俺もクラピカも、免許は持っている。
だからこうやって、二人でドライブに行くことも多々あるのだが。
運転中に感じる視線。
ちらちらと盗み見るようなときもあるし、じーっと見られているときもある。
もちろん隣のクラピカからの視線である。
なにか、まずかっただろうか。
女性を隣に乗せているのだから、それなりに気を遣って運転しているつもりだ。
・・・車内がクサイのか?車酔いか?道が違うのか?
このままじゃらちがあかない。視線の真意を問いただすことにした。
せっかくのドライブなのに、ケンカはしたくねーんだけどなァ・・・。
赤信号になったところで、遠慮がちに、ちらりとクラピカの方へ顔を向ける。
「・・・あのークラピカさん」
「なんだ」
「ええとですね、なにか言いたいことがおありで?」
「いや。ないが」
瞬殺。車内に沈黙が訪れる。
――信号が、青に変わった。
丁字路
見とれていた。それに尽きる。
気づいてしまったのだ。大変な事実に。
ハンドルを握る手。真剣なまなざし。長い脚は、窮屈そうにアクセルを踏んでいる。
飽きない。見ていて飽きない。普段はめったに来ない場所なのだから、助手席から外の景色を眺めればいいのだが、
そんなものよりレオリオを見ていたい。何故だろう、いつも隣にいて、嫌というほど見慣れている彼なのに、
運転しているというだけで、どうしてこんなに見ていたくなるのか。
そうか
文句を言われないからだ。
レオリオのことをじっと見ていられる機会は、実は少ない。
なぜなら、からかわれるから。私はそれが恥ずかしかった。
そのくせレオリオは、私が何を言おうが、いつもいつも容赦なく見つめてくる。
彼が寝ているときか、こうして運転しているときか。この2パターンしか、彼のことをじっくり観察できる時間はないのだ。
あどけない寝顔も好きだし、こうして運転している姿も好きだ。
特に後者は、2割増し・・・いや、5割増し。男前に見えてしかたがない。
ああ、もうすぐ目的地についてしまう。
そうしたら、この時間も終わり。その前に、目に焼き付けておこう。
待てよ、帰り道もある。きっと夜中になるから、それはそれで違ったように見える。夜のドライブ。楽しみではないか。
しばらく走って、レオリオは私に声をかけてきた。
何か言いたいことでも?と。私は否、と答える。しまった、視線を送りすぎた。これでは見づらくなってしまう。
そうだ、この際、正直に言おう。たまには素直にならないと。
10回に1回くらいは、自分の本当の気持ちを言わないと、二人の溝は気づかぬうちに広がっていくものだ。
交際期間が長くなるにつれて、そんなことも学んだ。
さっきの会話から、数十秒の沈黙ののち、私から口を開いた。
タイミングが良いのか悪いのか、再び赤信号だ。車はゆっくりと停止線の前で止まる。
「レオリオ」
「ん?」
「運転中のきみは、格好いいな」
レオリオは驚いたように私の顔を見た。
新鮮な反応だ。
しかしレオリオは何も言わない。再び訪れる沈黙。
そうこうしているうちに、信号は青へと変わった。
「レオリオ」
「・・・な、なんだよ」
「信号。青だ」
「・・・ああ」
車はぎこちなく、外れたリズムで発進した。
レオリオの心理状態がそのまま運転にあらわれている。なんだか、動揺させてしまったようだ・・・。
しまった、「だから、見ていてもいいか?」と聞くのを忘れた。
今、言い出すのもなんだか違う気がする。今度は急停止してしまいそうだ。
そのまましばらく長い長い一本道を走った。そして再び、赤信号。その先の道はふたつに分かれている。
それまで黙っていたレオリオは、困ったように息をついて、こう言った。
「・・・おまえ、真顔でデレるのやめろよ。ドキドキすんだろ」
その表情は、初めて見るものだった。嬉しそうな、歯がゆいような、いろんな感情が混じっていた。
なんだか、胸がいっぱいになる。その気持ちをのどの奥までおしこめて、普段通りの返事を返した。胸が熱い。
「デレる、とは。媚びるということか?」
「あー、まぁ、そんなもんだよ。違う気がするけど」
「そうか。以後気を付けよう。デレるのはやめる」
「や、いーんだよ別に。嬉しいんだけど、やっぱ慣れてないからびっくりしたっていうか」
レオリオにこんな顔をさせられるのなら、彼の言う「デレる」を習得してみてもいいかもしれない。
心の中でひっそりと、そんなことを思った。
信号が青になる。後続車はいない。レオリオは右に出していたウインカーを左に切り替えて、そのまま左折した。
「レオリオ。道が違う。ここは右折だぞ」
「いーんだよ」
「よくない。いったいどこへ」
「〜、ラブホ!」
レオリオの運転は、余裕ゼロになっていた。
2019/07/19
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