距離
「あねはづる」の車内が満員になることは珍しくない。
ポートアイランドでなにかイベントがあった時とか、ポロニアンモールのセールとか、
それに下校時刻が重なると自然と乗客が多くなり、座れない可能性の方が大きい。
駅で偶然顔を合わせた岳羽と馨と一緒に帰ることにした。
ああ、今日はモールのセールの方か。だからこんなに人が多いのか。
この二人もそれにあやかって買い物をしてきた帰りらしい。
列車を待つホームで、馨は買ったものを嬉しそうに俺に見せてくれた。
・・・よくわからないものばかりだったが(毎回そうだ)。
ホームにも人は多く、到着した列車にも大勢乗っていた。
今日は立っているはめになりそうだ。まあ、夏休みの「空気椅子inモノレール」よりはマシだ。
あれはさすがの俺でもなかなかきわどかった。
案の定、3人並んで吊革につかまった。
巌戸台までの約10分間、短いようで長い。
ふと、3人の真ん中に立つ隣の馨に目をやった。しかしよく見えない。
とっさに吊革を持つ手を左手から右手に変えた。
自分から垣根を作ってしまっていた。これで、よく見える。
馨は俺の視線に気づかずに、岳羽と楽しそうに話している。
会話の内容から察するに、今度は何を買おうか、のようだ。
腕一本分、少しだけ縮まった距離。
駅に着くまでに、馨は俺の方を向いてくれるだろうか。