sweet lovers


触れたらすぐに壊れてしまいそうなガラス細工を抱えるように、できるだけそっと抱きしめた。
そういう繊細な行動はいまだに慣れない。理由は簡単だ。今まで経験がなかったからだ。
未経験のことに、しかも苦手分野にすぐ適応できるほど俺は器用じゃない。
つまりはどう接していいのか、どう触れたらいいのかわからなかった。

そうやってぎこちなく抱き寄せると、ふわりといいにおいがする。
甘すぎない、でもどこか癖になりそうなやわらかい薔薇の香りだった。
「馨」という名前にふさわしい、かわいらしくも品のある香水の香り。

抱きしめる腕に少しだけ力を入れた。その分密着する体。制服越しの体温が伝わってくる。
女の体はこんなにも、やわらかい。それは最近初めて知った事実だった。

落ち着く。安心する。
これがこの時間の一番の効用だと思う。
何をするよりも、こうして馨を腕の中に抱きとめている瞬間が幸せだった。

俺の首筋に顔を押し付けて、馨が小さく笑っているのがわかった。
声を出さずとも、動きでなんとなくわかる。
意味もなく息をひそめて、彼女の耳元でそっと呟いた。

「なにを笑ってる?」
「え?べつに、なんでもないですよ」
「気になる」

軽く問いただすと、馨はさらにおかしそうに笑い始めた。
落ち着きなく動き出す細い体を、身動きできないように改めてきつく抱きしめる。

「・・・幸せだなあって」

満足げな声で、馨はそうつぶやいた。

ああ、俺もだ。
同じ気持ちを共有できることが嬉しかった。
こういう時は、伝えきれない気持ちをキスに込めればいい。

慣れなくても、難しいことは何もない。
素直になれば、いくらでも気持ちは伝わるのだ。

2011/10/13