レオリオはとてもおしゃれだと思う。
・・・いくら博識な私でも、なにが「おしゃれ」かは、正直よくわからない。
私自身がおしゃれかどうかなんて気にしたこともない。興味がなかった。
一方レオリオは、いつも身なりに気を遣っている。
ネクタイ一つにしても、何本持っているかわからない。
スーツだっていつも仕立てのいいものを着ているし、シャツだって皺ひとつ見当たらない。
たいして意味のなさそうな伊達眼鏡も、よくよく見ればブランドものだ。
彼は着こなすのがとてもうまい。
それはサイズ感が大事なのだそうだ。
なるほど確かに、言われてみれば、どのアイテムも彼の一部のようにしっくりきている。
かくいう私は。
spring scene
「・・・」
袖口を引っ張って、自分を見下ろしてみる。
暑くても寒くても、代わり映えないクルタの民族衣装。
もちろんこれは大事なものだ。
丈夫だし、愛着もある。ハンター試験の頃は、毎日当たり前のように着ていた。
けれど今は、何もかもが変わった。
住む場所も。環境も――。
「なんだよ。ほしいのか?それ」
聞きなれた声にはっと顔を上げると、レオリオが楽しそうに私を覗き込んでいる。
今日は買い出しのついでのデートだ。
いや、デートのついでの買い出し、だな。
服なんてめったに見ないが、こじゃれたブティックのショーウィンドウの中の、
マネキンが来ているワンピースに一瞬目を引かれた。
春らしい、明るくてやわらかい桜色。手触りのよさそうな、シルクのような生地だ。
素直に、素敵だと思ったのだ。
しかし、その素敵なワンピースと自分の出で立ちを交互に見て、思わず息をつく。
似あうわけない。
隣のレオリオは、ダークグリーンの細身のパンツに、七分丈のオフ白シャツ。
部屋着に近い普段着でも、充分センスが感じられる。私でさえそう思う。
柄にもなくふてくされていると、それを知ってか知らずか、レオリオは何度か頷きながら、
「うんうん、いいじゃん。そーだなあ、着てみるか?」
返事をする間もなく、レオリオに手を引かれ、店内へ。
そんなつもりはなかった。なのに、気づけば試着していた。
「あー、やっぱかわいい。どーしよ、外連れて歩けないわ」
「な、なんだそれは」
そう言って、大げさにうなだれるレオリオに、私は恥ずかしさを隠せない。
いつもの自分との差がありすぎる。まともに鏡が見られない。
「よし買おう!このまま着て帰ろう。あ、そこのきれいな店員さん、これに合う靴もくれる?」
レオリオはいつものように軽口をたたく。声をかけられた女性の店員は、まんざらでもなさそうに案内している。
彼のナンパ癖はもう一生かかっても直らない。私はそう思っている。
けれど面白くないのは事実。だが試着室という閉ざされた空間の中、私はただ待つしかなかった。
「こちらはいかがですか?ヒールは低めですが、とてもきれいなシルエットですよ」
そう言って足元に差し出された靴は、見事にぴったりだった。
真新しい靴を履いて、目の前には満足そうに笑うレオリオがいる。
「・・・レオリオ、」
「ほら、行くぞ」
「行くって、まだ」
「支払いはスマートに。もう終わったぜ」
目を丸くしている間もなく、来た時と同じように引っ張られて店を出る。
不思議だ。引っ張られているのに、エスコートされているような。彼の女性の扱いにはまったくいつも辟易している。
あわてて振り返ると、さきほどの女性の店員が深々と頭を下げてこちらを見送っていた。
外に出ると、体感温度が一気に変わる。
こんなに涼しかったのか。着ているものが薄くなっただけなのに。
足元から風を感じて、なんだか体が軽い。
「うん、やっぱかわいい」
「・・・」
「なんだよ、不満?」
「そうではなくて・・・確かにこの服は素敵だが」
「だが?」
「私には、その」
「かわいい子がかわいい服着てなにがおかしいんだよ」
道のど真ん中で、レオリオは真正面から真顔でそう言った。
私は言葉を失う。
レオリオはそれをわかっていたように、声を潜めて、
「ほら、あっちこっちに若い女がいて、どの子も華やかなカッコしてるけど、」
今のおまえがいちばんかわいいよ。
・・・そうやって、レオリオは私を甘えさせるのが上手い。
憎たらしいほど惚れてしまう。
「女の子なんだから、服でもなんでも、かわいいものをかわいいーって言えるくらいにならねーとなあ」
繋がれた手は、いつもよりもあたたかい気がした。
浮足立った春の陽気のせいか。
2014/03/24
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