必需品


女子高生の体組成の何割かはお菓子である。
その補給場所が、登校途中のコンビニだったりする。



駅と学校の間にあるコンビニというのは、必然的に高校生の利用が多くなる。
というか高校生専用になってくる。 特に朝と夕方の登下校の時間帯がピークだ。

今朝も例外ではない。
まず雑誌コーナーが男子生徒で埋め尽くされる。
特に毎週月曜日は例の漫画雑誌の発売日で、立ち読みスペースの確保が難しいほど混雑する。
続いてパンやおにぎりが一気になくなり、それを見計らったように店員が補給をする。

「馨ー、今日もアレでいいの?」
「うん!」

お菓子コーナーの前で何やら真剣に品定めをしている馨に、ゆかりは棚越しに声をかけた。
少し大きな声を出さないと聞こえない。それくらい店内はざわついていた。
自分の分の紙パックのカフェオレと、馨がいつも飲んでいるペットボトルの「アレ」を持って、
ゆかりは馨のところまで戻った。

「はい、どーぞ」
「ありがと!」
「あんたも好きだよねー、レモンティー」
「おいしいもん」
「わかるけど」
「ゆかりだっていつもそれじゃん」
「・・・あたしはいいの!」

放課後までの水分補給用の飲み物に、とりあえずの昼食。
購買で買うときもあるし、こうしてコンビニですますこともある。
そして欠かせないのが、やっぱりお菓子。

「なに、また悩んでんの?」
「うーん、たけのこの山ときのこの里、どっちにしようかなって」
「わかるー!じゃあさ、間を取ってこっちの・・・」
「――そんなのどっちでも同じだろう・・・」

盛り上がっている二人の後ろから、聞きなれた声。
半ばあきれ顔の真田が立っていた。

「あれ、先輩コンビニにくるなんてめずらしい」
「別に、たまたまだ」
「ていうか、同じじゃないですから!重要な選択なんですよ」
「どっちもチョコレートとクッキーじゃないか。形と名前が違うだけで」
「食感がぜんぜん違うんです!」
「なら二つ買え」
「そういう問題じゃ」

またか。
ゆかりはため息をついた。
二人は当然のように言い争っているつもりなのだろうが、はたから見ればただのバカップルだ。
「・・・あたし先出てるからねー」
ゆかりは棚から「新発売」のポップがさしてあるスナックを手にして、そそくさとレジへ向かった。

・・・

店を後にして、結局3人で登校することになった。
馨は歩きながら、早速袋からお菓子を取り出した。

「あっ、結局そっちにしたんだ?」
「うん!」
「おい、朝からそんなものを」
「え?」

嬉しそうにお菓子を開ける馨に驚いて、つい言ってしまった。
信じられなかった。朝からそんなものを食べるなんて。
岳羽もそうだが、女の行動はまったく理解できない・・・。
”これ以上食べるとヤバイ”?だったら食べるなと言いたい。
ああそうだ、それに。
「だいたい昨日だって帰りに食べてたろ」
モノレールの中で、鞄からなにか取り出しては口にしていた。
そのたびに違うものが出てくるから、鞄の中身の内訳がとても気になった。
「あれは昨日の分ですから。それに、これだってひとくち食べたら仕舞います」
「・・・おまえ、そんなに食べてばっかりいたら、余計な脂肪」
「なに?」
「・・・・・・いや」
いつもは人並み以上ににこにこしているのに、こういう一瞬の表情の変化のギャップが大きすぎて、たまに動揺を隠せない。
・・・いらんことは言うもんじゃないな。馨はめったに怒らないから、なおさらだ。
「私はいっぱい動くからいいんです」
馨は不満げにそっぽを向いて、チョコレートでコーティングされたクッキーを口に放り込んだ。
まあ確かに、その通りだが。
朝から晩まで授業に部活に交際にアルバイトに、はたまた夜中にタルタロスを走り回る。
そんな生活をしていれば、確かに何をどれくらい食べても太るなんてことはないだろうが。
それに、馨の体に余計な脂肪がついてないことくらい、俺がいちばんよく知っている。
・・・ん、なんだ。俺は別に間違ったことは言っていない。

「だからって、甘いものばかり食べていたら栄養が偏るぞ」

自分で言った後にふと考えた。
そういえば、シンジにも同じことをよく言われた。

「アキ、おめえ肉ばっか食ってんじゃねーよ。野菜を食え、野菜を!」

・・・。
シンジの気持ちが、少しだけわかった気がした。

2011/10/06
正しくはきのこの山にたけのこの里ですが。ちなみに私はきのこ派です。