輝ける星 10
僕を困らせることばかり言う
君でもずっと愛していくから
やっと見つけた、輝ける星を。
必要か不必要か、意味があるのかないのか。
俺はそういう考えで生きてきた。
世界が広くなる、というのはこういうことか。
自分の今までの視野の狭さに驚くほどだ。
苦笑して、「彼女」になった槇村のことを思った。
そろそろ、けじめをつけるときだと思う。自分の過去と、この気持ちに。
普段は入らない店に入って、うさぎのぬいぐるみを購入した。
この表情といい赤い瞳といい、なにより言いようのないかわいさといい。
あいつそっくりだ。
・・・
あれから、顔を合わせるのはなんだか気恥ずかしかったが、以前のような気まずさはもちろんなくなっていた。
誤解もあきらめも不安も――そして過去も、共有することができたから。
すっかり寒くなったある日の放課後、寮の部屋に槇村を呼んだ。
「ほんとですか!?いきたいです!」
警戒心ゼロの笑顔に、少し、いやかなり心配になった。
そんな、ほいほい男の部屋に行くもんじゃないんだぞ?
誘った俺が言うのも、なんなんだが。別に、変な気持ちは断じてない。
彼女を部屋に入れてから思った。
この部屋は、女子を呼ぶにはおかしいかもしれない。気づいたのが遅すぎた。
しかし槇村は、当然のように「なにが変なんですか?先輩らしくて、なんだかうれしいです」と。
なんだか落ち着かない槇村に、さっそくあれを渡した。
袋から出すのは、少し勇気が必要だった。
「おまえに、似てるだろ?」
そう言うと、槇村はぬいぐるみを胸に抱いたまま頬を膨らませた。
「なんだ、その顔は。・・・似てるだろ」
そういうかわいいところが。
「おまえがいなかったら、俺は何も乗り越えてこられなかったかもしれない」
いくつかの季節を一緒に過ごして、気づいたことはたくさんあった。
教えられたことも、与えてくれたものも。
そして過去を乗り越える力をくれた。いつの間にか、好きになっていた。
俺にとって、他人を理解することは難しい。
こうして、何度か傷つけてしまった。
それでも、あきらめたくはなかった。
ひたすら力だけを求めていたんじゃ、なにも強くはなれなかった。
――槇村が、俺を強くしてくれた。
「・・・ありがとう」
やっと言えた。
その一言だけで、なにが伝わったろう。
言いたいことがありすぎて、それしか言えなかった。
槇村は恥ずかしそうに微笑んで、小さく頷いてくれた。
つかず離れずの、いつもの距離。
だが今は、手を伸ばせばこたえてくれるようになった。
――こんなふうに。
静かに抱き寄せると、細い腕は控えめに俺の背中に回された。
「・・・馨」
こうして声に出すのは2回目だった。
愛おしい響きだった。
「人前では、呼べないな」
それは精いっぱいの照れ隠しだった。
「・・・幸せにするよ」
はい、と涙ぐんだ声が、腕の中から聞こえた。
馨はぽつぽつと、口を開いた。
ねえ先輩、今度、連れて行ってください。
美紀ちゃんのお墓に。
・・・よろしくねって、挨拶したいから。
今度こそ、守り抜く。
なにがあっても。
これからは、一緒だ。
そうやって人前では泣けないところも、意地を張るところも、自分より人を優先するところも、心からの笑顔も――
ずっと愛し続けていく。
Fin...
2011/09/23
真女主を書き始めて、断片的な短編だといろいろわからないことがでてきました。
なので、時系列を追ってふたりを見ていくことにしました。私の思う、素直な二人の気持ちが書けたと思います。
長いお話でしたが、読んでくださってありがとうございました。