備えあれば憂いなし
俺は順平とは違う。
それは軽蔑からくるものではなくて、純粋にそう思っていた。
だからと言って、順平曰く「そっちの気」があるわけでもない。
しかし何も違うことなんてない。俺も所詮は健全な18歳男子の中の一人にすぎなかった。
彼女を「馨」と呼ぶようになってからそう気づいた。
そばにいたいし、触れたいし、キスもしたい。馨という存在の実感がほしかった。
そして、その先まで望んでしまう自分に驚いた。
要はどうしていいかわからなかった。最善の手は何なのか。
そういう考え自体がおかしいと、順平に言われそうだ。
休日、順平とドラッグストアに訪れたのは特に理由らしい理由はない。
買い出しに行こうとしたら(プロテインのストックが切れた)、順平もついてきた。
暇だし、付き合いますよと。確かに、ラウンジで一日中漫画本を読んでいるよりはマシだろう。
いつものメーカーの商品をいつもの量、カゴにまとめて入れた。
順平はその光景を、眉をひそめて眺めていた。文句があるなら直接言え。
他に買うものがあったような。
そう思いふと棚を見回すと、下の方に控えめにまとめられているあのコーナーが目に入った。
順平も同じところに視線を送っていたようだ。
・・・いつかは必要になるだろうが、今はいい。見なかったことにして、レジへ向かおうとした。
「真田サン、ちゃんと買いました?」
しかし順平は俺を行かせてはくれなかった。しかも的のついた質問で。
「・・・いや」
意味もなく後ろめたい気持ちになって、歯切れの悪い返事になった。
なにを、なんて確かめる必要もない。そういう空気だ。
実際、これをレジに持って行ってバーコードを読み取られながらさりげなく店員に顔を見られて、
その箱だけ単品で紙袋に入れられて渡されるというプロセスが自分に起こりうるのがあまりに実感にかけていた。
現実味が全くない。
高校生の男子が薬局でコンドームを買うなんて、日常なのか非日常なのか、俺にはまったく判断がつかなかった。
「ダメっすよそれじゃあ。備えあれば憂いなしってね。実際そろそろだと思うんスけど」
おまえにそんなことまで言われる筋合いはない。
そんな言葉がのどまで出かかった。しかし事実だ。俺が反論できる余地はない。
ないよりはあったほうがいい。それも事実だ。決断に少しだけ時間を割いて、下の棚に手を伸ばした。
帰宅後、やはり紙袋に単品で入れられたそれを取り出して包装を開けた。
結局無難なデザインのものを選んだ。中身は一緒なんだし、あそこで迷う方がおかしかったのだ。
いつ使うことになるかなんてまだわからない。そもそも馨がどう思っているのか俺には知る由もない。
けれどそれは明日かもしれないし、1年後かもしれない。
自分一人だけではどうにもならないのが恋愛だった。思ったよりずっと厄介だ。
小さくため息をついて、無造作に棚の引き出しにそれをしまった。出来るだけ開ける頻度の少ない方に。
その時が予想以上に早く訪れることを、俺はまだ知らない。
彼女ができるとは、そういうことなのだ。
2011/10/19
リアルな高校生たち。EROのリハビリ第2段階。