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これほどの幸せがあるのだろうか。






つづれ織り 03







目を開ける前に
そこにいるのが、すぐそばにいるのがレオリオだと、分かった。
心臓の音。香水の匂い。温かい肌の感触。
まだ半開きの視界に広がるのはレオリオの眠たそうな横顔。

「・・・お、起きたか?お姫様」
「・・・レオリオ・・・ここは?」
「ホテルだろ?何、おまえ、覚えてねぇの?」
そっと左手をとられて、薬指の指輪に長い指で触れられる。
「今日、ちゃんと結婚式しただろ?」
子供に言い聞かせるように優しく言い、彼自身も左手の指輪を光らせて見せた。

「失敬な、ちゃんと覚えている」
「ほんとかよ?」
そういう笑顔が好きなのだと
改めて思う。
その笑顔を見るたびに
私は顔が熱くなって弛緩してしまう。

「・・・それにしても、なんでこんなに部屋が暗いんだ?」
時間の感覚が分からなかった。気が付いたらここにいた。
ついているのはベッド際の柔らかいオレンジ色の照明だけ。
「なんでって・・・もう夜だからだろ?ほら」
時計を見ると夜11時。ベッドから手を伸ばしてカーテンをそっと開けると広がる夜景。

「ずっと・・・隣にいてくれたのか?」
「ああ、もちろん。慣れない事して疲れたんだろうと思ってそのまま寝かせといたんだけど・・・
オレの奥さんの寝顔があんまり可愛いんで、つい」
――そのまま隣で寝てしまったという。

「レオリオらしいな」
クスクスと笑うと、目元に優しいキスが降ってきた。

「言っとくけど、いろいろと大変だったんだからな?」
「・・・そうなのか?」
「・・・あんまり安心しきった顔で寝てるから・・・手ぇ出さずにいるのが一番大変だった」

驚いて目を見張れば、「ほら、その顔。・・・すっげぇ、可愛いよ」
大好きな笑顔でそう言われて、長い腕に優しく抱きしめられた。

私はなんて
なんて幸せなんだろう。

声がつまる。胸が熱い。
息も出来ないくらいに
もっともっと、強く抱きしめて欲しかった。
こんなに優しくしなくていいから。
もっと、強く。

言葉には出来ない。
だから、必死に大きな背中に腕を回して、広い肩に顔を埋めた。

「・・・クラピカ」
小さな声で囁かれて 目が合って
キスをされた。

だんだん激しくなってくる口付けに、とろけそうな舌。
レオリオはいつも優しく触れる。
壊れないように
痛くないように

でも、今回は違った。
少し強引で、奪うような
そんなキスだった。

顔の角度を変えるたびにベッドが軋む。
自然に絡む指を強く握り締められて
もっと強く握り返す。それが嬉しくて。

感情が昂る。きっと目を開いたら全てが緋色に染まっている。


レオリオとこういうことをするのは、初めてではない。
だけど、慣れるものでもない。
貧相な自分の身体を隅々まで見られるのは、やはり恥かしい。

「・・・クラピカ、ちゃんと全部見せて」

でも、こうして優しく抱きしめられて
耳元で甘く囁かれて
好きな男にこんなふうにされたら
矛盾でもなんでも許してしまう。

今も、怖くないといったら嘘になる。でもそれ以上に愛しさでいっぱいで、それ以外考えられない。

こういう感情が
愛なのだと

心から、そう思った。

レオリオの唇が首筋にゆっくり移動してきて、私は思わず肩をすくめる。
「・・・すっげぇ脱がせやすい服」
レオリオはクスクスと小さく笑う。
そのとき私が着ていたのはスリップ一枚。
脱がせやすいも何も、肩紐をずらしただけでするりと落ちてしまう。

中途半端に脱がされたまま、唇で、大きな手で、優しい愛撫を繰り返される。
なんだか初めてのような感覚。
心臓が爆発しそうなほどドキドキしている。

触れられるのが、こんなに幸せだなんて
思わなかった。























クラピカを抱くのは初めてな訳じゃない
でもなんだか初めてのような感覚になる。

雪のように白い肌は、触れるととても気持ちがいい。
キスを首筋に移すと、クラピカは小さく声をあげた。

次第に呼吸が深くなって、小さな乳房の先端を舌先で濡らすと、ぴくんとクラピカの身体は反応する。

せわしく呼吸をするクラピカの表情はなんともいえず刺激的だった。
いつの間にか瞳は深い緋色に染まっていて
その色に引き寄せられるかのように顔を近づけて、もう一度深く口付ける。
今までずっと押さえつけていたクラピカの手首を離して、小さな顔を包み込む。
自由になった両手で、クラピカは自分からオレを思いきり抱きしめた。

流れる汗が心地良かった。



初めてクラピカの緋色の瞳を見た時、とても綺麗だと思った。
と同時に、悲しい色だとも思った。

そして今、オレの腕の中で、緋色の瞳を潤ませながらオレを見つめる。
もうあの時のような悲しさはなかった。
ただ単に、いとおしい。



――私はこの緋色の瞳を誇りに思うが・・・
あまり好きではなかったのだよ。
私が緋の眼になる時は旅団への怒りがほとんどだった・・・
だから、私には緋色が、血の色に見えて――



緋の眼はクラピカにとって負い目でしかなかったかのように、いつかこう言っていた。
それを聞いてから、クラピカと抱きしめあうたびに緋色の瞳にオレの姿を焼き付けて、オレだけを見ろと囁いた。

気高くて、美しくて、その緋色がクラピカである証しなのだと告げた。

いつしか、この緋色の瞳はレオリオの為にあるものだと、言ってくれるようになった。
こんなに澄んだ色は、レオリオの前でしか出せない、と――。

そしてこうして、オレだけに見せてくれる世界で一番美しい色で、オレを愛してくれている。

それが不器用なクラピカの、オレへの愛の証し。












「・・・レオリオ・・・?寝てるのか・・・?」

眼が覚めるとレオリオの規則正しい寝息と安心しきった顔が見えた。
カーテンから柔らかい光が差し込んでくる。
もう朝か――。

眼が覚めて意識がはっきりするとともに、昨晩の記憶がよみがえってくる。
思い出すだけで赤面してしまう。
いたたまれなくなってベッドから出ようとしたが――・・・

その瞬間、私は涙を流してしまった。
レオリオがしっかりと私の手を握っていてくれた。その手にはダイヤの指輪。
やっと一緒になれたことを、こうして形として実感することが出来た。

「なに泣いてんだよ?クラピカ・・・」
はっとして顔をあげると、そのまま抱き寄せられて、頬に優しく口付けられる。

「す、すまない、起こしたか?」
「いいって。それより・・・もう不安になることなんて、ないだろ?」

改めて見上げた彼の顔は、鮮やかに澄んだ、美しい緋色の先に映った。

「綺麗だ、クラピカ・・・愛してる」
震える声で強く抱かれたことを、私は決して忘れない。



クラピカの緋の眼の話はいつか書きたかったのです。
ちょっとですが、ここでこうして触れることができてよかったです。
2007/12/14

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