誰しも使命ってもんを持ってると思う。
俺の使命は二つ。
人の命を救うこと。
――クラピカを平和に慣れさせること。




役割





当直明け、2日ぶりに病院を出る。外の空気は冷たかった。なんだよ、一気に寒くなりやがって。
エントランスの前には、見慣れた、けれど愛しい姿があった。
思わずというか自然にというか。口角が上がり、ほっとする。少し早足で彼女のもとへ急いだ。

「なんだよ、来てくれたのか」
「まあな。私もちょうど仕事終わりだ」

軽い挨拶を交わして、並んで歩き始めた。自然な流れだ。
それにしても寒い。俺は思わず肩をすくめた。コート着てきてよかった。
ふと隣を見ると、(大きく視線を下にしないと顔が見えない)クラピカも少し寒そうだ。
俺のように大げさなリアクションはとらないが、形のいい眉が少しだけ不愉快そうにゆがめられた。
さらさらの金髪を、冷たい北風がなびかせている。きれいだが、寒そうだ。

「つかおまえ・・・それじゃ寒いだろ」

そもそも、だ。クラピカはやたらと薄着だ。心もとない上着一枚で、空調のいい室内にいるときのような格好だ。
「そろそろさあ、マフラーとか買えば?」
俺がそれを指摘すると、クラピカはしれっとした顔でこう言った。

「不要だ。それに邪魔だ」

ああ、そう。うーん、あれだろうなあ。”ああいう仕事”をしていた時の名残なんだろうなあ、その心構え。
確かにVIPの護衛がもこもこ厚着してたんじゃなあ。なかなか「平和」に慣れてくれない。
こうやって二人で並んで同じ部屋に帰ることも「平和」だってこと、こいつは気づいているだろうか?
少しずつ時間をかけて慣れさせるのが、俺の役割だと思っている。おまえはもう苦しむ必要はないんだと。
まだどこか気の抜けない顔をしているクラピカを見ていると、そう思う。
スーツの上に羽織ったロングコートの片側を広げて、その中にクラピカをすっぽりと包んだ。この身長差だからできる。

「あったかいだろ?」
「そうだな、なかなか」
「お気に召しましたか?姫」

おどけたようにそう言って、小さな肩をしっかりと抱き寄せた。
クラピカは俺の顔を見上げると、楽しそうに笑った。

そうだな、1か月後のクリスマス。
クラピカに似合いそうな、真っ白い大きなマフラーをプレゼントしよう。
何を気にすることもなくおしゃれをして、またその楽しげな笑顔を見せてほしい。




2011/11/18

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