決死の戦い 03
「俺ぁエスプレッソ」
「じゃあ俺はアメリカン」
「あたしココア!あと、今日のおススメケーキのプレートセット」
「ぼ、僕はフェロモン珈琲で」
夜のシャガール辰巳店。
小さな丸いテーブルを囲んで、座り心地のいいソファにそれぞれ4人が座っている。
制服姿の女子高生。全体的にどこか目立つ赤いベストの男子高生。
ニット帽を深くかぶった、私服の(おそらく)男子高生。そして、背筋を伸ばしまくっている小学生。
異色な組み合わせの集団客の注文を取り終わったウエイトレスは、小さく微笑んで「かしこまりました」とその場を後にした。
「天田おまえ、飲めないもん頼んでんじゃねーよ」
「よりによって、なんてチョイスだ・・・」
小学生の天田が注文したフェロモン珈琲。
確かに対象年齢が違う気がする。
さっそく荒垣と真田が同時にため息をついた。
天田はムッとして二人をにらんだ。
「べ、べつにいいじゃないですか!何飲んだって」
「小学生がフェロモンまとってどうすんだよ」
「いいじゃないですか、年齢のハンデです」
その言葉に、一気に3人の間に火花が散った。
その空気にさらされても、馨はまったく気が付かない。
「おまたせいたしました」
唯一フードメニューを頼んだ馨の手元に、ケーキの乗ったプレートが置かれた。
そして4人分のドリンクも。
「きゃー、おいしそー!」
馨は待ちわびていたように小さなフォークを手に取って、嬉しそうに笑った。
女子にとってケーキは最強のごほうびである。
(・・・かわいいなあ馨さん)
(今度ケーキ作ってやるか・・・)
(まったく、こっちが嬉しくなるな)
それぞれが幸せをかみしめながら、注文したドリンクに口をつけた。
猫舌の荒垣は念入りに中の液体を冷ましている。
(・・・大丈夫、苦くない、苦くない)
初挑戦のフェロモン珈琲。天田は必死に自分に暗示をかけた。
かなり勇気のいる挑戦だった。だがなりふりなんてかまってられない。
ただでさえ、自分には「年齢の差」という越えられないハンデがあるのだ。
さらに致命的ともいえる二人のライバルの存在。
同じ男として、二人ともレベルが高いことは認めざるを得ない。
だったら自分も魅力をあげなければ。
(よし!)
自らに気合を入れ、まだ熱い液体を口に含んだ。
「・・・・・・・・!!!!」
マズイ。マズイ。不味い!!!!
最悪なことに、飲みこめなかった。舌で味を確認する前に飲んでしまえばよかったものの、時すでに遅し・・・。
どうする。どうする。吐き出すわけにもいかない。飲みこむのも嫌だ・・・!!
必死で考えるうちに、むせた。
「あ、天田君!大丈夫?」
苦しそうに咳き込む天田の背中を、馨は必死にさすった。
「か、馨さ・・・すみません、ゴホッ」
「いいからいいから、あ、そうだ、あたしのココア飲む?少しは落ち着くよ」
小さな背中に手を置いたまま、馨は半分に減った自分のカップを差し出した。
(((そ、それは・・・間接キスじゃないか!))))
ピシャァアーン。
3人の頭上に同時に雷が落ちた。
「い、いいんですか?」
「うん!じゃあ代わりに、そっちもらっちゃおうかな」
「ぜ、ぜひ」
「うらぁ!!!」
馨から天田へ手渡される直前、急に立ち上がった荒垣の手によってココアカップは没収された。
「てっ、てめえらなにやってんだ!おめーも小学生のくせしてにやついてんじゃねえ!」
「ちょ、なにするんですか!せっかくの馨さんの気持ちを」
「小学生はメロンソーダでも飲んでろ!」
「荒垣さん!どさくさに紛れてカップをすりかえないでください!卑怯にもほどがあります」
「ばっ、このガキ、つ、つくってんじゃねえ!」
二人の言い合いはヒートアップしていく。
さすがの馨もただならぬ空気を感じて止めに入った。
「な、なんでケンカになってるんですか?そうだ!ほら、荒垣先輩、あたしのケーキひとくちあげますから!
はい、あーん」
馨は満面の笑みで、フォークにケーキをのせて荒垣に差し出した。
誰もが憧れる、あの光景である。
当の荒垣は顔を真っ赤にして後ずさった。
「お、おまえな、そういうのは二人っきりの時に」
それまで静かにコーヒーを飲んでいた真田が身を乗り出して、
フォークを持ったままの馨の手をつかんでケーキを口の中にさらっていった。
「うん、うまいな」
「もう、真田先輩、ほしいならあげたのに」
「なら今度は口移しで」
「その手をはなせぇー!!」
荒垣の体を張ったツッコミでなんとかセクハラ行為は早急に終わらせた。
「アキ、おめーがいちばんタチわりぃ!あと気色悪いことを爽やかな顔で言うんじゃねえ」
「せっかく馨が分けてくれたケーキを無下にする方がどうかと思うが」
「そ、それは」
「そーですよ!ていうか荒垣さんがいちばんムッツリです。なにが二人っきりの時に、ですか」
「るせえ!俺はムッツリじゃなくてガッツリだ!」
「あー!開き直った・・・!馨さん、はなれてください危険です!」
リーダーとして、皆には仲良くしてほしいんだけど。
馨の最近の悩みの種は、この3人だった。
2011/09/23
この四画関係は書くのが楽しくてたまらないです(笑)
特にラブコメ要員だからだな!