勝負の行方


「・・・おまえ、それ好きだな」
ペンを走らせる手を止めて、隣の馨を見た。
寮の俺の部屋の小さなテーブルで、俺は残っていた課題を、馨はその隣でお菓子を食べていた。

「おいしいですよ」
「そうか」
馨はにっこり笑ってそう言うと、チョコレートでコーティングされた長いプレッツェルをくわえた。
袋の中はもう残り少ない。
馨のお菓子好きは知っていたが、特にこれは好きらしい。
鞄の中にはいつもこれが入っていた気がする。

「・・・終わりそうですか?」
「もう少しだ。待ってろ」
「はーい」

馨は聞き分けのいい子供のような返事を返した。
その時にはもう、袋は空っぽになっていた。
最後の一本を食べ始めている。

「あっ」
プレッツェルの長さが減る前に、馨は思い出したように手を止めた。

「先輩」
「なんだ」

馨はそれをくわえたまま、俺の方に唇を突き出した。

「知ってます?ポッキーゲーム」
「・・・いや」

唇がふさがり随分しゃべりづらそうだ。
そんなゲームがあったような気もしなくもないが、よくは知らない。

「じゃあまず、そっち側をくわえてください」

促されるまま馨と同じようにする。
・・・かなり顔が近い。

「食べ進めて、先に口を離した方が負――」

馨が言い終わる前に、長いままのプレッツェルから口を離してひょいと取り上げ、
それまであった距離を一気に縮めるようにキスをした。

すぐに唇を離して、手に持っていたプレッツェルを馨の口に戻す。
先端のチョコレートは溶け始めていた。

「こういうゲームだろ?」

馨は真っ赤な瞳でしきりに瞬きをしている。

「なんだ、違うのか」

小さく笑って、再びペンをとった。
その確信犯の笑みを、気づかれないように。

要は、先手を取った方が勝ちなんだろ?

2011/10/16
真田先輩に不用意に勝負を挑むとこうなります。 まったく恐ろしい男だ・・・!