・・・。
ちなみに今は授業の合間の短い休み時間。
ちら、と左を振り向く。
真田君は・・・特に何もしてないです。
机の上にはノート、教科書、なぜか雑誌。
何もしていないのに、なんていうんだろう、なんかこう、絵になってる。
いいなあ、こういう「整った」人って。
2年間同じクラスで、しかも彼は目立つから、どうしても目が行っちゃう。
そんな私が発見してきた、彼の授業中の癖をいくつかご紹介します。
・・・座ったままできるストレッチと、グローブ磨き。
体を動かしていないと嫌みたいで、先生が黒板に向かってる隙に
腕を曲げたり腰をひねったりしてます。
後ろの人は少し見づらそうでした・・・。
あと、グローブ磨き。
自習の時とか、よくバッグから取り出してひたすら磨いてたり。
真田君といえば、黒の皮手袋なんだよなあ。
夏でもしてる。・・・暑くないのかな?
さすがに授業中、ペンを持つときは外すみたいだけど、
それ以外は常に装着。
「素手」ってめったに見ない。
ましてや至近距離なんて見たこともない。
・・・と思ってたら、真田君の新しい癖発見。
慣れた手つきで手袋を外して、何やら手首を回してます。
至近距離の素手です!!
や、やっぱり手もきれいなんだな・・・
なんか悔しい・・・。
――ん?あれ、
指輪だ!!!!
思いっきり、ペアとしか思えない指輪が!
右手の薬指に!!
シルバーの細くてシンプルなやつだから、よく見ないとわかんないけど、
確かに指輪が・・・
思わず前のめり(横のめり?)になりそうだった。
ただでさえチラ見の限界だったのに、これ以上やると怪しいやつになっちゃう。
そんな、目を疑った時間は一瞬、真田君はこれまた慣れた手つきで手袋をギュッとはめ直した。
その仕草が少し、いや文句なしにかっこよかったのは、女子ならしょうがないでしょ。思っちゃうでしょ。
そういえば・・・
彼女がいるとかいないとか、そんな噂があったような、ないような・・・。
ほ、ほんとにいたんだ・・・。
確かに、手袋してればわかんないし、授業中なんて誰も手元なんか見ないし、
部活の時は着替えと一緒に外せばいいし・・・。
「・・・ん?」
さすがに視線が熱すぎたようで、真田君は不思議そうに私の方を見た。
「何か用か?」とでも言いたげに。
隣といっても席はくっついてるわけじゃないし、
結構距離あるからイケるかと思ってたけどさすがにバレた・・・。
「あ、いや、今日はいい天気だね!って・・・思って・・・」
彼越しに移る青い空に視線をそらす。我ながら意味わかんない言い訳。
「そうだな。トレーニング日和だ」
帰ってきた返事は意外なもので。
意味はよくわかんなかったけど・・・。
卒業間近にして、少しだけ真田君のことが分かった気がする。
それにしても、あの真田君の本命になれる女の子なんて
いったいどんな子なんだろう?