幸せ



病院に行ってきたことを、その晩レオリオに言えなかった。
少し疲れているといって、今夜は断った。
めずらしく私が不調を訴えたものだから、彼は本当に心配そうにしていた。


「・・・クラピカ、じゃあ、行ってくるな」
翌朝目がさめると、レオリオは身支度を整えて私の横に立っていた。
「・・・もう・・・朝か」
いつもよりも、朝がつらい。
最近は早起きをして朝食を作れるようになっていたのに。

「とっくにな。・・・それでさ、大丈夫か?体調・・・」
「もう平気なのだよ。すまなかった」
「なんかあったらすぐ電話しろよ?」
「わかった。いってらっしゃい」

横になったまま彼を送り出す。
レオリオはまだ心配なようで、なにかあったら連絡するようにと念を押した。






体がおかしいと感じたのは数日前。
初めて感じる違和感だった。

それとなくセンリツに相談すると、産婦人科に行くように言われた。
それが何を意味するか、わからないわけはない。
正直、まだまだ当分先のことだろうと思っていた。
私も、きっと、彼も。

嬉しくないわけではない。ただ、実感がわかない。



「おめでとうございます。妊娠していますよ」
その言葉を聞いたとき、まず何よりもレオリオの反応を想像した。
喜んでくれるだろうか。
指輪が光る左手で、まだ平らな腹部を撫でた。







いったいどう言えばいいのか。
いや、ただ一言、事実を述べればいいだけなのだが。
どういう表情で?どんな口調で?



レオリオと一緒になってから、初めて体験することがとても多い。



あれこれ考えているうちにレオリオが帰宅する時間になってしまった。
はっと気付いて時計を見た瞬間にドアが開く音がした。
しまった。
考えすぎて夕食の支度にまったく手をつけていなかった。


「ただいまー・・・あれ?ごはんがない」
「・・・すまない、ちょっと・・・」
いつもなら温かい空気といい匂いで疲れた彼を出迎えるのが私の仕事だった。しかし今のリビングはあまりにも殺風景で。
レオリオは不思議そうに呟くと、ハッとしたように私に駆け寄った。
「・・・・!!!も、もしかしてメシも作れないくらい具合悪かったのか!?
なななんで連絡しないんだよあれほど言ったのに!」
「い、いや、そうじゃなくて・・・」
「・・・?」
「あの・・・」
「なんだよ?」
「話があるのだよ」


私の改まった言葉を聞くと、レオリオは落ち着きを取り戻して私の隣に座った。
「・・・昨日病院に行ってきた」
「ああ」
「妊娠したみたいなのだよ・・・」



自分でも驚くほど声が震えていた。
レオリオはまさに豆鉄砲を食らったような呆けた顔をしていた。
「・・・・まっマジかよ!?ほんとに・・・・えっほんとに?!」
「こっこんな嘘をつくわけあるか!バカ!」
「・・・・っ」

レオリオは肩を震わせて屈みこんでしまった。
やっぱり
そんなにショックだったのか。
言わなければよかったのか?
しかし言わないわけにはいかない。
じゃあどうすればいいというのだ。


「・・・レオ・・・」
「ぃやったーーーーっっ!!」
「・・・え?」
確か彼が医大に受かった時も、こういう喜び方をしていた。
電話越しだったが、よくわかった。


「やったーやったなクラピカー!なあなあ名前どうする!?てか男の子かな?女の子かな?あっまだわかんねーか、うわー、やったなー!」

ぎゅっと抱きしめられ、がしがしと頭を撫で回された。
これほどの興奮状態にある彼を、いまだかつて見たことがない。

「・・・レオリオ」
「なんだよ?」
「嬉しいのか・・・?」
「バカ、おまえ、嬉しくないわけないだろ!ったくもー・・・涙出てきた」

喜んでくれて
よかった。




それからというもの、私の行動にかなりの制限がかかった。
レオリオはまったく過保護すぎる。
「じゃあなー行ってきます。いい子にしてるんでちゅよー」
「・・・」
だんだん大きくなってきた私のお腹にキスをして出勤するのが彼の日課に加わった。
子どもが生まれる前から彼が親バカになるとは・・・思わなかった。


臨月を迎えたある夜、彼は私を抱きしめて
「おまえと結婚できてよかった」と
幸せそうに呟いた。



幸せなレオクラが大好きです。
2009/11/15
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