おかしなふたり
あのあどけない笑顔を見ているとつい忘れてしまうのだが、
彼女が転校してきてから、学年トップは例外なく彼女のものだ。
ゆかりや順平が見るに、ものすごくガリ勉というわけではない。
ただ、授業中うとうとしているところは見たことがない。
それに、どちらかというと勉強よりも課外活動に力を入れているように見える。幅の広い交際も。
だったらどうして学年トップなんて偉業を達成できるのか。
授業中よっぽど集中しているのか、夜に勉強しているのか、もともと頭がいいのか。
たぶんぜんぶだと思う。
「頭がいい」にはいろいろ意味があるが、ただ「勉強ができる」という意味では少なくともない。
こんなことがあった。
・・・
日本初出店だというカフェが、ポロニアンモールにオープンした。
そんな情報を持ってきたのは順平だ。意外とミーハーなところがある。
都合のつくメンバーを誘って、さっそくその日の放課後行くことにした。
オープンから1週間たったこともあって、それほどの混雑ではないが、広い店内の空席は数えるほどだった。
サンドイッチ、ケーキ、サラダ、豊富なドリンクにスープなど、
正直、初見では把握しきれないくらいのメニューの多さだった。
カウンター形式で、とりあえずレジの列に2列に分かれて並んでみる。
自分たちの注文の順番までに、なんとかメニューを決めないと。
あと6人といったところか。
「な、なあゆかりっち、コレどういう意味?」
「え?」
「このプレーンドッグって」
「もー、どこみてんのよ、下にトッピングが」
「そりゃわかるよ。これっしょ?好きなトッピングを選んで自分だけのオリジナルサンドを作ってみましょうって」
「で?」
「こっちのできあがってんのとは違うの?中身一緒なんだけど。しかも同じメニューに違う値段が3つもあるんだけど。
これセット価格とは違うっぽいし。
しかもセットにAからFまであって、さらに組み合わせがそこからさらに3つくらいに分岐してんだけど」
「だ、だからそれは」
「しかも表と裏に同じメニューが違う日本語で書かれてる・・・」
確かにメニューはややこしい。あちこちに矢印があって、どこをどうみたらいいのか。
2回3回と通えばなんとなく理解できそうだが、初めての客に3分足らずで決めろなんて不親切極まりない。
それに加えて順平がさらにややこしく聞いてくる。
どうにかなると思っていたゆかりも、言われてみればなにをどういう組み合わせで頼んだらいいのか混乱してきた。
「・・・」
「桐条先輩、どうしたんですか?」
「・・・なあ山岸、もう決めたか?」
「ちょっと迷ってます、これだけあると。先輩は?」
「いや・・・実は、この手の店に来たのは・・・数えるほどしか・・・
以前たこやきとラーメンは経験したんだが」
「そうなんですか?じゃあ、そうですね・・・あっ、これどうですか?」
「なるほど、開店記念スペシャルセットか。この量でこの値段ならお得だ」
「ハイ。じゃあ、このAとB両方頼んで、半分こしましょう!」
「すまないな」
通常メニューとは別に設けられた、店内の隅に張られたポップ。
風花たちはたまたまこれを見つけて、すんなりと決定した。
レジの順番はすぐそこまで来ていた。
「ね、馨!もう決めた?」
「真田サン、ヘルプ」
前列に並んでいた馨と真田の様子を、ゆかりと順平がうかがった。
二人はいつも通りだ。
「うん!もう決めたよー!」
「ああ、俺も」
「えーっとね、」
二人は同時に口を開いた。
「「ロングのプレーンをトーストして、アボカド少しチーズ多めトマト3切れにローストチキン、
あ、このチキンのドレッシングはマヨネーズに変更して、AセットをつけてドリンクはLに変更、あとは単品でスープ」」
「・・・・」
――なんだ今のは。シンクロ率100%だ。
あまりの完璧さに、後ろにいた風花と美鶴も目を丸くした。
「先輩、ハモらないでください」
「おまえこそ真似するな」
「私はただ、せっかく来たんだから一番コスパのいいお得な組み合わせを計算しただけです」
「それこそ真似するな。じゃあセットのドリンクはいったいなににするんだ」
「メロンソーダです」
「なら俺の勝ちだ。カフェラテの方が原価が高い」
「飲みたいものを飲んだ方が結局はお得なんです!」
「メロンソーダなんてコンビニでも買えるだろ」
「あ、あの、二人とも今日初めてここ来たんだよね」
ゆかりが恐る恐る聞いた。
「そうだよ?」
「当たり前だろ」
「・・・メニュー全部把握したうえでのチョイス?」
「え?うん」
店内に入ってまだ5分もたっていない。
この複雑極まりないロジックツリーのようなメニューの関連性と仕組みを一目見ただけで理解して、
なおかつ一番元が取れるような組み合わせを導き出すなんて。
普通は、何度も足繁く通っていろいろ試してみて、やっとたどり着く、それこそ真理のようなものなのに。
馨の頭の回転の速さは、たとえば作戦時や探索においてなんとなく感じていたが、こんなところでも発揮されるのか。
一方真田先輩は、まあ、なんとなくわかる気がする。なぜか、できそうにないことをやってしまうイメージがある。
逆にできそうなことができないことが多かったりする。
なんだかんだとやっているうちに、レジの順番がやってきた。
「いらっしゃいませ!ご注文をどうぞ」
「えと、これとこれとこれ、あとこの人の分、これとこれとこれで!」
「あ、おい!」
馨は真田を押しのけて、二人分の注文をすませてしまった。
一つはさきほどの「ベストチョイス」、もう一つは全く違うメニュー。
「勝手に決めるな!」
「いじゃないですか、先輩の好みに合わせましたから」
「・・・ま、まあ確かにそうだが」
「ね!」
つまりは相手の好みを把握するほど仲がいいと。
「かしこまりました!お次の方、どうぞー」
「あ、き、来た!」
「順平、緊張しすぎ・・・もういいじゃん、オススメくださいで」
結局ゆかりと順平は店員のオススメチョイスに従った。
途中でなにやらいろいろ聞かれたが、「それすらもおまかせで」何とか乗り切った。
つくづく思う。
どこまでも、あの二人は一緒にいて違和感がないって。
それはどうやら、頭のつくりが一緒だからかもしれない。
2011/10/06
サ○○イに初めて入ったとき混乱しました。