最近私は依存の限度について頭を悩ませている。
結局のところ、自分は自分である以外、道はないのだ。







ちこく







今年は春一番が早かったような気がする。
去年のこの日は雪が降っていたというのに。

春らしいあたたかい風を喜びながら、二人で久々に出かけたのだ。
久々すぎる休暇を、最高の天気で迎えられたのが嬉しかった。



そんなしあわせは束の間だった。
まったく、この仕事は割に合わないとつくづく思うのだが。
そんな自分勝手なわがままを思うこと自体いけない。


忙しさにかまけて
大切な、大切な3月3日を、私は忘れてしまっていた。



気が付いたのは3日後だった。
3日前からどうもレオリオからの連絡がないと思っていたとき、気付いたのだ。
恋人の誕生日をすっぽかしてしまったことに。



そして今日、先日のあたたかさは皆無だった。
しとしとと雨が降る中、レオリオのアパートを訪れた。
「・・・よぉ」
「レオリオ・・・」
玄関先での挨拶は明らかにぎこちなかった。

普段は平気な顔をして派手に雨に濡れてくる私に、大げさすぎるくらいの対応をするレオリオだったのに。
ああもう、なんでおまえはいつもいつも・・・・と。
小言を言われながら、まるで親のように、大きなタオルで包み込んでくれたのだ。


「ほら、風邪ひくぜ」
今日はその一言と、タオルを手渡されただけだった。
ほんのささいなことなのに
どうしてこんなにも不安で、泣きそうになってしまうのか、不思議だった。


一歩も彼に歩み寄れない。拒絶されそうで。
弁解すらできない。言い負かされそうで。


私のような人間を、「いくじなし」というのだと思う。
今までいろんな「いくじなし」な人間を見てきた。
そのたびに私は彼らを蔑み哀れんできた。

そんな「彼ら」の仲間入りをしてしまったような気がする。




こんなにもレオリオを好きでいるのに、
それを実感するたびに自分のひどく醜い一面に出会ってしまう。
その繰り返しを、こうして何年も続けているのだ。私たちは。








誕生日の日は二人でゆっくり過ごそうと、決めていた。
特別なことはなにひとつできないけれど、
いつものように一緒にいること自体が特別なのだという認識をする日にしようと。


「あーもう、オレ、ふられたかと思った」
「・・・」
レオリオがやっと口を開く。
私の顔は見てくれない。


その口調はいつものおどけた調子ではなく、
拗ねたような、少し大きな声。

「・・・レオリオ」
「なんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・すまない」

やっと出てきたのがこんな一言。
情けない。


「オレだってさ、不安になるんだよ。人間なんだから」
「・・・ああ」
「あんまりほっとくなよ、こんないい男」
「ああ・・・」


手渡されたままだったバスタオルを取り上げられて、いつものように優しく包み込まれた。
やっと目を合わせてくれたのと
あたたかい体温にほっとして、目の奥が熱くなった。
「・・・誕生日、おめでとう」










それ以来、私は依存の限度について悩むようになった。
いつもいつもレオリオのことを考えていると、自分が自分でなくなってしまう、自分のやるべきことを完全に見失ってしまうような気がする。
だからと言って目的を果たすために突っ走っていたのでは、今回のように、ささいなことがつみかさなって、
レオリオとの間に高くて分厚い壁が出来てしまうようで。


どうしてレオリオはあんなにも器用なのだろうか。
・・・いや、私が知らないだけで、気付きもしないだけで、同じようにこの葛藤に苦しんでいるのだろう。
私の前ではいつも明るく振舞い、いつも私を気遣ってくれる。
だからそんな素振りは見せない。
彼の苦しみに気付きもしないで、何が恋人だろうか。




いくら悩んでも答えは出ない。
すべてを見失ってしまいそうになる。


「まったくおまえはー・・・風邪ばっかりひきやがって。
ほら、こっち来い」

私の小さなくしゃみに、レオリオはピクッと反応した。

確かなのは、彼のこの温もり、
そして私が彼を心底愛しているということだけなのだ。



2010/03/03 Happybirthday Leorio.




NEXT