おにあい
ごくごく普通の女子大生、ポロニアンモールでの買い物を終えて、モノレールに乗った時のこと。
それはそれは、奇妙な体験をしました。
うわー、やっぱりこの時間は高校生大量だなー。当たり前だけど、みんな月高生。
私は普通の公立高校だったから、小中高の校舎(しかも全部大きい)が並んで建ってるとか、制服がオシャレで校則も自由っぽいとか、
そういう月高にちょっと憧れてた。
それにしても。ちょっと時間ずらせばよかった・・・座れないじゃない。
と思ったら、ラッキー、ちょうどひとり分空いてる!
するっと人ごみを抜けて席を確保した。
はー、今日はよく歩いたから助かる。背もたれに背中を預けて一息ついた時だった。
――いいにおいがする。
隣は高校生の女の子。
モノレールの固い椅子は狭くて、必然的に肩と肩がくっついた。
香りの主の顔が気になって、つい隣に視線をうつした。
あれ、寝てる。――って、かわいい子・・・。
一目見て「負けた」と思った。
その子は隣の男子高生の肩に寄りかかって眠っていた。
随分気持ちよさそうに。
ついついその男子にも目が行った。
――息をのんだ。いやいやいや、月高ってこんなにレベル高かったの?
あんな顔が何で、さも当たり前のようにモノレールなんかに乗っちゃってるの!?(混乱)
その彼は隣の子を避けるでも寄せるでもなく、自然体で本を読んでいた。
目線の高さに片手で持った新書サイズの本は、英語の参考書のようだ。
30秒くらい。
凝視してしまった。たぶん、めったに見られない目の保養。これくらいはいいでしょう。
ふと、車内アナウンスが響いた。どうやらもう巌戸台に到着するようだ。
彼は本を鞄にしまうと、隣の彼女に声をかけた。
混雑した車内でのその小さな声は、彼女以外だと隣の隣にいる私にしか聞こえなかったと思う。
「起きろ馨」
「・・・むにゃ」
「・・・」
「ほら」
「んー」
ペシッ
「ひゃあ!!」
その男子は彼女の頬を軽くたたいた。
ほほえましい光景だけど、彼女の目覚めは最悪のようだった。
「い、いたいですー!!」
不意を突かれたその子は頬に手を当てながら赤い瞳をつりあげた。
「すまん、つい力加減が」
と言いつつ彼の顔は平然としていて悪びれた様子はない。
いつものことなんだろうか。
「悪かった」
彼はそう言いながら、先ほどたたいたその子の頬にキスをした。
チュウ。そういう擬音語がふさわしい場面、初めて遭遇した。
その行為はあまりに自然で、二人にとっては何の違和感もなかった。
あれだろうか。見ている側の配慮はしてくれないのだろうか。
「こっ、公然猥褻処刑ですか!?」
彼女は毛を逆立てた猫のように身構えて顔を真っ赤にした。
それが普通の反応だと思う。
「だってこのままさするわけにもいかないだろ」
彼は両手を小さく上げた。
これまた違和感のない、黒の皮手袋。
手袋をしたままその子の柔らかそうな頬を撫でるわけにはいかないと思ったのだろうか。
その代わりにほっぺにチュウって・・・。かっこいい人は思考回路も普通じゃないのか?
同時に列車が止まり、ドアが開くと中の人が一斉に外に掃けて行った。
その子たちも、何やら言い争いながら(実際には彼女の文句を彼がかわして)並んで席を立った。
その後ろ姿は、今日見たカップルの中で一番お似合いで、楽しげに見えた。
2011/09/21
笑うところです。砂糖よりも甘いシリーズ第1弾。
見るに堪えないと判断したらこちらのシリーズに入れます。その差は紙一重。
甘いというかただのバカップルにしか見えないのはご愛嬌です。
真田先輩と女主ちゃんが一緒にいると、いつか(先輩が)公然わいせつ罪で捕まると思う。