オレの彼女は学校のマドンナ。
私の彼氏は学校の問題児。
今日も一緒に、仲良く登校。

・・・なんて、この二人には、到底無理な話で・・・。




教室




「レオリオっ、おまえ昨日、私のメロンパン食べたなっっ!?」
「げ、ばれた?」
「ばか!おまえなんかきらいだっ」
「え、ちょっ、クラピカー」

歩くたびにサラサラと音をたてて風に靡く金色の細い髪。
硝子細工のような綺麗な顔。華奢な体に白い肌。
なんの飾り気もないのに、いつも、愛らしい。
少し短めのチェックのスカートから伸びる細くて白い脚に、
誰もが釘付け・・・というのは、本当らしい。
クラピカ自身、気付いていないのだが。おまけに、文武両道。
・・・最近になって、貧乳なのが悩み。(本人談)
そんな彼女は、学校のマドンナ的存在。もちろん本人はそんなこと微塵も思っていない。
それが、クラピカ。

そんな彼女を後ろから楽しげに笑って追いかける、やたらと背の高い男子高生。
とても高校生には見えない彼の容姿は、いろんなところで役に立つ(らしい)。
制服だってちゃんとこだわりがある。周りと同じようにだらしなく着たくない。
それでも、ブレザーは全開、シャツは第二ボタンまで。あんまりキッチリ着るのも好まない。
もしかしたら、校内一オシャレなオトコかもしれない。(本人談)
ちなみに香水は、寝坊したってかかさない。そんな彼は、学校の問題児。
それが、レオリオ。

二人は、恋人同士。

「つっかまえたー♪」
「!?」
大きな体に、後ろからすっぽり抱きすくめられた。・・・もう、追いつかれた。あんなに走ったのに。

「なぁ、ごめんな」
「・・・・」
耳元に響く甘い声。
憎たらしい男である。
そんなふうにされたら
なんでも許してしまう。

学校へと続くこの坂道。周りにはたくさんの生徒。・・・・視線が痛い。
「こんなところで抱きつくな!」
「えー、じゃあ許して」
「わかった、許すから早く離せ」
「しょーがねーな」

解放されたかと思えば、頬に柔らかい感触。
「〜!!」
「メロンパンのお代。ほっぺじゃ足りねぇ?」
にんまりと笑う彼の顔。顔を真っ赤にして、クラピカは前を向いて歩き出した。
「怒んなよー、いっしょに行こうぜ」
カバンごと大きく手を振って、レオリオはまたクラピカを追いかける。
始業ベルまであと5分。


・・・・・


ギリギリ5分、遅刻は免れたのだけれど。
結局、廊下に2人並んで立たされる事に変わりはなかった。
これも何かの運命。


退屈な退屈な、ゴトー先生の世界史。
この時間になると、居眠り生徒続出。もっとも、寝息などたてたら最後、恐怖の白チョークが容赦無しに飛んでくる。生徒たちも、ばれないように安眠する工夫をこらすのに必死である。
極めつけに、今日は1時間目からなのだから――だるさも増してくる。
「うぁーねみぃ〜」「勘弁してよー」
そんな声が飛び交う、南校舎3階、2年C組。
ゴトー先生の低い声が、教科書を読み始める。224ページ。
ときおり、トレードマークともいえる眼鏡を、中指で上げる。
その回数を、ノートの端に「正」の字で数えている生徒がごく数名。
――ただいま「正」の字、ジャスト2つ。

窓際の一番後ろの席が、クラピカの席。ぱらぱらと教科書をめくったり、校庭をながめたり。正直、つまらなかった。イヴァン4世がいつ没しただの。アゾフ海がどうしただの。
勉強するのは嫌いじゃない。むしろ知識を増やすのは楽しいことだった。
だけど、歴史は好きになれなかった。もっとも、「好き」と「できる」とでは意味そのものが違う。それ以前に、この内容は先週やった気さえする。
――スカートのポケットから、無機質なバイブの音。
さすがに授業中にケータイが鳴っては困るから。
いつもバイブ設定にしてある、今年3年目のケータイ。
物持ちがいいのは、彼女の長所。そういう問題ではない、と、いつもレオリオに指摘される。
教卓から死角になる位置に手を移して。「メール1件」の画面表示。
(だれだ、こんな昼間から・・・)
細い指で、ボタンを押す。

――あいしてるよ――

たった6文字のメール。クラピカは咄嗟に左を向く。
――と、ひらひらとこちらに手を振るレオリオ。
二人は恋人であり
クラスメイト。しかも席は、机を一個隔てだだけの、ご近所さん。
(・・・っ、レオリオ!授業中になにを・・・!)
目線で、そう訴えた。すると彼は、悪びれた様子もなくにっこり笑って。
そしてまた、クラピカのケータイにメールが一通。
(・・・まったく・・)
そう思いながらも、心のどこかでは期待しているのだから、文句は言えない。そして、内容は。



(・・・・!!!!!)


「こ・・・・・っ、この、バカ――――!!!」
ケータイを右手に、ペンを左手に。クラピカはそう叫んで、勢いよく立ち上がり、彼を見据えて。拍子に、椅子も倒れた。さっきと依然変わらない、レオリオの笑顔。
「・・・・・あ」
はっ、と気が付けば、クラス全員の視線。ゴトー先生の、鋭い視線。
―― まずい。

「あー、なんでオレまで・・・」
「うるさい!全部おまえのせいなのだよ!」
「廊下のふたり、うるさい」
結局、廊下行き。12月の廊下はとても寒く、上着を着ていなかったクラピカは、小さなくしゃみをした。
「だいじょぶか?」
「・・・だから、おまえのせいだ」
クラピカが恨みがましくレオリオを横から見上げる。そんな彼女の小さな手を、ぎゅっと握りしめる。
「・・・!な、なんだ」
「ちょっとはさ、あったかいだろ?」
「・・・・・・・・、・・・・・まぁな」
「おまえ、素直にうれしいって言えよー」
「いやだ」
「かわいくねー」
「うるさい」
クスクスと笑い声が漏れる。こうやっていつまでも廊下に立たされていれば、ずっとこうしてくっついていられるのに。
なんて、密かに思う。――誰にも邪魔されずに、ふたりっきりで。

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