いつの間にか大きな存在になっていた。

 

 


precious

 

 

 


覚悟はしていた。
ハンター試験で隣の人が死んでいくのは当たり前で。
割り切っていた。いちいち気にしてなんていられない。

でも
「潜水服はあれ一つしかない。救出は二次遭難の危険性が高い。
・・・最終的な判断は――お前に任せる。・・・いいな」

ハンゾーの声が頭に響いた。
試験も中盤の、3次試験でのことだった。
24人全員でここを脱出しなければならない。
この軍艦を動かさなければ、全員死ぬ。

そのためには少なからずの犠牲は、仕方のないことだと思っていた。
覚悟は
していたんだ。

その少なからずの犠牲が
海に潜ったまま帰らないレオリオだと知った時
冷静な判断が下せなくなった。


そのあとゴンが海に向かってくれたことを知り
正直そのあとはあまり覚えていない。

 

気づいた時は、船は静かになっていた。
「・・・」
頭が痛んだ。なぜか包帯が巻いてあった。
部屋が明るい。・・・生きている。
無事脱出できたようだ。

ふらつく頭を押さえ外に出ると、ハンゾーが待っていた。
脱出成功を二人で分かち合い、握手をした。

「・・・そうだ、レオリオのことだが」
「!」
「間一髪、セーフだ。今は上に・・・っておい!」


何も考えずに走った。
最上階の船室のドアを勢いよく開ける。

「・・・レオリオ・・・・」
レオリオはベッドに横になっていた。
「よお、なんか久しぶりな気するな」
「・・・おまえ・・・大丈夫だったのか?」
一歩一歩部屋の中へ入っていく。
いつもと変わらない彼の笑顔があった。
もうすっかり見慣れた
ひょうひょうとした笑顔だった。

「ちっと酸欠になっちまってよ、だるいから寝てたんだ。
でももう平気だぜ」
彼はそう言い、ベッドから飛び起きた。
「それにしてもまあ、ほんとに死ぬところだったぜ。
おまえも無事でよかっ・・・」
「馬鹿者!!!」

声を張り上げた。
体中に響くくらいの大きな声だった。
レオリオは目を丸くして私を見た。
「な・・・なんだよ何怒ってんだよ」
「私は・・・私は!もう・・・だめかと思ったんだ」
「・・・クラピカ」
「それなのに・・・そんな気安く・・・死ぬなんて口に出すな」

自分でもどうしてこんなに感情が高ぶるのかよくわからない。
私は怒鳴ってしまった後悔と戸惑いを隠すように下を向いて、レオリオに歩み寄った。
いくらも背の高い彼の顔をうかがい知ることはできない。
最近では彼のそばにいることがすっかり当たり前になってきていた。
慣れた香水の香りが体中に染み渡る気がした。
自分を抑えるように、肩をこわばらせて彼の胸にしがみついた。

「!、・・・お、おい」
私の予想外の行動に、レオリオはたじろいだ。

肩を震わせているのがばれてしまったのか
彼は何も言わずに私の背中に腕を回した。

この、なんともぎこちなくて軽い抱擁が
私の胸を熱くさせた。

 

 

 

「・・・ねえ・・・キルア」
「なんだよ」
「オレ、あんなクラピカ初めて見た」
「・・・そだな」
「みんな無事で本当によかったね」
「ああ。・・・でもさあ、海に残ったのがレオリオだったからあそこまで取り乱したんだろ」
「え?」
「もし他のやつだったらためらいなく作戦実行してたと思うけど」
「そんなことないよ、クラピカは優しいもん」
「そーかねえ・・・」
「そーだよ!」
「結構バレバレなんだよなー、あの二人」

心配して様子を見ていたゴンとキルア。
そんな心配は無用だったと
子供ながらに思ってその場を去った。

 

 

 

私はこの時初めて自覚した。
レオリオには死んでほしくない。
ただ、どうしてそう思うのかは
わからなかった。

「・・・クラピカ」
「・・・」
「二人で一緒に合格しようぜ」

それは「オレは死なない」というようにとれる。
私は小さく「ああ」とうなづいた。


これが仲間だ。
助け合い、支え合う。
ただ、私はこの時初めて自覚した。
単なる仲間であることに、違和感を感じていることを。

 



軍艦島の創作エピローグです。
軍艦島といえば有名なレオクラの回ですね。
それにしても何度も言うようですが、クラピカのあの絶望っぷりは、レオクラとしか言いようがないです。

2011/4/17



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