決死の戦い 04
「・・・」
「・・・」
「・・・」
なんでおまえらがここにいるんだ。
天田、荒垣、そして真田の3人はそれぞれ同時にそう思った。
月光館学園高等部正門前。放課後で、校門付近は人が多い。
「シンジ、休学中だろ?」
「うるせー、てめぇにゃ関係ねーだろ」
「天田、おまえがここに来るのはあと4年先だぞ」
「わかってます!真田さんには関係ないでしょ」
「・・・さては」
「俺は馨に用があんだ。どけ」
「僕もです!今日は馨さんの見たがってた映画のチケットを」
「やはりか!そういうことならとっとと寮に帰れ!」
「んだよアキ!横暴だ!」
「そーですよ!馨さんは真田さんのものじゃないんですから!」
いつものパターンで言い争いが始まった。嫌でも目立つ。
もちろん下校中の生徒はいぶかしげな視線を送る。
「ここが月光館学園高等部、ですか・・・」
「うん。どう?感想は」
聞き間違えるはずのない、彼女の声が聞こえた。3人は同時に振り向いた。
「このように美しい場所が、タルタロスに変じるとは・・・」
「ほんと、びっくりだよね」
少し離れた場所には馨がいた。そこまではよかった。ターゲットがあちらから出向いてくれたのだから。
いつものように争奪戦を繰り広げればいい。しかし、その隣には。
「テオは学校とか行かなかったの?」
「こちらの世界とは違いますから」
男がいた。
それもかなり、手ごわそうだ。なんだ、あの反則なまでの輝くオーラは。
タイプとしては真田に似ているが、彼にはまだない大人の色気があふれていた。
特に天田は一気に焦る。この二人だけでも大変なのに。
めんどくせえ、荒垣は苛立った。
真田はさらに闘志を燃やした。いいだろう、かかってこい。
「・・・それにしても、ずいぶん見られていますね。やはり、あなたの力を感じるのでしょう。
こちらの世界の方も、なかなかに鋭いようだ。ほら、もっとこちらに寄りなさい。私の陰にいるといい」
男は当たり前のように馨の肩を抱いて自分に引き寄せた。
さっきまでの生徒の視線は完全に馨たちにうつっている。
「大丈夫、私が守りますから」
「・・・あ、うん」
一般的に言えば、あれは悩殺スマイルとでも言うのだろう。
それは天然であるからこそ意味がある。馨も困ったようにつられて笑っていた。
「・・・あれ、みんな!」
馨がこちらに気付いた。隣の男も一緒についてくる。
「どうしたの?3人集まっちゃって」
「馨様、こちらの方々は」
「うん、自慢の仲間です!」
自慢の仲間。素直に喜ぶべきかどうなのか。3人はいたたまれなくなる。
「そうですか、常々お話は馨様から伺っています。申し遅れました、私、テオドアと申します」
まるでホテルのベルボーイのような恰好をしたその男――テオは、3人に向かって綺麗にお辞儀をした。
「・・・あ、どうも」
「・・・おう」
「よろしく」
反射的にそれぞれ返事を返す。
「テオがね、学校に行ってみたいっていうから」
「馨様が多くの時間を過ごす場所に興味がありまして」
「そうだ!みんなも一緒にいかない?」
「・・・・それは名案です。ぜひお願いします」
馨はぱあっと笑顔になって、校舎の方へ歩いて行った。
テオがそのあとを追う。ふと、立ち尽くしたままの3人を振り向いて微笑んだ。
せっかくの二人きりの時間を邪魔しないでいただきたい、そんな声が聞こえてきそうな笑顔だった。
2011/10/16
初めてテオ登場させました。
依頼「月光館学園に出かけたい」に彼らが鉢合わせるとたぶんこうなる。