”結婚式は盛大に。”
あいにく、そんな考えはオレたちの中にはなくて。
小さな教会で、それでも大きすぎる幸せを詰め込んだ結婚式を。
つづれ織り 02
「私が・・・これを着るのか?」
一体どこの誰がどうやって作っているのだろう。
どうしたらスカートがこんなに綺麗に膨らむんだろう。
だいいち、どうやって着るんだろう――。
ウエディングドレスに関する疑問を全てレオリオにぶつけた。
もちろん彼にそんな知識はなく。
代わりに店員の女性が全て答えてくれた。
ウエディングドレスなんて見たこともなかった。
ましてや、自分が着るなんて夢にも思わなかった。
「レオリオ、これはどうだ?」
目に留まった、真っ白な飾り気のないデザイン。
思わず駆け寄って、後ろのレオリオを振り返る。
「・・・うん、いいんじゃねえ?」
そのそっけない言葉も
嬉しそうに笑って、照れ臭そうに頭をかく姿も
とてもとても嬉しくて。
この瞬間だけ
不安なんて感じなかった。
・・・・・
「あーっ、ダメだよクラピカ、そのまま飲んだら口紅取れちゃうよ。ほら、ストロー」
「え?・・・あ、すまない」
「クラピカ、ドレス踏んでる」
「・・・あ」
ゴンとキルアの指摘に、落ち着かない自分が見て取れる。
不安は募るばかり。
今の今まで、彼を信じて疑わなかった。
今でも心から愛している。信じている。
きっと、これからも。
でも、信じられないのは、自分。
あの日以来ずっと楽しみだったウエディングドレスの白さが眩しすぎて
私が着てはいけないような気さえする。
レオリオの妻に
なれるのだろうか。
こんな
私で――
その時、部屋のドアが開いた。
顔をあげられなかった。
誰かなんてわかっていたから。
足音で
気配で。
「じゃあ、オレたちもう行くから。ゴン、行くぜ」
「うん」
ゴンはいつからあんなに大人っぽくなったのか。
キルアはいつからあんなに気が利くようになったのか。
しかし今、二人の心遣いが幸いしたとは言いがたい。
顔をあげられない。二人きりの控え室。
近づいてくる足音を無視できない。
何でこんなに、不安になるのだろう。
そのとき、レオリオが私の名前を呼んだ。
いつものように
優しく。
そのまま、その大きな手で私の手を包み込んだ。
椅子に座っている私の目線に合わせるように、彼はしゃがみこんだ。
「・・・綺麗だぜ、クラピカ」
今日初めて
視線が合った。
いつだって優しいその瞳。
「なんで、そんな顔してんだよ」
絡み取る様な視線。
そらせなかった。
「・・・レオリオ、私は・・・分からない」
繋ぎあった手をぎゅっと握り返して。
「本当に、おまえと結婚していいのか・・・分からない」
そんなこと、言わなければ良かった。
言った瞬間、後悔した。
「・・・オレじゃ、だめか?」
悲しそうな瞳で
そんなことを言われたから。
違う。
違う。
・・・違う。
「違う。・・・レオリオじゃなきゃ・・・嫌だ」
矛盾した考え。
なんで上手くいかない?
なんで伝えられない?
このままでは
一番大事なものを失ってしまうかもしれないのに――
「オレはおまえと一緒にいて、幸せだぜ」
確かにそう聞こえた。
その瞬間、軽々と抱き上げられてふわりと体が浮いた。
「オレを幸せにしてくれよ。おまえがいなきゃ、何の意味もない。
クラピカがオレのこと、好きならさ」
大好きな笑顔が、そこにあって。
初めて自分から抱きしめて、キスをした。
怖かった。
幸せになるのが。
こんな人生の選択肢はあるはずなかった。
あってはならなかった。
全ては彼と出会ったあの日。
彼が私の全てを変えた。
「世界一可愛い花嫁だな、おまえ」
「・・・レオリオこそ、この上なく格好いいぞ」
引き締まった長身にタキシードが、本当によく似合っていた。
だから、素直に。
だけど、今日だけ。
今日だけは、素直な気持ちを心から伝えよう。
どんなことでも。
まだ分からない。
本当に、彼に愛されていていいのか。
彼を愛していいのか。
でも、これが私の人生ならば
神様が与えてくれたのならば
「・・・愛してる、クラピカ」
低くて甘い囁きは
私の耳元のピアスを揺らしながら、確かに聞こえた。
肝心の結婚式をやってませんね。式を。これは控え室でのお話です。
幸せいっぱいの結婚式。でも、どうしても不安は取り除けない。
むしろその不安の方が大きい。この文で、そんな思いを書けたでしょうか。
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