ベストチョイス


夜の8時を回ったころ、リーダーが帰ってきた。

「おっかえりー、なあ、日曜ヒマ?」
そのまま部屋へあがろうとしたら、順平がすかさず駆け寄ってきた。
ラウンジをパッと見渡すと、珍しく男性陣しかいない。
・・・疲れてるんだけど。そういうニュアンスを態度で示そうとして、眉をひそめた。
しかし伝わったことはほぼないと思う。自分でも思う。表情の出ない顔だって。

「暇じゃない」
「えー!まじで」

順平は大げさに肩を下げた。
そんな彼の背中に、固まって座っていた真田たちが声をかける。

「ちなみに俺も予定があるからな」
「僕もです。これでも忙しいんで」
「わん!」
「・・・俺がかわいそうなやつみたいな言い方すんなっつの。なに、部活とか?水泳部だっけ」

気を取り直して、自然に聞いてみた。
湊はこう見えても顔が広いし、つきあいもいい。
単純な好奇心で、別に詮索しようとしたわけではない。
しかしかえってきた答えは意外なものだった。

「ゆかりと出かける」
「えっ」
「なに」

「・・・こないだも、ゆかりっちと出かけてたよな?」
「それが?」
「いやー、・・・なはは」

「そうだ。せっかくだから聞いておきたいことが」
意味深な顔で微妙に笑う順平を無視して、湊は真田たちの集まるソファに静かに座った。
順平もつられて彼の隣に座る。

”あの”リーダーが、俺たちに聞きたいこと?
その場の全員が不思議に思った。かなり珍しい。

「ゆかりになにあげればいいと思う?」

「・・・へ?」
「プレゼント、ってことですか?」

天田が質問の意味を確認した。
湊はそのまま肯定する。

「そう」
「なんでまた」

「べつに。俺じゃ思いつかなくて」

疑問の回答にはなっていなかった。理由を尋ねたのだが。
少し眠たげなその顔からは、なんの感情も読み取れない。
いつもどおり、「どうでもいい」顔にしか見えない。

とりあえず、考えてみる。

「うーーん・・・ゆかりっちの喜びそうなモノ・・・」
「すまないが、そういう話には疎くてな」
「くぅーん・・・」

「あ、ブランドの時計とかバッグとか、どうですか?」

まさにお手上げ侍状態だった2人と1匹をおさえて、天田がパッとひらめいたように提案した。
「僕、ゆかりさんの読んでるファッション雑誌よく読むんですけど、やっぱりブランドものって、いいらしいですよ」

「・・・へえ」

彼の提案に乗り気なのかそうではないのか。湊の反応は、それすらも全く読み取れない。
しかしさすがに出会いから半年以上たった今、そんな空気にも慣れてきた。

「あー、確かにゆかりっちだとなー、そういうの好きそうだよなー」
「・・・そういうものなのか?」

「真田サンは疎すぎっすよ!実際モテモテでもそろそろ彼女の一人も作らないと、ハタチを童貞のまま迎え」
「殴られたいのか」
「・・・冗談っすよ」

「わかった、ありがと」

二人のお決まりのやり取りを流れるようにスルーして、湊はバッグを持って席を立った。
いつものようにポケットに手を入れて、何事もなかったように階段を上がっていった。

彼のいなくなったラウンジで、皆は自然に目を合わせる。
「リーダー、意外とマメなんですね」
「・・・らしいな」

「にしても、ゆかりっちかー、そうかー」
「?、順平、なに笑ってるんだ」
「いいと思います。ゆかりさんとリーダーだったら、お似合いですよね」
「・・・どういう意味だ?」
「わんわん!」


コロマル、おまえまで。いったい何の話をしてるんだ?
会話の内容がわからないのは、どうもおもしろくない。

真田が二人の仲を知ったのは、かなり後のことだった。





2011/10/12


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