人生という旅路の途中、ある男と出会った。







旅路







「趣味」と呼べるものが一つだけある。
読書だ。
知らないことを知るのは楽しい。
先人の知恵、私の知らない世界。本を読むのは楽しかった。

最近は、「楽しい」と感じなくなった。
本を広げるのは楽しむためじゃなく、心を落ち着かせるためになった。

漆黒のスーツに身を包む「若頭」としての私。
私の目的はただ一つ。仲間の目を取り戻す。
そのためならどんなこともする。

そして今、それがようやく終わろうとしている。
ハンター協会、十二支んのメンバーとして暗黒大陸を目指す。
その道中で、カキンの王子と接触し、最後の緋の眼を取り戻すのだ。

私にこの話を持ちかけた、十二支んのメンバーの口から、
レオリオの名前が出たことに驚いた。

「レオリオから君の事情はある程度聞いている」

ある程度、か。
どの程度なんだろう。
きっとレオリオのことだから、うまいこと彼に説明してくれたのだろう。
私の現状と、今後を想像して、私がやりやすいように。彼はそういう男だ。

無意識に口元が緩む。
不思議だ。最後の緋の眼を目前にして、心中穏やかではないはずなのに。
私のことをわかってくれている、唯一の男の存在を思うと、幸せを感じずにはいられない。

さあ、最後の任務が始まる。
近いうちにレオリオにも会うことになるだろう。
会うのは久しぶりだ。

いつもの椅子に座り、いつものように本を開く。
心を落ち着かせるために。
ページをめくる。目線を動かす。紙の感触を確かめる。

ふと思う。
殺された家族のことを。友人のことを。


――私の旅が、ようやく始まりそうだよ。
だけど、どこへ行けばいい?

迎える人も帰る場所も

私には何一つないのに。


穏やかな気持ちで「趣味」の読書を楽しめる日が来るのか。
私にそんな資格はあるのか。
夢中でページをめくる私の隣に、誰かいてくれるのか?
今度はその答えを探さなくてはならない。生きるために。


私は気づかないふりをしていた。
こんな私に寄り添ってくれる、優しい男なんて
この世に一人しかいない。

私のことを私よりもわかってくれている、私の男。



2016/6/22
コミックス33巻から。クラピカの背中があまりにさみしげだったので、 希望を込めて。

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