この街で君と暮らしたい 11



祭りの帰り道。
クラピカはべらべらしゃべるオレの横で、小さく微笑んでいた。
愛想笑いなのか
よくわからなかったけど、とりあえず飽きてはなさそうな、そんな顔だった。

今思うと
クラピカは愛想笑いなんかしない・・っていうかできない。


夏、じわりじわりと暑い熱帯夜だけど、クラピカの周りはなぜか涼しそうだ。
サラサラの金髪とか、白い肌とか、触れたらひんやり気持ち良さそうだった。
・・・オレはムッツリなのか。

オレが話すのはくだらないことで
それでもときどきクラピカはこちらを向いて、にっこり笑った。

か・・・・・
かわいい・・・・・

最初の無愛想はどこいったんだ?
オレは家に着くまで、もやもや(むらむら)しっぱなしだった。



こうして一緒に家に帰れる人がいること。
当たり前だけど幸せだ。

今日も例外ではない。
一緒にこの部屋に帰ってきた。もう10時過ぎ。
相変わらずの六畳一間。
「えーっと電気電気・・・」

ドアを開けて電気のスイッチを手探りで探す。
玄関のすぐ横の壁にあるのだが。
どうにもやっぱり真っ暗で、なかなか探し当てられない。

「もっと上じゃないのか?」
オレの後ろからクラピカがひょっこり出てきて背伸びをして壁に手を這わす。

「ちょ、あぶねえって!」」
「お、おまえがでかすぎるのだよ!・・・っ!!」

ただでさえ狭い玄関。
二人でもたもたしていたら、部屋の中へ倒れこんでしまった。
幸か不幸か
そのはずみに電気のスイッチに手が掛かった。
部屋の中がぱっと明るくなる。


ああ
なんて、なんてワンパターン。

もたついて押し倒してしまうなんて
お約束すぎる。


しかもちょうどよくクラピカが下になって、オレの腕の中。
なんだかあぶない構図だが、オレはちょっと後悔した。
オレが下ならよかった。
だって固い畳の上にモロに倒れてしまったクラピカは
結構痛かったはずだ。

でもそんな心配はなかったと、今気付く。

布団がしいてあった。
ちょうどその布団の上に倒れこんだのだ。

いやまてよ。
出かける前は布団はたたんであったはず。



・・・・


・・・・・


あ。
祭りのときの、大家夫人の言葉をふと思い出す。


”レオリオさん?今日辺りかしらねぇ。準備はちゃんとしておいたから、安心してね”

準備はちゃんとしておいたから

準備

準備ってフトンですかーーーー!!!

ししししかも勝手に人の部屋に合鍵使って入りやがって・・・!
いやでも大家だからいいのか・・・(そういう問題じゃない)

頭の中でツッコんだつもりだったが、顔に出てしまった。
「・・・どこか打ったのか?平気か?」
それまでの短い沈黙を破るようにしてクラピカが口を開いた。
打ち所が悪かったのかと思われるほど、オレはアホな顔をしていたらしい。

「いや平気。それより悪いな、重いだろ。すぐどくから・・・」

急いで起き上がろうとしたその瞬間。

クラピカはオレの浴衣の襟元をちいさく引っ張った。
まるで顔を近づけるように。


オレはそのまま硬直する。(ついでに下半身も硬直する)
体重を支える腕がしびれてくる。
クラピカは泣きそうな仔猫みたいな瞳でオレを見つめている。

おいおいおい
ちょっと待て。

いいのか?いいのか?
クラピカはさっきファーストキスしたばっかなんだぞ?
それから何時間もたってないんだぞ?

あっ
オレとしたことが!!!!!
まさかこんな予想外の展開になるとは思っていなかったから
アレの・・・ゴムの準備をしていない・・・

ん?
いや・・・
ずっと前のがまだ残ってるかも・・・(使い切ってなかったし・・・
探せばあるかも・・・
いやでもそれまでクラピカを待たせるわけには・・・

くだらないがオレにとっては重要なことを脂汗を流しながら考えていると
クラピカは静かに目を閉じた。

薄く開いた桃色の唇に、長い睫毛。
まさにその距離10センチ足らず。

オレがうだうだしているうちに
先手をとられてしまった。
これは・・・男としてちょっと・・・いやかなりショックだ。


ああ、なんだか
ドキドキしてきた。
緊張してきた。

心臓の音がすごい。脈打つ音がはっきり聞こえる。
め、めまいまでしてきた。


1分。
2分。

時間は過ぎていく。
ついに拳に力を入れて気合を入れる。



・・・ん?

クラピカはさっきからびくとも動かない。
目を閉じたまま、口を薄く開いたまま。

耳を澄ましてみる。
「・・・」

スー。スー・・・。


聞こえてきたのは規則正しい寝息。
他の誰のものでもない、明らかにクラピカのものだった。

試しに軽く唇にキスをしてみる。
起きない。

「・・・クラピカちゃーん」
名前を呼んでみる。
・・・起きない。


寝てしまった・・・・。


でもまあ
寝顔もかわいいからよしとしよう。
オレがクラピカとエッチできる日は
来るのでしょうか。




つづく