生まれてきてよかった
レオリオに会えてよかった
愛してくれて
愛し方を教えてくれて
ありがとう

あのやさしい笑顔で受け止めてくれると信じている
愛し合った結果として授かった新しい生命を――






つづれ織り 04






たまの休日。今日はのんびり過ごそうと、二人でソファに座っているときだった。
「なぁクラピカ」
「なんだ?」
「オレさ、そろそろ子供が欲しいな」

何気なく言ったわけじゃない。
ずっと前から、いろいろな面を考えた挙句出した結論。

「・・・レオリオ・・・」

オレは医者になれた。
クラピカはオレと一緒にいることで生きる意味を見出してくれた。
そして最近はおいしい料理も作れるようになっていた。

結婚して一年。何の障害もなくなった。
今までの一年間は、二人でいられること以上の幸せは有り得ないと思っていた。

しかし友人夫婦に子供ができた話を聞いて、オレは気が付いたんだ。
――愛の証がほしい、と。

「・・・ありがとう、私も、同じ気持ちなのだよ」
クラピカはオレの手を握って、嬉しそうに微笑んだ。

しかし一つだけ心配なことがあった。
クラピカの身体で、子供が産めるのだろうか。
オレが見てきたクラピカは、生死ギリギリの無茶ばかりしていた。
瀕死の状態を繰り返し、ついには念能力も失ってしまった。
もしかしたらオレと逢う前のクラピカの人生は、もっともっと苦しいものだったのかもしれない。

ひどい難産で、もしかしたら、命を落とす可能性だって、あるかもしれない。
夫である前に、医者だからこそ、最悪のケースを考えてしまう。

そのことをクラピカと話し合い、病院で検査を受けることになった。
オレは吉報を祈った。




一週間後、いつものように帰宅すると、クラピカは泣きそうな顔でオレを出迎えた。
びっくりして理由を聞くと、震えた声でこう言った。
「今日病院へ行ってきて・・・、検査の結果を聞いたんだ。
――問題ないって・・・よかったですねって、言ってくれたんだ・・・」

まるで子供のように声をしゃくりあげて、クラピカは泣き続けた。
オレもクラピカを強く抱きしめて、泣いた。

その夜、オレたちは狂ったように愛し合った。
のどが渇いたのも忘れ、一つになることの喜びをかみしめていた。

避妊をしないセックスは初めてだった。
数ミリの壁がなくなっただけで、こんなにも違う。
「本当にレオリオと一つになれた」と、クラピカはオレの腕の中で、また泣きじゃくった。

数ヵ月後、なんだか身体の調子がおかしいというので、クラピカを病院につれていった。
こんなことは初めてなので、オレは正直とても心配だった。
受付前のベンチにいて、とは言われたものの、大人しく座っていられるはずもなく、廊下を行ったりきたりしなければ身が持たなかった。

「――クラピカ!大丈夫か?」
数十分で戻ってきたクラピカに駆け寄り、うつむき加減の顔をのぞきこむ。
「産婦人科に行ってきた」
「・・・・・・・・へ?」
「おなかの中にあかちゃんがいるそうだ」
照れたように、それでも嬉しそうに微笑むクラピカ。

きっとオレは、この上なくマヌケ顔だったと思う。

「・・・・・・・・ほっ、ほんとか!?」
「本当だ」
「――ッ、やったなクラピカ!!毎晩がんばった甲斐があっ――」
「声が大きいー!!!!」

バコン。
感激のあまり人がたくさんいる受付の前でクラピカを強く強く抱きしめて、余計な一言まで言ってしまって、ひっぱたかれた。
クラピカの鉄拳は、けっこうイタイ。

「ほらっ、帰るぞ!!恥かしいっっ」
気付くと周囲の人がおかしそうにクスクスと笑っていた。
クラピカは顔を真っ赤にして、オレの手を引いてずんずんと進んでいった。

その帰り道、オレはクラピカにいろいろな注意をした。
「いいかクラピカ、妊娠中は絶対に無理な動きをするなよ。
転んだりしたらダメだからな?」
「大丈夫だ、心配ない」
「も、もしなんかあったら、すぐに電話しろよ!?」
「わかっているよ」
「掃除とか洗濯とか料理とか、しなくていいから!」
「それはちょっと心配しすぎではないのか?」

必死にクラピカに詰め寄るオレを、クラピカはおかしそうにクスクス笑う。
「な、なんだよ、しょーがねーだろ、初めてなんだからよ・・・」
「初めてなのは私も同じだ。無事に出産できるように今から猛勉強だ」

ふと通りがかった、ベビー用品専門店の前で、オレは足を止めた。
「レオリオ?」
「なあ、ここ寄ってかねぇ?」
「な、まだ全然先の話ではないか!ちょ、レオリオ!」

嫌がるクラピカの手を引っ張って、オレは可愛らしい雰囲気の漂う店内へと入る。
こんな店に入るなんて、まったく初めてだ。

「うわ、ちっさい服!すげぇよなあ、赤ん坊ってこんなに小さいんだよな」

ひとりはしゃぐオレを、クラピカはまるでおまえが子供のようだと言った。
夫としてオレに何が出来るのか、クラピカの力になってやれるか、その答えを探すことで、頭がいっぱいだった。

気が付けば、クラピカのお腹は日に日に大きくなっていった。
それにあわせるように、クラピカの髪も少しずつ伸びていった。

「なあ、レオリオ?」
二人きりで過ごせる日曜日、よく晴れた青空の下を、ゆっくりと散歩しながら公園へ向かう。
「なんだか、最近この子がおなかの中で暴れるのだよ。自分の中にもう一つの命があるなんて、なんだか不思議だな」
「女性にしかできないことだからな、感謝するぜクラピカ。
ちょっと、さわっていいか?」
「もちろんだ」

確かに、動いている、生きていると分かった。
柄にもなく、男泣きしそうだった。

満月の、静かな夜だった。
クラピカが突然苦しみだした。オレは飛び起きて、クラピカを抱えてすぐさま病院に駆け込んだ。

大丈夫、大丈夫だからという医者の言葉を信じるしかできなかった。
この時オレが出来るのは、信じて待つことだけだった。

一体何時間、たったのだろう。
時間の感覚も分からぬまま、ただひらすらベンチに腰掛けて待つしかできない。

そして、朝が来ると同時に静けさを掻っ切るような産声が聞こえた。

その時のことで覚えているのは、「男の子ですよ」という医者の声と、汗だくで微笑むクラピカの顔だけだった。

その時のオレは、クラピカの手を握ってやることと、「ありがとう」を繰り返すことしかできなかった。


・・・・・


なあ・・・レオリオ?
私は本当は怖かったんだ。
私に産めるのか・・・
死なせてしまうのではないかと、本当に怖かったんだ。

でもおまえのおかげで、不安になることがなかった。
そばにいてくれて・・・ありがとう。



2007/12/14
NEXT

BACK