たとえばこんな幸せな朝
大学は遊びに行くところだと聞いたことがあるけれど、
少なくとも私の周りの大学生は、至って真面目である。
美鶴先輩は海外の大学に留学したし、明彦は誰もが知っているようなトップレベルの国立大学に入学したし。
彼曰く、「今までボクシングやSEESの活動に充てていた分の時間を勉強に費やしたまでだ」そう。
いたっていつも通り。やることは高校生の頃と何も変わらないさ。
さらりと言いのけたその涼しい顔の裏に並々ならぬ努力とゆるぎない意志があること、知っている人は限られてると思う。
「・・・ん、・・・あれ?」
目が覚めると知らない天井、いや、久しぶりの天井だった。
そうだ、泊まりに来たんだ。一人暮らしの彼の部屋に。
「おはよう」
コーヒーカップと新聞を手に、明彦は私の隣で微笑んだ。
ちなみに英字新聞。苦手(といっても人並み以上には出来る)な英語を克服するために読み始めたらしい。
ベッドのそばの小さなテーブルには、いつものように、普通の朝刊も置いてあった。
時計を見ると、まだ朝の6時。カーテンの隙間からまぶしい光が差し込んでいた。
ああ、そうだよね、この人は朝にめっぽう強い。
寝ぼけた顔なんて、見たことがない。
いつの間に、服を着て、新聞を取りに行って、コーヒーを入れて、ベッドに戻ってきたんだろう。
だんだんはっきりしてくる意識の中、自分がまだ裸のままだったことを思い出して、大げさに布団をかぶった。
「なにか着とけ。風邪ひくから」
「・・・」
「髪もぼさぼさだ」
「・・・」
「あの」
「ん?」
「そういえば、朝の走り込みは、やめたんですか?」
ふと思い出したのだ。
寮にいたころは、登校前に必ずロードワークに出かけていたことを。
毎日の積み重ねは習慣になっているからな、と。それは私もよくわかっていた。
「まさか。むしろメニューを増やした」
「・・・今日は行かないんですか?」
「ああ、おまえがいるときはいいんだ。夜にいい汗をかくしな」
意味を理解するのに少し時間がかかった。
「だろ?」
こんなことを真顔で言う彼にも、いい加減慣れてきた私です。