オーバードライブ
今まで生きてきて、さっきまで自分が何をしていたのか思い出せなかったのは初めてだった。
ああ、酔っぱらうってこういう感じなのかな?
まだお酒は飲んだことないけど、きっと二日酔いってこういうことを言うんだろう。
つまり私は今二日酔い・・・?
知らない部屋。大きなベッドの上にいる自分。周りには誰もいない。
紛れもない自分の体の違和感に気が付いて、確認するように下を向いた。
・・・制服が乱れてる。大きなリボンはなぜか床に落ちている。
いつもきっちり上まで止めてあるボタンは2つ開いている。
――スカートは、大丈夫。もちろん、下着もちゃんと上下身に着けてる。
って、なんの心配してるんだろう私は。それに、違和感は服装だけじゃない。
特に首筋が痺れるように熱い。初めての感覚だった。
それに気づいた瞬間、断片的な記憶の映像が目に浮かんだ。
(・・・・・・・・・・・!!!)
その映像のあまりの衝撃に、息もできずに体は硬直した。
同時にバスルームのドアが開いた。そこには、想像通りの姿が・・・。
「おまえ、次・・・」
夢じゃ、なかったみたいだ。
紛れもなく真田先輩だった。
腰にタオルを巻いただけで、ほとんど裸だった。
その姿に全く違和感がないのが、さすがといったところだろうか。
なにが「さすが」?だめだ頭が回ってない。
本人を見たせいで、より鮮明に思い出してしまった。
途切れ途切れだけど、あの感覚は、つまり、その、・・・そういうことで。
不器用に抱きしめられて、ぎこちなく首筋に顔をうずめられた。
それが生まれて初めての感触で、だからこんなに体に残ってたんだ。
でも、でもそれ以上のことはしていない。
先輩はそのまま逃げるようにシャワールームへ行ってしまった。
そして、今に至る。・・・ていう流れのはず。
10秒ほど目を合わせたまま、二人とも止まっていた。自分の記憶を確認するように。
「――な、な、なな何だこれは!?どういうことだ!?」
私に少し遅れて、先輩も正気を取り戻したようだった。
お互いに認識したことで、なんだか急に恥ずかしくなる。
「ふっ、服を!服を着てください!!」
「あっ、ああ、そうだな、そうだな!」
バタン。大きな音を立てて、ドアは再び閉まった。
シャワーの水音が大きかったせいで、静まり返った今の部屋には、先輩が服を着る音が嫌でも響いた。
心臓の音が収まらない。・・・男の人の半裸を見てこんなにドキドキするなんて、情けない・・・。
そうだ、相手が真田先輩だからだ。
きっと相手が順平とかだったら――
笑い飛ばせることかもしれない。(それはさすがに無理かな)
普段ああいうストイックな人の、ああいう姿は
反則でしょう。
その間、風花からの通信が入った。
――精神攻撃。・・・冗談じゃない。よりによって、なんてことしてくれてんの?
再びあいまいな記憶をたどった。
キスは
したんだろうか。
自分の唇に聞いてみてもわからない。今でもわかるような感触は残ってない。
不思議と、嫌な気持ちはしなかった。
もししていたとして、ファーストキスだった。
なぜだろう
嫌じゃなかった。
あっという間に先輩は戻ってきた。制服はいつも通り完璧だった。
「・・・」
「・・・」
「・・・その、さっきのことは、秘密で、頼む・・・」
あいまいな記憶。
あいまいな抱擁。
けど、これだけは確かだった。
あの時の先輩の顔は、今まで見たことないくらい、優しかったってことだけは。
2011/10/06
初見で非常に衝撃を受けたラブホイベント。もうちょっと長ければな!と思ったり。