つながり


「じゃあ風花、行ってくるね!」
「ハイ、がんばってください!」

”行ってくるね”。
タルタロスエントランスでのそのお決まりのセリフは、
いつもならリーダー・・・馨ちゃんが言うはずだった。
今日は、ゆかりちゃんの方が元気みたい。

「馨、どしたの?」
「ん?ううん、なんでもない」
今日の馨ちゃん、少しだけおかしい。
おとなしい・・・っていうか。あ、いつもうるさいってわけじゃなくて。

「馨ちゃん、もしかして不調?」
「どうだろ。でもたいしたことないし、今日は早めに切り上げてくるからさ」
私よりも背の高い馨ちゃんは、苦笑しながらそう言った。

「・・・ゆかりちゃん」
「ん?」
後ろでこっそりゆかりちゃんに耳打ちをした。
「馨ちゃん、今日は無理させないように、見ててほしいの」
「オッケー。任せて」

リーダーだから、というのもあると思う。
私ががんばらなきゃいけない。そういう思い。
でも一人で突っ走ってる感じは全くなくて。

きっと、仲間をだれよりも大切に思ってるのは、馨ちゃんじゃないかな。
だから自分のことは後回しにしてそう。

「・・・いってらっしゃい」
私はここで、できるだけのことをするから。

・・・

「・・・ったくどうなってんだ今日は」
「あ、真田サンも感じます?」
「どうしてこんなに次から次へとヤツらが湧いてくるんだ」
「つかタルタロスって霧出ましたっけ?」
真田先輩と順平は背中合わせになってため息をついた。
たしかに今日はいつもより敵・・・シャドウが多い。加えて霧が濃い。
「馨ッチー、どうする?これじゃキリねーよ。強行突破して上行く?」
「あ、うん・・・」

あれ
なんか
めまい?
やばいな
どうしたんだろ

「馨!うしろ!!」

ゆかりの声が変な方向から聞こえてくる。
うしろ・・・?

振り向くと
ドン、という衝撃とともに視界が真っ黒になった。
いや
”真っ赤”になった。
この赤は
真田先輩の、ベストの色だ・・・。

隙だらけだった私。
背後から襲ってきたシャドウから、近くにいた真田先輩がとっさに私をかばってくれた。
「・・・くっ」
抱きしめられるような形になって
先輩は背中でシャドウの攻撃を受けてしまった。

「・・・・」
「・・・じゅ、順平!いくよ!」
「お、おう!」
ゆかりと順平はあまりに突然の出来事に、ついていけていないようだった。
刹那の沈黙の後、我に返った二人は、迷いなくペルソナを召喚した。

・・・・

いつの間にか霧の晴れたタルタロス内部。
階段付近で、3人は壁にもたれかかる真田を取り囲むようにしていた。

「・・・平気っすか?」
「ああ。だてに鍛えてないさ」

いくら真田がボクシングで強くても、日々の筋トレがシャドウに通用するかどうかは順平にとって疑問だったが、何も言わなかった。
――自分は何も出来なかったから。真田と同じ場所にいたはずなのに、気づいたら先輩は馨を守っていた。

「・・・アバラとか、大丈夫ですか?」
ゆかりが心配そうにのぞきこんできた。
「・・・おまえら、そんなに俺のアバラを折りたいのか」
以前シャドウにやられたアバラの話をこんなところで思い出したくない。

「・・・で、おまえは平気か?槇村」
「・・・・はい」

馨はか細い声で答えた。真田の前に、力なく座り込んでいる。
さきほどもそうだったが、今は輪をかけて別人のようになっていた。

「・・・すみませんでした」
「助け合うのは当たり前だろ。謝るな」

真田はなんでもなかったかのようにそう言った。ゆかりも順平も、複雑な思いは隠せなかった。
もし真田先輩がいなかったら、自分は馨を助けられただろうか?
・・・わからない。力不足がこんなにも悔しい。ただ、二人ともいまは口を開けなかった。

「・・・今日はこのくらいにしとくか。ほら、立て・・・
、・・・っな、なに泣いてるんだ」
真田は動揺を口調に表した。言うとおり、馨はその赤みがかった大きな瞳にうっすら涙をうかべていた。
「私が悪いんです」
「・・・さっきも言ったろ。俺は――」
「ちがうんです!」
馨は急に声を荒げた。まるで、自分に言い聞かせるように。
「調子悪いまま先へ進んだらこうなることくらい、わかりきってたはずなのに・・・
もっとしっかりしなくちゃいけないのに。
もう、誰も失いたくないのに!」

誰も、というのは
死んだ両親のことだろうか。

いつもの馨は暗い過去を絶対に口にしない。
そんなそぶりは見せない。

周りを大切にしたい気持ちが強くて
から回る自分自身が許せなかった。

こんなふうに感情を取り乱す馨を見るのは、順平もゆかりも、もちろん真田も
初めてだった。

ゆかりも、順平も
声をかけられなかった。

真田はまだよろめく体を起こして、馨と向き合った。
左手のグローブを外して、丸みを帯びた馨の肩にそっと手を置いた。
その方が、言いたいことが伝わるような気がしたからだ。

「おまえは皆を守るための戦いをしてるんだな」
「・・・」
「だったら世界中でたった一人、俺だけはおまえを守るために戦うよ。――さっきみたいにな」
「先輩・・・」
「そんなに強がるな。もっと俺を頼れ」

馨は誰からも好かれていた。もちろんSEESの面々からも。
近頃は、反発気味だった順平も馨を認めるようになった。

それは彼女が独りよがりじゃないから。自分だけでなんとかしよう、なんてしなかった。
けれど、本人さえも意識していない奥底では、皆を守るのは自分しかいないと思っていた。
もう誰も失いたくないから。

それは諸刃の剣だった。
じゃあ自分を守ってくれるのは
自分自身?それとも、誰もいない?

本当は、助けがほしかった。
心の底から信頼できる、身を委ねられる、誰かの力が――

「・・・ほら立て。帰るぞ」
「・・・・うぅ〜っずみまぜんっ・・・・」
「みっともない。泣くな」
「岳羽、順平、おまえらも一緒に・・・、・・・・!?」

「・・・真田さん・・・っオレ、オレ・・・っ自覚足りてませんでしたぁっ!!」
「な・・・っ」
「あ、あたしも・・・っひっく、馨がそんなに・・・そんなにあたしたちのこと・・・」
「な、なんだどうした!?・・・おい、山岸!聞こえてるだろ、早く帰還させてくれ」
「あ・・・っ、はい、わ・・・わかり・・ましたっ・・・ぐすっ」
「・・・なんでおまえらまで・・・って、コラ!3人まとめて抱きつくな!鼻水をかむな〜!ベ、ベストが汚れ・・・」

・・・・

数日後

「なあ・・・ゆかりッチ」
「あれ順平、早いね」
「なーんか早く起きちゃってさ。・・・馨は?」
「今日は部活の遠征!だってさ」
「あいつらしー。てか丸一日フリーの日なんてぜってーないだろ?」
「言えてるー」

「・・・あの時の真田サン、かっこよかったな」
「うん」
「あれってさ、告白?」
「・・・どうだろ」
「世界中でオレだけは、おまえを守る・・・か。オレもいつか誰かに言ってみてぇなー」
「・・・ねえ順平」
「ん?」
「がんばろうね。いろいろさ」
「・・・おう」

2011/08/09
私は戦闘パーティにはほぼ100%真田先輩を入れてます。