一緒に暮らしていると相手の「本質」が見えてくる。
そして自分と同じ「種類」かどうか、そして自分も相手も快適に暮らせるかがわかってくる。
同棲とはそういうもの。
そこで私は思うのだ。こんなにも違う私たちが、こんなに幸せに暮らしていられるのは
宇宙誕生の奇跡よりも理解しがたい。
ハッピースイング
共に生活するようになってから、レオリオに対する理解が少し変わった。
だって思いもしかなった。
こんなにも私と違うなんて。
「おーいクラピカぁー」
浴室からレオリオの声。
いつものようにソファに埋もれて、うとうととしていた。
その声にぴくっと体が反応する。
夜10時。連日の仕事で、睡眠不足は否めない。
「タオルとってくれー」
重い体を起こしてまぶたをこすりながら、寝室の木製の引き出しに入っている真白なバスタオルをレオリオに届ける。まったく・・・
いつもこうだ。
入浴前にタオルの準備くらいしておけ!
学習能力がない。
おかげで私はわざわざ寝室まで行ってこうして毎回届けるハメになる。
一人で暮らしていたときはいったいどうしていたのだ?
まさか寝室まで濡れた体で移動したのか?
・・・考えられない。入浴するたびに家中がびしょ濡れじゃないか。
「ほら」
「んーサンキュ」オレンジ色の光に包まれたバスルームからは、石鹸とシャンプーの匂いが混じって甘い香りがする。湯気でほのかに空気もあたたかい。
役目を終えた私はそのまま背中を向けてリビングへ戻ろうとした。
が。
「クラピカ」
「なんだ」
「拭いてvv」
「・・・」
「・・・」「自分で拭け」
「ケチー」
「・・・」
「・・・」
結局こうなる。
「今日だけだぞ」
「やったvv」私は甘いのかもしれない。
チラッと目をやったレオリオは、水も滴るいい男だった。
寒気がするくらい色っぽくて、思わず目を背ける。
しょうがないのだ。惚れた弱みなのだ。
世界中の誰よりも、レオリオが一番良く見えてしょうがない。
・・・どうしようもない。
レオリオはとても背が高い。
私がいくら手を伸ばしても、彼がいつも私にしてくれているように短い黒髪を拭くことができない。
だから私はかかとを浮かせて、レオリオは腰を屈めて。「・・・そーだ、もう一回一緒に入る?」
「遠慮しておく」
「つれねーなあ」レオリオはふてくされて子どものような返事を返した。
役目を終えた湿ったタオルと新しい下着を彼にぐいっと押し付けてぷいっと後ろを向く。
そういえば最近ゆっくり二人でお風呂に入っていないことを思い出して、少なからず彼の誘いに乗りそうになった自分を戒めるためだ。
素直に「そうだな一緒に入ろうか」なんて言ってしまったら彼が調子に乗ることはほぼ確実。
「最近一緒に入ってないじゃんかー。さみしいよー」レオリオは踵を返した私を引き止めるように後ろから抱きしめて、わざと甘えたような声を出した。
それがおかしくて、でも笑ったら負けだと思って、かわいくないことを言ってしまう。
「甘えても無駄なのだよ」と。
そもそも他人と同じベッドで眠るなんて考えられなかった。
どう考えてもゆっくりなど眠れるわけないだろう。
自由に手足も伸ばせない。寝返りも打てない。
それにきっと隣の寝息も気になる。
私に限らず誰でもそうだと思うのだ。
しかし私とレオリオは一緒に寝ている。
笑い話である。あそこまで否定的だった一緒のベッドが、心地いい。
眠りの相性はいいのかもしれない。
レオリオはああ見えて家事全般を難なくこなす。
私は掃除などせずとも何不自由なく生活できると思っていた。
散らかっているように見えるレオリオの部屋は、よくよく見ると埃は落ちていない。
掃除機をきちんとかけている証拠である。
レオリオと私はこんなにも違う。
しかし他人と暮らすというのはこういうことなのだ。
今日は3月3日。レオリオの誕生日。
いつもより早く起きてしまった。今日は休みで、特にすることもないのだが。昨日は仕事で遅く帰ってきたら、レオリオが本を片手にソファで眠りこけていた。
いつもいつも、「待っていないで先に寝ていろ」と言っているのに。
風邪をひくし、体だって痛くなるだろうに。
何度言っても直す気はないらしい。テーブルの上には、私の分の夕食がきれいにラップされていた。
触れるとまだほのかにあたたかい。きっと、ギリギリまで作るのを待って、冷めないうちに食べてほしかったのだろう。
そんなところが好きでもあるし、申し訳なくも思う。誰にも気づかれないような、些細な気遣い。彼の良いところでもあるのだけれど。それにちゃんと答えられない自分を情けなく思う。それを繰り返している。
「・・・誕生日か」
寝ぼけた頭であたりを見回す。
いつも通りの朝。昨年同様、この日に春の暖かさは感じられない。
まだまだ寒い日が続きそうだ。
今日はどう過ごそうか。
この後レオリオが起きて、万に一つ・・・いや、結構な高確率で、朝っぱらから二人で汗を流す羽目になりそうだ。
休みの朝はいつもそうだ。そして二人でシャワーを浴びて
いつも通りにレオリオお手製の朝食を食べて
ささやかに彼の誕生日を祝おう。ケーキも
プレゼントも
実は用意してある。
平凡だがこれでいい。
こうして幸せに互いの誕生日を迎えられる。
自分らしく生きていくのに、あなたがそばにいてくれたら
それだけで十分幸せなのだ。
2011/03/03 Happybirthday Leorio.
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